TMCクライシス//サイバーサムライ
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──TMCクライシス//サイバーサムライ
東雲と呉は素早くデータハブの中枢に飛び込んだ。
「サーバーを破壊しろ!」
「オーケー!」
東雲がサーバーに向けて“月光”を投射する。
次の瞬間、TMCのマトリクスが一時的に孤立した。
これがベリアたちの仕事に響かなければいいのだがと思いつつ、東雲はアーマードスーツに目を向ける。
この時点で既にベリアたちはトロントのメティス本社のメインフレームからログアウトし、TMCのマトリクス上にいたのだが、東雲がそれを知る由もなし。
「来たな、呉」
「お前は……セイレムか」
東雲がアーマードスーツと対峙しているとき、呉は敵のサイバーサムライ──セイレムと対峙していた。
二本角の女と呉が対峙し、お互いの顔を見つめ合う。
「セイレム。まさかお前がメティスに雇われているとはな。つまり、ケミカルテロで数十万殺すのもお前の計画だったわけか……」
「ああ。あたしは個人の戦いには美学を有するが、仕事そのものに美学は持ち込まない。民間人が何十万人死のうと気にしはしない」
「堕ちたな、セイレム」
「お前こそ、大井の非合法傭兵に敗北して、今やメティスから追われる身じゃあないか。そっちほど落ちぶれちゃいないよ」
セイレムが鼻で呉を笑う。
「お前との決着をつけたいと前々から思っていたところだ。どっちが落ちぶれたかを語るのは、その刃の切れ味だけで十分だろう」
「ああ。それがサイバーサムライの在り方だ」
お互いが距離を測り合う。
その時、東雲も脅威と対面していた。
「あんた、仕事が遅いね。こっちはもう目標の位置を捕捉したよ」
「ああ。そうかい。だが、あんたらをぶち殺せばおじゃんだよな?」
「それはそうだが、やれるかね?」
東雲はマスターキーの操る“サーバル1A2”と同型機12体と直面していた。
「大井統合安全保障は何してたんだよ。また武器密輸されてるじゃねーか」
「大井とて食料の流れを止めたらTMCが餓死することを知ってるからな」
「クソッタレ。ぶち壊してやる」
「やってみろよ、サイバーサムライ!」
東雲に向けて一斉にサーモバリック弾が放たれる。
東雲はなんとかそれを回避し、強力な爆風を“月光”の高速回転で軽減しながらアーマードスーツに襲い掛かる。
本体の有人機を守るように、高速機動と口径12.7ミリのガトリングガンをAI制御射撃できるようにカスタマイズされたアーマードスーツが立ちふさがる。
「てめえ! 邪魔だ! 退け!」
AI制御のガトリングガンは焼夷徹甲榴弾で東雲を攻撃し、その上AI制御のために“月光”の高速回転を掻い潜った弾を数発出してくる。
東雲の腕がまた吹き飛ぶ。肩から破損した腕を東雲は一瞬で再生させて最初の1体のアーマードスーツに“月光”の刃を突き立てる。
高圧電流がバチリと飛び散り、制御系をやられたアーマードスーツが沈黙する。
「まずは1体!」
残り11体。だが、恐らく有人機を倒せば全部一斉に無力化できるはず。
「こういうときにベリアの支援がありゃあなっ!」
そうすれば全部の無人機を有人機に差し向けることもできただろうにと東雲はつくづくそう思いつつも、次のアーマードスーツに立ち向かう。
一方の呉とセイレムはお互いにまだ刃を抜いていなかった。
「“虎斬り”はどうした……」
「向こうで戦ってる男に破壊された。今は“鮫斬り”だ。俺が虎を斬れると宣言するには早すぎると自覚したよ」
「落ち込んでいるのか……」
「そう見えるか……」
お互いに静かに距離を測る。
少しずつ近づき、少しずつ構える。
「では、“鮫斬り”が本当に鮫を斬れるか確かめてやろう!」
「お前の“竜斬り”が竜を斬れるか確かめてやる!」
お互いが超電磁抜刀を行い、刃と刃が交錯する。
お互いの刃はヒヒイロカネ製。そう簡単には叩き切れるものではない。
金属が弾ける音が響き、再びふたりが距離を取る。
「流石に初撃で片が付いてはつまらんな」
「そうだな」
セイレムが再び刀を鞘に収め、呉も同様に刀を鞘に納める。
「お互いに超高周波振動刀。当たれば死ぬだろう」
「当たれば、な。あたしにはそう簡単に当てられると思うな」
「ああ。分かっているさ。それでこそ、だ」
「お互いに成長しただろう。あの時から」
呉とセイレムは距離を測り合った直後、一気に加速した。
「だが、どれほど刃を振るおうと俺は自分の美学を捻じ曲げない!」
「あたしは勝つためならなんだろうとする!」
超電磁抜刀が目にも留まらぬ速度で繰り出され、呉の首の皮からつうっと血が流れ、セイレムの首からも小さく血が流れる。
「やはりお前はあたしの好敵手だよ、呉」
「そういうお前もな、セイレム」
お互いに鞘に刀を収め、笑い合うふたり。
次の瞬間には再び激突する。
何度も何度も激突を繰り返し、金属の音が響き続ける。
一方で東雲も2体目のアーマードスーツを撃破していた。
「はあ。畜生。妙な弾使いやがって」
その間腕が吹き飛ぶこと3回、腹部が吹き飛ぶこと2回。
「ゾンビかよ。どうかしてるぞ、あんた」
「うるせえ。俺はゾンビじゃねえ。ゾンビと違って脳みそが腐っているわけじゃない」
それにゾンビは再生しないと東雲は語る。
「狙うなら頭か」
「やれるものならやってみな」
マスターキーが東雲の頭部目掛けてガトリングガンを浴びせる。東雲は銃弾が潜り抜けられないぐらいの速度で“月光”を回転させて、3体目のアーマードスーツに迫る。
そして激しい金属音を立てて、そのままアーマードスーツの武装を破壊する。
それから手に握った“月光”を突き立て、3体目のアーマードスーツを沈黙させた。バチンと電流が火花を散らし、制御系を破壊されたアーマードスーツが無力化される。
「次!」
間髪容れず4体目のアーマードスーツに東雲が肉薄する。
「くたばれ、ゾンビ野郎」
予想外なことに4体のアーマードスーツはガトリングガンではなくオートマチックグレネードランチャーで攻撃を加えて来た。
サーモバリック弾が次々に炸裂し、さらには肩に装着された口径68ミリのロケット弾が放たれる。東雲は壁まで吹き飛ばされ、また骨と内臓がイカれた。
「畜生、畜生、畜生。人の血のことだって考えろよな!」
東雲は遠距離から“月光”を投射し、次に飛来したグレネード弾とロケット弾を空中で撃破し、それからアーマードスーツに刃を突き立てる。
「ははっ! 見たか! ゾンビにこんな真似ができるか!」
「畜生。やってくれるね」
ならば、とマスターキーが3体のアーマードスーツを一斉に展開する。
「多少精度は落ちるが数で叩きのめす」
「マジかよ。勘弁してくれ」
3体のアーマードスーツが一斉にロケット弾とグレネード弾で東雲を攻撃する。
東雲はサーバーの立ち並ぶ中を逃げ回り、なんとか攻撃を回避する。
「そら! 追加で3体!」
「畜生がっ!」
東雲の逃げる先に高速機動で3体のアーマードスーツが回り込む。
そして、呉はセイレムと斬り合いを続けていた。
「昔はアトランティスに雇われていたのに、どうしてメティスに移った!?」
「あたしの担当のジョン・ドウが企業亡命したのさ! アトランティスのナノマシン開発状況の資料を手土産にね! それからはメティスの所属だよ!」
「なるほど! 所詮俺たちは企業の犬だな!」
「犬にも犬なりのプライドはあるさ!」
激しい音が響き続け、呉とセイレムが少しずつ出血していく。
「犬なりのプライドか! そのためには何十万も殺せるのか!」
「ああ! 殺してやるとも! 何十万だろうと何百万だろうと仕事のためならばな!」
「クソッタレなプライドだ! そいつは美学じゃない!」
呉の放った一撃がセイレムの首を狙ったが瞬時にセイレムが回避機動を取り、それは空を斬るだけに終わった。
「あんたの凝り性な美学ではあたしには勝てないよ!」
「どうだろうな! 美学があるからこそサイバーサムライは強くなれるんだぜ!」
「そうかい!?」
セイレムの放った一撃が呉の首を掠める。攻撃の精度はセイレムの方が上回りつつある。このままだと押し負けると呉は判断し始めた。
「ケリをつけるぞ、セイレム!」
「やってみろ、呉!」
呉の刃がセイレムの刃を捉え、鍔迫り合いが始まる。
お互い同じ金属の同じ作用で物体を切断する武器だ。ヒヒイロカネ製の刀の刃は超高周波振動刀の切れ味を防ぎ、両者の刃が押し合う。
これはシンプルに力のある方が勝つ。
「メティスに移籍してよかったことは身体のカスタマイズが昔より楽になったことだ! こっちも第六世代の人工筋肉! 単なる力比べでは負ける気はしないね!」
「俺も同じだ! では、勝敗を分けるのはなんだろうなっ!?」
「精神的なものとでもいいたいのか! 馬鹿みたいに美学に拘って! それだからあんたは一度あたしに負けたんだよ!」
「負けてない! あれは引き分けだった!」
「仕事を達成したのはあたしの方だったんだからあたしの勝ちさ!」
両者の押し合いが激しさをます。
そして、東雲は。
「クソッタレ。クソのクソッタレ! 3体撃破! さあ、こいよ!」
東雲は既に合計で7体のアーマードスーツを撃破していた。
「やりやがるな、ゾンビ野郎」
「だから、ゾンビじゃねえって言ってるだろうが!」
「ゾンビ以外のなにものだよ! 腹が吹き飛ばされても生きてるなんて!」
「教えてやる。勇者って奴だよ!」
東雲はそう言ってマスターキーに向けて突撃した。
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