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温泉ツーリング同好会へようこそ  作者: 秋山如雪
第7章 赤富士の湯と下部温泉
26/41

26湯目 赤富士の湯

 丁度、11時くらい。この施設の営業開始が11時だったので、早速、この「赤富士の湯」に4人で入ると。


 中も広々としていて、食堂はもちろん、仮眠用の専用ルームまで完備されていて、至れり尽くせりの状態だった。


 早速、温泉に入ることになるが。


 まず、室内からして大きい。

 洗い場も余裕があり、その上、広い浴槽、全身浴、ジェットバス、気泡湯、寝湯、ぬる湯まで整っている。


 そこで、4人でまとまって、広々とした浴槽に入ると、いつものように、「温泉ハカセ」の解説が始まった。


「ここはね。美人の湯とも言われる温泉で、PH10.3という非情に高いアルカリ性を有しながらも、マイルドで、世界的にも珍しいアルカリ性単純温泉なのよ。効能も神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、打ち身、くじき、慢性消火器病、冷え性などなど、ものすごい効果的なの」


「お前。もう温泉学の博士にでもなれば? 相変わらず、大学教授みたいだな」

 その説明に、彼女の幼なじみのまどか先輩が、少々呆れたように口に出していた。


「なっ。誰がおばさんくさいですって?」

「そんなこと言ってねえって」

 言い争いになっているが、なんだかんだで、付き合いが長い二人は息が合っているように、私には思えた。


「赤富士って、何ですか?」

「ああ、それ」

 今度は、私の質問に、先輩は丁寧に答えてくれるのだった。


「元々、富士山は青っぽく見えるものだけど、晩夏から初秋にかけての早朝に、雲とか霧の関係で、富士山が赤く染まって見えることがあるの。その現象を『赤富士』って言ってね。葛飾北斎の『富嶽ふがく三十六景』にも描かれたのよ」

「へえ」

 納得しながらも、私自身も、まどか先輩と同じように、琴葉先輩は、「大学教授」っぽいと思うのだった。


 元々、この人、まどか先輩から聞いた話だと、成績がいいらしいし、頭がいいようだから、尚更だった。


「フガクサンジュウロッケー? そんなことより、早く外に行こうヨ! 富士山が見えるよ!」

 一方、イタリア娘のフィオにとっては、浮世絵などよくわからないことなのか、興味がないのか、一人勇んで、風呂を上がり、外へ続くドアを開けてしまった。


 慌てて、私たち3人も後を追って、外に出た。


 そこから見える景色は、まさに「絶景」の一言だった。

 すぐ目の前に近いくらいの近距離に、雄大な富士山がデカデカと見える。この時期だと、すでに富士山の山頂付近は、薄っすらと雪をかぶって、白く輝いており、視界前面には遮るものがなく、富士山を臨みながら、風呂に入れるという、大パノラマが広がっていた。


 しかも、まだ開店直後で、日曜日にも関わらず、あまり人がおらず、窮屈感がなかった。


「すげえだろ?」

 幾分か、ドヤ顔を向けて、得意気にこちらを見ながら、まどか先輩が、浴槽に入った。


「確かに、すごいですね」

「ええ。ここには、わたしも何回か来たことがあるけど、いつ来ても、この絶景には感動するわ」

「Monte富士はいつ見てもサイコーだネ!」

 私も、琴葉先輩も、フィオも、もちろん、この絶景による感動に対して、全く不満なんてあるはずもなかったから、互いに頷き合う。


 後は、ひたすらお湯に浸かりながら、富士山を鑑賞する回となったが。


 外気温がそれほど、暑くもなく、寒くもないため、この日の入浴は、実に快適なのだった。


 実際、真夏の温泉は、暑すぎてあまり長湯できないし、逆に冬場は寒すぎて、風呂からなかなか上がりたくなくなるものだが、この日は気象条件と天候、湿度、いずれも整っている、実にツーリング日和、いや温泉日和な一日だった。


 結局、長湯してしまい、昼過ぎに上がり、そのまま食堂で、昼食を摂ることになった。


 しかも、先程、朝からほうとうを食べていた、まどか先輩とフィオは、

「あんま腹減ってねえな」

「ワタシもー」

 と言って、カレーしか注文しなかったため、


「朝からあんなに食べるからでしょ? お調子者ね」

 琴葉先輩に呆れられていた。


 ちなみに、私は生姜焼き定食、琴葉先輩は豚スタミナ丼。


 食後、

「よっしゃ! 次の温泉に行くぞー!」

「おおっ!」

 異様にテンションが高い、まどか先輩とフィオが、さっさとバイクにまたがってしまい、呆れ顔の琴葉先輩が肩をすかして、後を追い、私が最後に続いた。


 温泉はしごツーリングは続く。


 しかも、そこから市街地を抜けて、走ること50分あまり。

 再び林に包まれた快適な道をたどり、本栖湖の湖畔に近い、トンネル付近まで来ると。


 再び、バイクを停めたまどか先輩と、フィオが、バイクから降りて、写真を撮っていた。


 富士山だ。


 この本栖湖畔から見る、富士山もまた絶景として知られており、気象条件が整うと、見事な姿を見せる。


 私にとっては、バイクでここまで遠いところまで来たのが初めてだったから、慎重にと思い、割とゆっくり目に走ってきたが。


 ここでの小休憩は、確かに良かった。

 道端にバイクを停め、そのバイクを背景に富士山を撮影する。


 何故、バイク乗りが、自分のバイクと景色を一緒に撮影するのか。その理由が、私にはよくわからなかったが、実際に乗ってみて、富士山を間近に見ている今なら、わかる気がした。


 結局のところ、バイク乗りは、自分のバイクが「一番」だと思っているし、そのくせ、変に「バイク乗り」同士の連携というか、一体感を大事にする。


 変わっているというか、妙な人種だ。


 ここで、出発となるが、意外にもまどか先輩から私に声がかかった。


「瑠美。ここからの下りは、結構キツいし、急カーブが続く。お前は、まだ乗り始めだから、気をつけろよ。飛ばすと事故るぞ。琴葉、悪いけど後ろから瑠美を見守ってやってくれ」

「わかったわ」

 なんだかんだで、このまどか先輩は、「面倒見がいい」というか「おせっかい」なのかもしれない。

 琴葉先輩に関しては、言うまでもなかったが。


 結局、フィオを先頭に、まどか先輩、私、最後に琴葉先輩と続くことになった。


 そして、ここから先に続く、トンネルを越えた先。

 国道300号、通称「本栖みち」とも呼ばれる、所謂三桁国道が、私的には確かに「ヤバかった」。


 カーブの連続と、急な下り。しかも、このKTM390 デュークは、単気筒のくせにパワーがあるので、少し油断をすると、飛ぶように加速する。


 まどか先輩が言うように、調子に乗ってスピードを出せば、簡単に対向車線にはみ出すか、逆にカーブを曲がり切れずに、道路外に吹っ飛んでしまうだろう。しかも、カーブの先には深い森が広がっているから、一たまりもない。


 そんな中、先頭を突っ切るフィオの運転はさすがだった。


 慣れているのか、どんどん引き離し、しかもバイクの車体をかなり傾けて走っている。


 まだ、乗り始めたばかりの私には、怖くて出来ない芸当だった。


 恐らくまどか先輩も、これくらいは出来るのだろうが、彼女は私のことを気遣ってくれているのか、ちらちらとバックミラーを見ながら、いつもより遅めに走っていたし、後ろの琴葉先輩に至っては、いつ私が事故や立ちゴケに遭っても、救助できるように、まるで警察官のように、ぴったりと一定の距離を取って、着いてきていた。


 逆に、私はその動きが正確すぎて、怖かったが。


 後で知った話だと、この道には、「本栖みち」の他に「甲州いろは坂」という別名もあるらしい。


 それだけ、クネクネと曲がりくねった道だ。


 ようやくこの難所を乗り切って、下り終えると、小さな川を渡り、続いて単線の線路を乗り越え、目的地にたどり着く。


 下部温泉だった。

 そこの、下部温泉会館という、古い建物が、まどか先輩の目指す場所だった。

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