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温泉ツーリング同好会へようこそ  作者: 秋山如雪
第2章 ほったらかし温泉
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5湯目 いざ温泉へ

 ひょんなことから、温泉ツーリング同好会に入ることになった私。


 最初の活動は、日曜日の日中だった。

 5月中旬。まだそれほど暑くもなく、寒くもない、1年のうちで最も快適な気温のこの時期。

 最近は、温暖化で夏が異様に暑いため、このくらいの時期が一番いい。


 ある日の放課後、部室に向かうと、まどか先輩が、

「日曜日は、せっかく来てくれた瑠美の歓迎会も兼ねて、一番有名な温泉に向かうぞ」

 と切り出した。


「まどか。またあそこに行くの?」

「ああ、文句あるか」

「別にいいけど」

「ワタシもいいヨ!」

 まどか先輩と琴葉先輩のやり取りの後、フィオもまた歓喜の声を上げていた。


「どこに行くんですか?」

「ほったらかし温泉だ」

 まどか先輩の回答に、私はすぐに納得した。


 甲州市の隣の山梨市の丘の上にあり、富士山が見えることで有名な温泉で、県内外から多くの観光客が訪れることで知られている。もっとも、今まで温泉にはさほど興味がなかった私は一度も行ったことはなかったが。


 早速、日曜日の午前10時に塩山駅前で待ち合わせとなった。

 私は、いつも通学に使う50ccのディオで向かう。もっとも、現状はこのバイクしかないのだが。


 そして、向かった先には、私が見たこともない、彼女たちの姿があった。


 まどか先輩は、いかにもバイクという、むき出しのエンジンと、丸目のヘッドライト、楕円形のタンク、オーソドックスなフロントフォークが特徴的なネイキッドの漆黒のバイク。

 そう、このバイクは確かヤマハの。


「まどか先輩。SR400ですか? カッコいいですね!」

 父から聞いていた、未だに「キック」をしてエンジンを始動させる、風変わりで、昔ながらのバイク。


「そうだ。バイクはキックしてナンボなんだ。キックこそバイクの醍醐味!」

 まどか先輩は相変わらず、よくわからない理論を展開して、得意げに吠えていた。


 そんな彼女は、薄手の紺色のライダースジャケット姿に、ジーンズ。ヘルメットは鮮やかな群青色のジェットヘルメットを使用している。だが、シート高が790ミリはある、SR400に、身長145センチの彼女が乗って、足がつくのだろうか、と心配になっていたら、きっちりローダウンシートを採用していた。


 これについては、カッコ悪くなるという異論もあるだろうが、彼女は自らが「乗る」ために妥協したのだろう。


 続いて、赤茶色のライダースジャケットを羽織って、チノパン姿に、特徴的な、珍しい黄色のジェットヘルメット姿の琴葉先輩。

 こちらは、シート高は、SR400と同じくらいに見えるが、長身の彼女なら問題なくまたがれるバイクで、先端が細長いクチバシのような形状になっているのが特徴的な黄色をメインにした配色のアドベンチャータイプのバイク。


「琴葉先輩のバイクは何ですか? 変わってますね?」

「スズキ Vストローム250よ」

 初めて見るそのバイクは、私には非常に特徴的に見えた。走行性能はわからないが、頑丈そうには見える。


 そして、もっとも目立っていたのが。

 真っ赤なスポーツカーを思わせるような外見で、むき出しのエンジンの上側にトラスフレームと呼ばれる、橋の欄干のような特徴的な構造を配し、SR400と同じように丸目のヘッドライトを持っている。見たこともないネイキッドのバイクだった。


「フィオのは?」

 彼女は先輩だが、敬語は不要と言われて以降、私は友達のように接するようになっていたし、感情表現が豊かで、物怖じしない性格の彼女はもちろん気にもしていなかった。


DUCATI(ドゥカティ) Monster(モンスター)! ホントはもっと大きいの乗りたいんだけどネ」

 と、いつも通りの明るい表情で誇らしげに答えていた。


 フィオは、オシャレで、高そうな黒い革ジャンに、同じく革のズボンを履いていた。おまけに、バイクと同じ深紅のフルフェイスヘルメットを持っており、いかにもスポーティーな格好だった。

 しかも、いつものポニーテールではなく、長い髪を下ろしているが、綺麗なブロンドヘアーを持つ彼女は、色んな意味で目立つ。


 結果的に、50ccの私だけが明らかに「浮いている」。

 先輩たちは、そのことを気にもしていなかった様子だったが。


 早速、まどか先輩の先導で、ほったらかす温泉に向かうことになったが。そこまではここからわずか20分程度だ。


 もはやツーリングとは言えない、近所だったが、恐らく50ccの私に配慮してくれたのだろう。そう考えると、少し申し訳なく思った。


 そして、この短いツーリングとも言えない走行で、最も特徴的だったのは、私のすぐ前を走る、フィオのドゥカティ モンスターだった。


 低く唸るようなエンジン始動音から発生し、走行時も他のバイクとは違う、特徴的なエンジン音を響かせていた。


(フィオ。ちょっとカッコいい)

 その走りも堂々としていて、3人の中では一番目立っているし、何よりも運転者が可愛らしいから、そのギャップが映える。


 坂道を登って、あっという間に温泉に着いていた。


 ほったらかし温泉。

 ここは、「こっちの湯」と「あっちの湯」に別れている。

 噂によると、あっちの湯の方が広いらしい。


 どちらからも富士山が見えるが、まどか先輩は、

「両方入るぞ!」

 と意気込んでいた。


 そして、初めての部活動で、私は彼女たちの意外な一面を見ることになるのだ。

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