TMCクライシス//戦術的──
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──TMCクライシス//戦術的──
東雲がアーマードスーツに突貫する。
グレネード弾とロケット弾を空中で迎撃しつつ、8体目のアーマードスーツに肉薄する。懐に飛び込まれてはアーマードスーツには手の出しようがない。そもそも歩兵が随伴することを想定した兵器なのだ。
アーマードスーツに“月光”の刃が叩き込まれ、制御系が破壊されて、アーマードスーツが機能を停止する。
「9体目!」
同時に複数体展開させたのが仇になった。3体に並んだアーマードスーツは1体が撃破されるとすぐさま次のアーマードスーツが狙われた。
近接距離でグレネード弾やロケット弾を使えば、自分たちに被害が出る。
もちろん、撃破されるほどの損害は生じないが、センサー類が破壊される可能性がある。ロケット弾の爆発は防護されていてもセンサーを破損させる可能性がある。
この状況で出来るのは口径12.7ミリのガトリングガンによる制圧射撃のみ。
「食らうかよ! くたばりやがれ、クソ機械ども!」
“月光”を最高速度で高速回転させて銃弾を防ぎ、血と魔力を注ぎ込んだアーマードスーツを削り落とす。武装を破壊し、そのままアーマードスーツをシュレッダーにかけるように引き裂いていく。
「化け物が!」
「うるせえ! こっちだって必死なんだよ!」
マスターキーが叫ぶのに東雲が叫び返し、10体目のアーマードスーツに“月光”の刃を貫かせた。アーマードスーツはバチリと激しい火花を散らせたと思うと、そのまま動かなくなる。
「さあ、最後だ。あんたともう1体」
「畜生。どうかしてるぞ」
マスターキーは追い詰められていた。
「だが、このアーマードスーツはヒヒイロカネ製の特注品だ。そう簡単には撃破できないぞ。これまでの通常型と同じだと思うなよ」
「どうだろうな。“月光”は血と魔力を注いでやれば応えてくれるからな!」
マスターキーともう1体のアーマードスーツは高速移動して、東雲の側面に両側から回り込もうとする。
東雲は真っすぐ、マスターキーが搭乗している機体に向けて進んだ。
「てめえを叩きのめせば終わりだ!」
そして、呉は未だにセイレムと激しい剣戟を繰り返していた。
「メティスはお前たちを使い捨てにするぜ、セイレム!」
「どうしてそう言える!」
「俺がそうだったからだ! 問題の技術者は知りすぎている! 少しでも情報が伝わった可能性があるならば、消される! だからこそ使い捨てなのさ! 分かったか!」
「それでもあんたにはバックアップが付いていただろう!」
「全員が使い捨てさ! 脱出のプランなんてなかった! だが、そう俺たちは企業の犬だ! 使い捨てだろうと、仕事をやるしか道はない!」
激しい金属音が鳴り響き、ふたりの剣戟が加速する。
「次で決める」
「ああ。次で決めてやるよ」
呉とセイレムは再び刀を鞘に納める。
「死ね」
「貰った」
セイレムの超電磁抜刀で放たれた刃が呉が咄嗟に防御のために構えた腕に食い込む。だが、その刃が呉の腕を切断し終える前に呉が片腕で放った刃がセイレムの腕を切り落とす。
「やってくれるね」
「お互い様だろ」
セイレムがナノマシンの滴る腕の断面を抱えて言うのに、呉もナノマシンの漏れる腕を抱えてそう言った。
「セイレムッ!?」
セイレムが腕を切断されたところはマスターキーも見ていた。
「どこ見てんだよ!」
そこに東雲が斬りかかった。
東雲はアーマードスーツの武装を破壊し、関節を破壊し、行動不能にする。
「トドメ──」
そこで後方からもう1体のアーマードスーツによる射撃が加わった。
東雲は身を翻してそれを回避し、それと同時にもう1体のアーマードスーツが発煙弾を複数発射する。
「呉! 見えるか!?」
「ダメだ。熱赤外線妨害型の煙幕だ」
東雲も呉も迂闊には動けず、煙幕が晴れるのを待つ。
煙幕が晴れたときにはセイレムもマスターキーも姿を消していた。
「畜生。ここでも逃げられた」
「だが、不味いぞ。セイレムたちはあんたの相棒たちの場所を特定したと言っていた。次に襲われるとすればそこだ」
「休んじゃいられないな」
東雲たちは破壊され尽くされたTMCサイバー・ワンのデータハブ中枢施設を出ると、呉の軍用四輪駆動車に乗り込んだ。
それから遅れて大井統合安全保障の緊急即応チームが駆けつけ、TMCサイバー・ワンを封鎖した。彼らは破壊された戦闘用アンドロイドや死体の山を見つけると、本社に緊急連絡した。
大井統合安全保障はTMCセクター7/3を完全封鎖し、襲撃犯たちの足取りを追い始めた。緊急即応チームは襲撃犯に足を提供したヤクザの事務所を強襲し、数名を射殺すると事情聴取を行なった。
だが、セイレムたちが脱出に頼ったのはヤクザではなく、チャイニーズマフィアの方であった。
場が転する。
TMCセクター7/2を走るセダン。その車内。
「腕、大丈夫なのか、セイレム……」
「大丈夫だ。それより成田には向かえそうか……」
「ああ。チャイニーズマフィアの手でニトロとダッシュKと合流してから、成田に向かう。そこからとんずらだ」
マスターキーがセイレムにそう答える。
「……中止だ」
「なんだって?」
そこでセイレムが突然そう言った。
「ジョン・ドウからだ。目標を確実に消せと。医療支援は受けられるそうだ。あたしとしてもこのまま引きがるのは気に入らない」
メティスのジョン・ドウは仕事の続行を指示した。セイレムたちが撤退することを許さなかった。
「冗談だろう。こっちは満身創痍だぜ。弾薬だって……」
「追加の支援が横須賀に届く。表向きは在日米軍向けの装備として。今回は各個撃破された形だが、ニトロとダッシュKの話を総合するに、敵の駒はあのふたりだけだ」
「数ではこっちが上ってことか。だが──」
「あたしたちは仕事に文句を垂れられる立場じゃない。そうだろう?」
「畜生」
マスターキーは自動運転中の車のハンドルを叩く。
「マスターキー。そうかっかするな。お前だって負けたままってのは気に入らないだろう。次は勝つ。多少汚い手だが、一応プランBは準備してある。こういう場合に備えてな。用意周到だろう?」
「あんたには本当に感心するよ、セイレム」
「まずは腕をどうにかしないとな。メティスの準備してくれる医療支援がどの程度かは分からないが、まずは腕を治して慣れさせたい。呉とやり合うのには、ナノセカンド単位のずれも許されない」
セイレムがそう言うのをマスターキーは眺めていた。
「随分とあのサイバーサムライにご執心だな。前に何かあったのかい……」
「少し、な。ちょっとした恋をして、戦って、あたしが勝った。だが、今回はあたしが負けた。だからこそ次は勝たなければならない」
「そうかい。あんたと組み始めたのはあんたがメティスに来てからだからな。その前のことは知らないし、知るつもりもないが、くだらない私情を仕事に挟むと寿命が縮まるぞ」
「ああ。そのことはよく分かっているとも」
だがな、とセイレムは続ける。
「私たちは単に仕事のために生きて、生きるために仕事をしているわけじゃない。ただの企業の犬ではあるが、犬には犬なりの誇りってものがあるんだぞ。それを忘れたら、本当に畜生と一緒だ」
「そうかもしれないな」
「そうなんだよ。犬は犬として、犬に許される私情を挟むさ」
セイレムは楽し気にそう言った。
場が転する。
東雲たちはTMCセクター13/6に駆け込み、セクター7/3と違って薄汚れたそこを疾走すると、アパートまで到着した。
「まだ連中は来てないよな……」
「あの4人以外に別動隊がいて、居場所を連絡していたとしたら面倒だが」
「そういう最悪はごめんだぜ」
呉と東雲はそう言葉を交わし、トラップに用心しながら、だが素早く階段を駆け上り、そしてベリアとロスヴィータがいる部屋に飛び込む。
「ベリア、ロスヴィータ!」
東雲が飛び込むとふたりはサイバーデッキに繋がれたまま、眠ったようにしていた。
「息はあるな。無事だ」
「護衛対象は守り切れたか」
「ああ。とりあえずはな。連中、やり返してくると思うか?」
「可能性としては全く否定できるものじゃない」
東雲が尋ねるのに呉がそう返す。
「最悪だな。だが、サイバーサムライの方は腕を斬り落としただろう。奴が戦線復帰する可能性は低いんじゃないか」
「それなりに整った設備があれば、機械化した四肢の交換は簡単だ。少し間の慣らし運転は必要だろうが、その場合はメティスがどの程度のバックアップを与えているかによる」
「畜生。碌でもないことになったな」
そして、東雲が呉の腕を見る。
「あんたの腕はどうする?」
「この程度の傷ならば普通の医者でも治せるはずだ。ただし、口の堅くて信頼できる医者がいい。下手をするとメティスの紐付きの可能性もある」
「メティスって言えば生物医学企業だしな。俺が後で信頼できる医者に連れていってやるよ。今はベリアたちがマトリクスから戻ってくるのを待とう。ARで連絡を取ろうとしているんだが、どうにも繋がらない」
「TMCサイバー・ワンのデータハブは吹き飛んだ影響かもな」
「それだったら自業自得、か」
東雲はそう呟いて、サイバーデッキに横たわるベリアたちを見た。
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