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一鬼目 転校生

久しぶりの学園。

だからといって特に何があるというわけでもなく…。


夏休みに入る前と同じように教室へ赴く。


時折知り合いが「久しぶり!」とか声をかけてくれるが、真希は「あぁ」と片手をあげるだけでそっけない。


いや、これが彼の普通なのだ。


真希はあまり目立ったことをしないタイプで、友人と言える友人も少ない。


しかし嫌われているかというとそうではない。


むしろそのクールな態度とそこそこイケたフェイスに、彼を想う女子も少なくない。


しかし如何せんクールな為近づき難く、その想いを彼女らが伝えることはなかった。



真希は教室に入ると、真っ直ぐに自分の席に―――、


「おー!マキ、久しぶりじゃーん」


向かえなかった。


「………」


無視して進もうにも、ガッシリ後ろ襟を捕まれていて進行不可能。


「四季、離せ。俺を解き放て」

「そいつは無理な相談だな…なぜなら夏休み中一回も遊んでくれなかったからだ!」


それは悪かったと思っているが…真希にだって色々とあるのだ。


真希の家は両親がいないので、現在高1の妹、美姫《ミキ》と交代で家事をやっている。


そのため、遊ぶ暇などなかったのだ。


家事がない日は家の中でずっとゲームをしているし。


あぁ暇がない暇がない。


ちなみに真希と美姫は血が繋がっていない。


真希の母親がこの世を去ってからすぐに、真希の父親がどこかから貰い受けたらしい。


真希も美姫も幼かったので全く覚えていないが。



それにしてもこの白樺四季《シラカバシキ》、力が強すぎる。


振りほどこうにも振りほどけない。

「まぁ待てって。実は今日転校生が来るらしいという情報を手にしてな」

「興味ない」


歩こうとする…が、やはり無理だ。

四季の腕はピクリとも動かない。


「ちょちょちょちょ!待てって、まだ話の途中…」


その時、


キーンコーンカーンコーン…。


ナイスなタイミングでチャイムが鳴った。


そしてそれと同時にガラッと勢い良く真希らの担任、頼れる親分が入ってきた。


「おらお前ら席に着けやー」


ダンッと教卓に出席簿らしきモノを打ち付けて、東雲皐月《シノノメサツキ》は夏休み前と変わらない少々けだる気な口調で呼びかける。


今だとばかりに四季を振り払い、真希は自分の席に着席。


四季も、諦めて自分の席に向かっていった。

「よぉし全員来てるな。…さて、まだ夏休み気分も抜けきってねぇだろうが、始まってしまったもんは仕方ない。気合いでなんとかしろ」


さっちゃんも抜けきってないんじゃないのー?と誰かが余計なことを言う。


皐月は声のした方をキッと睨み、


「さっちゃんって呼ぶな!確かに抜けきってねぇが…あたしはいいんだ!」


そりゃねぇだろう。

ちょっとした職権乱用だ。


しかし相手は親分、誰も文句など言えはしない。


「あ、忘れてた。おーい転校生、入っていいぞ」


その声が教室に響いたと同時、ガラッと扉が開き、生徒の視線は転校生に集まった。


入ってきたのは、長い髪をふわふわにウェーブさせた少女だった。


その美しさ、可憐さに、男女問わず目を奪われた。

「どうした、美人すぎて声も出ねぇか?ったくだらしねぇ…ほら、自己紹介してくれ」


皐月に促され、少女は桜色の唇を動かした。


「百之木夜胡《モモノキヤコ》です。皆さん、どうぞよろしくお願いします」


その透き通るような声に、生徒達は心さえ奪われた。


しかし…真希だけは違った。


「この…声は…」


自分の頭の中に響いて消えなかった、あの時自分を生かした…あの声だった。


聞き間違うはずがない。

あれだけあの声には悩まされたのだ。


その声の主が今、目の前にいる。



「席は…真希の隣が空いてるな」


あそこに座ってくれ、と言う皐月にコクリと頷き従う夜胡と名乗った少女。


いいなー真希。ずりぃよなー。


そんなクラスメイト達の野次が飛ぶが、真希はそれどころではなかった。


動悸が高まる。呼吸が早まり、息苦しさを感じる。


少女は真希の隣に座って言った。


「よろしくお願いしますね、瀬々良木くん」


ぞっとした。


誰も名字で呼んでいないのに、どうして…。


その後真希は一日中上の空で、まともになったのは放課後のことだった。



――★―――★―――★―――



ピンポーン。


瀬々良木家のインターホンが鳴る。


時刻は夜中の11時半。真希も2階の自分の部屋でそろそろ寝ようかとしていた時だった。


「お兄ちゃーん、なんか女の人が来たよー?」


まだ下のリビングにいたらしい美姫がよんでいる。


むくりと起き上がり、誰だよこんな時間に…とぶつぶつ言いながら階段を降りると、美姫がニヤニヤしながら、「彼女?」と聞いてきた。


いねぇよ、と言って玄関に立っている人物を見た瞬間―――四肢が凍りついたように動かなくなった。


「夜分遅くにごめんなさい、どうしても話したい事があって…」


百之木…夜胡だった。


「なんで…」

「あら、私と瀬々良木くんの仲じゃない。ここじゃ話しづらいから…行きましょ」


グイッと袖を引っ張られる。


嫌だ。


本能が警告する。


行くな…行くな行くな行くな行くな行くなイクナイクナイクナイクナイクナイクナ!!


「…ね?」


夜胡の瞳が妖しく光る。


その瞳に魅入られたように、真希の体は意思とは関係なく動き出した。


「帰って来なくていいからねー」


若干嫉妬のようなモノが混じった美姫の声が遠ざかっていく。


本当に…帰れなくなるかもしれない。


夜胡は真希を引っ張りながらクスリと笑った。

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