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温泉ツーリング同好会へようこそ  作者: 秋山如雪
第8章 上諏訪温泉
29/41

29湯目 長野県へ

 秋が深まる11月。やっと、バイクで走るには快適な時期になったが、朝晩は油断をすると、一気に風邪を引くくらいに気温が下がってくる。


 もっとも、バイクにとっては、ある程度気温が低い方が、調子が良くなると聞いたことがある私にとっては、いい季節になったと思うと同時に、温泉にとっても、秋は一番いい季節と言える。


 そして、例によって、会長のまどか先輩の鶴の一声で決まった、初の「県外ツーリング」企画が、着々と進行していた。


 11月初旬の日曜日。

 天気は快晴の、清々しい秋晴れだったが、放射冷却現象により、寒い朝を迎えていた。


 塩山駅前にほど近い、私たちがよく待ち合わせに利用する、大きな駐車場を持つコンビニが、待ち合わせ場所になった。


 1番手はある意味、予想通りの、真面目な琴葉先輩。特徴的なクチバシのような尖端を持つ、Vストローム250が既に停まっていた。

 彼女は、さすがに寒いのか、厚手のライダースジャケットに、ネックウォーマーまで装備してきていた。


「おはよう」

「おはようございます」

 他愛のない会話をしているうちに、すぐにまどか先輩が来た。


 銀色に輝くSR400に乗る彼女は、今日は黒い革ジャン姿だった。

「おはよう。やっぱフィオはまだ来てないか」

「そうね。いつも通りだけど」

 そんな二人のやり取りに、私は苦笑に似た笑いが漏れていたが、まどか先輩に言わせれば、数人でツーリングに行く時には、大抵一人は、こうして「遅れる」奴がいるという。


 もっとも、大雑把で、適当なところがある割にはまどか先輩は、意外なくらい時間には正確だったが。


 例によって、20分ほども遅刻して、フィオが深紅のモンスターに乗って登場。

 目立つ赤いジャケットを着ている上に、下はレーシングスーツのような、ピッタリしたレザーパンツ姿だった。


「ごめーん」

 もはや誰も咎めることすらしないくらい、彼女の遅刻は「予定調和」になっていた。


 コンビニで、朝のコーヒーを買い、私たち4人は輪になって飲むが。その中で、

「今日は、長野県まで行くが、金がもったいないから、往復下道だぞ」

 まどか先輩の一言に、異議を唱えたのが、他ならぬフィオだった。


「ええーっ。長野まで下道? かったるーい」

「正確には、諏訪すわ湖までだ。そんなこと言うなら、お前だけ高速で行けばいいだろ? このブルジョワジーめ」

 まどか先輩が恨みがましく、フィオを細目で睨みながら、言い放っていた。


 彼女の言いたいこともわかる。高校生の身では、高速道路の料金でさえ、大きな負担になる。だが、家が金持ち(と言われている)フィオだけは、そんなの関係ないのだろう。


 琴葉先輩は何も言わなかったが、彼女の家も父子家庭だから、裕福なわけではない。もちろん、私もそうだった。


「そんな~。瑠美、まどかがいじめる~」

 途端に、私に泣きつくように、腕にしがみついてくるフィオが、可愛らしいのだが、ここは彼女に同調はできない。


「フィオ。下道もいいもんだよ」

 やんわりと、一応は、傷つかないように言ったつもりだったが、


「でも、メンドくさいんだヨ、下道は。国道20号、混むし」

 彼女の言いたいこともわかる。


 国道20号、通称「甲州街道」。東京都中央区から長野県の塩尻市までを結ぶ、言わば大動脈でもある道だが、この甲州街道のうち、山梨県内中心部の甲府市周辺はいつも渋滞しているのだ。


 もっとも、昔はバイパスすらなかったから、これでもよくなった方らしい。だが、日中は特にトラックや観光目的の自動車、バスなどで混雑する区間だ。


「文句を言うなら、お前は来なくていい」

 冷たい一言を浴びせるまどか先輩が、真っ先にコーヒーを飲み干して、さっさと自分のバイクに向かって歩き出していた。


「わかったヨ。行くヨ」

 渋々ながらも了承して、自分のバイクに向かうフィオが、少しだけかわいそうにも見えたが、こうして、私にとって「初の県外ツーリング」は、少しだけ波乱のスタートを切ったのだ。

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