サバイバル//物理的接触
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──サバイバル//物理的接触
マトリクスでの戦いが始まっている中、東雲と呉は敵を待ち構えていた。
「サイバーサムライの相手はあんたに任せる。俺は残りの相手だ」
「了解。だが、1対3だぞ?」
「どうにかするさ」
これまでだってどうにかしてきたんだと東雲は語る。
「車の走行音。近づいてきている」
「おいでなすったか」
東雲は“月光”を構える。
「車両停止。歩行音、複数。音からして機械化した人間のそれだ」
「どんぴしゃり。歓迎して差し上げましょう」
次の瞬間、倉庫のシャッターが蜂の巣にされる。
「来やがった! 下がってろ、呉!」
東雲が“月光”を高速回転させて、銃弾を防ぐ。
ガトリングガンの掃射ののちにロケット弾でシャッターが完全に吹き飛ばされる。
そして4人の女性が姿を見せた。
「セイレム……!」
「早い再会となったな、呉」
二本の角を生やした女性がそう言って前に出る。
「姉御。援護は必要っすか?」
「いいや。先に向こうのサイバーサムライを潰しておけ。奴は12体のアーマードスーツ相手に勝った男だ。用心しろ」
「うへえ。やばいっすね」
ニトロはそう言ってオートマチックグレネードランチャーの銃口を東雲に向ける。
「セイレム。本当に援護はいいのか?」
「ああ。サイバーサムライとしてサシで勝負をつけたい」
マスターキーがアーマードスーツの中から呼びかけるのに、それぐらいの美学を持っても損じゃないだろうとセイレムが笑う。
「いくぞ、呉。勝負のときだ」
「いいぜ。決着をつけよう」
セイレムと呉が対峙する。
一方の東雲も3名のサイバネアサシンと対峙していた。
「今回はアーマードスーツは1体かい……」
「仲間がいるものでね」
「羨ましいぜ」
東雲はそう言うと身体能力強化を極限まで行使して、一気に加速しアーマードスーツに向かう。マスターキーのアーマードスーツはガトリングガンから銃弾を叩き込みつつ、東雲から距離を取ろうとする。
東雲はそれに必死に追いすがる。
「マスターキーの姉御! 距離を取るっす! 援護できないっす!」
「無茶言うな! こいつ、馬鹿みたいに速い!」
そう、アーマードスーツに肉薄していれば、攻撃を受けにくいと東雲は踏んだのだ。
アーマードスーツは歩兵を随伴させて行動することを想定しており、無人戦車のような近接防衛装備を持たない。ガトリングガンさえ防いでおけば、至近距離でサーモバリック弾を浴びることもない。
「ガトリングガンならちょっと当たっても大丈夫だよねー」
「馬鹿! やめろ! 正面装甲だけだぞ! 機関砲に耐えられるのは!」
「じゃあ、どうするのさー!」
「どうにかして、こいつを引き剥がす!」
ダッシュKが叫ぶのにマスターキーが叫び返す。
「この距離で使うのは危険だが──」
「マジかよ」
肩に装着された口径68ミリのロケットポッドが東雲に向けられる。
東雲は素早く横跳びに回避する。
次の瞬間近距離で爆発が起き、東雲の体が壁に叩きつけられ、骨と内臓が砕ける。
「ちっくしょう!」
「死ねー!」
そこにダッシュKがガトリングガンを叩き込んでくる。
「畜生、畜生、畜生!」
東雲は“月光”を高速回転させて銃弾を防ぎ、傷を瞬時に回復させると再びマスターキーが操るアーマードスーツに肉薄する。
「クソ! また来やがった!」
「今度は潰す」
東雲は“月光”の刃を投射して、ロケットポッドを潰した。
「マスターキーの姉御! 援護するっす!」
側面に回り込んだニトロがオートマチックグレネードランチャーからサーモバリック弾を東雲に向けて叩き込む。
「やらせるか!」
変則軌道弾を東雲の動体視力は捉え、投射した“月光”で叩き切った。
「ええっ! マジっすか!?」
「マジだよ、クソ野郎」
「野郎じゃないっす!」
側面からさらにニトロが攻撃しようとするのに、東雲がマスターキーのアーマードスーツを盾にした。うっかり放たれたサーモバリック弾がマスターキーのアーマードスーツに命中して炸裂する。
「何やってる、馬鹿! 兵装系が一部イカれたぞ!」
「わわわ! ごめんなさいっす、マスターキーの姉御!」
アーマードスーツのAI自動制御射撃が狂い、ガトリングガンの狙いが定まらなくなる。東雲はここぞとばかりにマスターキーに仕掛ける。
「畜生。AIというかセンサーがイカれてやがる。これじゃBCIの直接制御でも意味がねえ。ダッシュK! 前言撤回だ! あたしごと撃て!」
「了解!」
ダッシュKのガトリングガンの銃口が東雲に向けられる。
「“月光”!」
そこでダッシュKは先ほどまで七本で高速回転していた“月光”の刃が六本しかないことに気づいた。だが、その時には遅すぎた。
「主様! ようやく我を使う気になったか!」
そこには黒いドレスを纏い、白い髪をたなびかせ、青緑色の瞳をした20代前半ごろの“大人の女性”がいた。
スレンダーな体をしたその女性は“月光”の刃でダッシュKのガトリングガンの銃身を切断し、続いてダッシュKが背中に背負ったガトリングガンのカートリッジを破壊する。
「ななっ!? どこから湧いて出たのー!?」
「ナイスだぜ。“月光”!」
そう、“月光”の化身だ。
東雲が血と魔力を注ぎ大人の身体で現出させた“月光”の化身である。
「主様の力になれたようでなによりじゃ!」
「流石に1対3は不味いと思ったからな。これでひとり潰した。残り2名だ」
「このまま戦うか?」
「いや。もういい。流石に血が持たん」
「すまん、主様」
“月光”の大人状態を維持するのには血を消耗する。
消耗し続ける。
「1対2ならまだなんとかなる。戻れ、“月光”」
“月光”の化身が消え、東雲はにやりと笑った。
「成長した“月光”はとんでもなく俺の好みだったぜ!」
「ふっざけんなよ、てめえ! ダッシュK! 離脱しろ! 食われるぞ!」
そして、東雲がさらなる血と魔力を注いで“月光”の刃を振るう。
一方の呉はセイレムと対峙していた。
「腕はすっかり元通り、か。お互いに医療支援はしっかりしていたようだな」
「そうだな。メティス様様だ。そっちは大井か……」
「さてね。ジェーン・ドウは明らかにしていない」
セイレムが尋ねるのに、呉がそう答える。
「こっちはもうメティスだって分かっている。その分、使い捨てにされる可能性も高いが」
「企業の秘密を知っている人間は死ね、か。お前は自分が何のために戦っているのか知っているのか……」
「自律AI。白鯨って奴だろ。あたしもメティスを信頼しているわけじゃない。自分がどういう目的で使い潰されるかぐらいは調べるさ」
「なら、白鯨を止めようとは思わないのか?」
「……白鯨がやばいAIだってことは分かっている。だが、所詮六大多国籍企業の犬であるあたしらに何ができる? 犬は犬らしく忠誠を示し、犬死にするのさ」
「変わったな。前はそうじゃなかっただろう……」
「擦り切れちまったのさ。こういう仕事ばかりだとな!」
そこでセイレムが一気に距離を詰めて、超電磁抜刀を行う。
だが、今の呉ならば回避できる。王蘭玲の当てたオペレーティングシステムが呉の身体の反射速度を向上させ、セイレムの刃が空を斬る。
「俺はまだ擦れ切れちゃいないぜ」
そして、呉が超電磁抜刀を行う。
その刃はセイレムの首を捉えかけたが、セイレムがぐんと首を逸らして回避する。
「新しいオペレーティングシステムを当てたか……」
「お互いに、な」
ふたりが再び刀を鞘に納める。
「勝負を決めるぞ、呉」
「セイレム。お前は殺すには惜しい女だ。いい女だよ。一緒にこっちのジェーン・ドウに下らないか……」
「そして、一生ジョン・ドウに追われ続けるのか?」
「今のままでもいずれは使い捨てだ。お前はメティスについて知りすぎている。白鯨のことも、ロスヴィータのことも」
「そうだろうな。あたしがジョン・ドウに使い捨てにされるのは時間の問題だ」
「なら」
「言っただろう。犬は犬なりの忠誠心を示し、犬死にすると」
セイレムがすっと前に出る。
「この世の中、使い捨てでない人間なんてもはや存在しないんだよ!」
「俺はそのクソッタレな運命に噛みついてやる!」
セイレムと呉が同時に超電磁抜刀を行う。
刃が交錯し、電磁力で弾きだされた刃がお互いの刃に食らい込む。
「もう終わりだ、セイレム! 諦めろ!」
「まだだね! まだまだだよ!」
金属音が鳴り響き、刃が舞う。
そして、東雲は──。
「くたばれっ!」
マスターキーのアーマードスーツを破壊した。
制御系が高圧電流を放って破壊され、内蔵のバッテリーが炎上する。
「クソッタレ!」
マスターキーは緊急脱出し、シートが後方に吹き飛ぶ。
「マスターキーの姉御!」
「撃て、ニトロ!」
「あいよっす!」
東雲に向けて連続してサーモバリック弾が放たれる。
「もう読めた!」
東雲は“月光”を投射して全ての変則軌道弾を撃墜し、ニトロに突撃する。
「なあっ!?」
「読めるんだよ、これぐらいはな!」
東雲が一気にニトロに肉薄した。
「死にたいか?」
そして、東雲はニトロの首に“月光”の刃を突き付けた。
「こ、降参するっす」
ニトロがオートマチックグレネードランチャーを捨てる。
ダッシュK戦闘不能。マスターキー戦闘不能。ニトロ戦闘不能。
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