保護//襲撃
本日1回目の更新です。
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──保護//襲撃
「監視カメラに何か──うわっ!?」
監視カメラの向こうでは無数のアンドロイドが扉を破ろうとしていた。
「な、なんだこれは……。この界隈のアンドロイドが集まってるじゃないか」
「扉はどれくらい持つ?」
「戦闘用アンドロイドの体当たりにだって耐えられる、はずだ」
店舗の警備に当たっていた戦闘用アンドロイドが現れ、体当たりを始める。
「ショックガンには?」
「多分、耐えられる」
「……電磁パルスガンには?」
「不味い」
アンドロイドの1体が電磁パルスガンを装備して、扉の前に立った。
バチンという音ともに扉の電子ロックが破壊されるのが分かり、それから激しい衝撃音が響いて、扉が吹き飛ばされた。
「んなもん、どこから持ってきやがった!」
東雲が電磁パルスガンを持った喫茶店の接客用アンドロイドを撃破した。
“月光”が抜かれ、“月光”がアンドロイドの首を刎ね飛ばしたのだ。
「他のお客様のご迷惑になります。他のお客様のご迷惑になります。他のお客様のご迷惑になります。他のお客様のご迷惑になります」
「迷惑なのはてめーだ!」
“月光”が宙を舞い、ショックガンを放とうとしていた戦闘用アンドロイドに襲い掛かろうとする。
だが、相手の方が素早かった。東雲はショックガンによって吹き飛ばされ、中古家電の並ぶ方まで吹き飛ばされて行く。
また肋骨が折れた。また内臓が潰れた。だからなんだ。
東雲は身体能力強化によって身体をすぐさま修復すると、“月光”を地面に突き立てて立ち上がった。
「あ、あんた! ど、ど、どうするんだ!?」
「足はあるか?」
「そんなもの持ってな──」
三浦がそう答えそうになったとき、エンジン音も響かせず、とても静かに電気自動車が東雲たちの前に現れた。
『乗って、東雲。運転は任せて』
「おい。どこから持ってきた?」
『もう必要ない人のところから。さあ、いいから乗って』
「畜生。分かった」
東雲は扉を開けて三浦を押し込むと、自分も車に乗り込む。
『荒っぽい運転になるけど覚悟して』
「ショックガンでふっ飛ばされるよりマシだろう」
そう言って東雲は窓から身を乗り出すと、車から三浦の家に群がっていたアンドロイドの中から自分にショックガンを叩き込んだ奴を探して、その首を投射した“月光”によって刎ね飛ばした。
「ああ。あんたが壊した喫茶店の接客用アンドロイド。彼女は限定AIだったけれど、俺のことを覚えていてくれて、行き詰まったときにはよく喫茶店に行くんだけど、そのときは優しく出迎えてくれたなあ」
「今は白鯨の駒だ」
「分かってるよ。畜生」
東雲が車がセクター11/8から12/1に向かっていることに気づいた。
「ベリア。最終目的地は?」
『考え中。それからさっきのアンドロイドはやっぱり白鯨だよ。全部アップデートの際にMr.AKってウィルスで氷を砕き、ハッキングした。今、アンドロイドに近づこうとしているんだけど』
「だけど?」
『白鯨がいる』
場が転する。
マトリクス。
ベリアは東雲に破壊されたアンドロイドのまだ生きて、マトリクスに接続しているものを調べていた。
「Mr.AKだ」
「みたいだな」
「そして、あそこにいるのは」
ベリアとディーの視線が暴走しているアンドロイドたちを束ねている存在に目を向ける。それは赤い着物の少女であった。それは巨大なクジラであった。それはマトリクスの怪物であった。
「白鯨、か。白鯨がアンドロイドどもを暴走させてやがる」
「白鯨がリアルタイムでアンドロイドを暴走させているところを見たのって私たちが初めてじゃない?」
「かもな。何人かは近づきすぎて、脳を焼かれているかもしれないが」
未だに白鯨の銃乱射型ブラックアイスは有効で、そして白鯨に近づくものを追跡する追跡エージェントも稼働していた。
「白鯨。何が目的か知っているのか?」
「友達がちょっとね。何とかして白鯨の行動を止めたいところだけど」
「国連チューリング条約執行機関をけしかける」
「彼らが乗るかな?」
この間、彼らのご自慢のタスクフォース・エコー・ゼロが壊滅したばかりだよとベリアはそう言う。
「さてね。乗るかもしれないし、乗らないかもしれない。まさかお友達が非合法なAI研究者だってことはないよな?」
「そのまさか」
「おいおい。それなら国連チューリング条約執行機関は不味い」
命取りになるぜとディーは言う。
「けど、国連チューリング条約執行機関も白鯨の動きを追っているはず。遅かれ早かれ彼らは介入してくる」
「ヤバイブツを電磁パルスガンで焼くなりなんなりした方がいいぜ」
「それが頭の中に入っていてね」
「おいおい。勘弁してくれ。脳埋め込み式デバイスかよ。なら、外部操作で記憶を削除させるんだ」
「それがそうもいかないのさ」
「……ジェーン・ドウ、ジョン・ドウ絡みか?」
ベリアは何も答えない。
「畜生。ここまで関わったら引けないな」
「大丈夫。ジェーン・ドウにしろ、ジョン・ドウにせよ、マトリクス上の動きは把握してないから。むしろ、引くなら今の内だよ」
仕事の報酬は分けられないしとベリアが言う。
「仕事の報酬なんてどうでもい。友人がジェーン・ドウ、ジョン・ドウ絡みで参っているのに、手を貸さないってのは俺の性に合わない」
まずやるべきことはとディーが言う。
「あの暴走したアンドロイドを止めるかだ。ひとつ、手がある」
「何?」
「こっちもアンドロイドを暴走させる。Mr.AKと自動アップデートの穴は白鯨だけの専売特許じゃない。こっちでも同じことができる」
ディーはそう言ってにやりと笑った。
「企業の氷を破って、自己アップデート機能に侵入するの?」
「企業と言っても六大多国籍企業相手じゃない。準六大多国籍企業ってところだ。六大多国籍企業も外注しているんだよ。一部のシステムについてはな。その準六大多国籍企業の氷をぶち抜く」
ディーはそう言ってアドレスを提示した。
「やるか?」
「やろう」
ベリアとディーは六大多国籍企業の下請けである準六大多国籍企業のサーバーにアクセスしようとして早速氷に阻まれた。
「ジャバウォック、バンダースナッチ。氷を破って。それから内部の様子を偵察。行け」
「はいなのだ」
ジャバウォックとバンダースナッチは氷を砕いていく。
「あれ、アーちゃんの自作のAIだろう? 相当賢いな」
「そう? チューリング条約には違反してないと思うけど」
「違反してたとしてもいちいち国連チューリング条約執行機関に報告にしたりはしない。安心しろよ。俺は友人を売ったりしない」
そう話している間にジャバウォックとバンダースナッチが氷を砕き、サーバーの中に密かに検索エージェントを送り込んだ。
検索エージェントが排除される様子はない。
「ご主人様。多分、行けるのだ」
「よし。じゃあ、仕掛けの時間だ」
ベリアとディー、そしてジャバウォックとバンダースナッチがサーバー内に侵入する。検索エージェントがあちこちを探り、自動アップデート用のプログラムを探す。
そして、見つけた。システムの最下層に隠されていた自動アップデート用のプログラムを。これを使えば、目標のアンドロイドをマトリクスに接続させ、後はMr.AKとリモート操作用プログラムを置いていけばいいだけだ。
「Mr.AKセット。リモート操作用プログラムは?」
「持ってきてある。だが、あまり長居し続けると、企業側に事情がバレて、連中のサイバー戦部隊が掃除しにやってくる」
そうなったらお終いだとディーは言う。
「いいニュース。この企業はアンドロイドを全世界に9000万台輸出し、国日本内でも最低で2000万台が稼働しているということ。そして、この企業はまだ暴走したアンドロイドを1体も出していない」
「穴に気づく可能性は低いということか……」
「そういうこと。HOWTechの現地法人のさらにその下請けだけど、彼らは問題には気づいていないと思うね」
「なら、早速仕掛けだ」
場が転する。
HOWTechへビィマシナリーの戦闘用アンドロイド“ボクサー”はここ最近立て続けに起きたアンドロイド暴走事件を受けて電磁パルスガンを装備していた。
彼らはTMCで警察権を有する大井統合安全保障の下請けである、とある民間軍事会社で使われていた。
そこをMr.AKが侵入した。
Mr.AKはまるでニンジャのようにすいすいと氷を突破していき、相手の気づかぬままにセキュリティホールを作り上げた。その穴を通ってリモート操作プログラムが注入される。
システムは完全に乗っ取られ、戦闘用アンドロイド“ボクサー”8体が指定されていた警備地域を離れ、東雲たちの逃げている方向に向かった。
東雲と三浦を乗せた車は逃げ回っていた。
セクター11/8から11/9へ。セクター12/1を目指して逃走を続けていた。
後ろからはアンドロイドの大群が押し寄せてくる。
「逃げきれるのか!?」
「逃げきれなきゃお終いだ!」
東雲はそう言ったものの、彼が“月光”を握れば、あの程度の人形たちは容易く葬り去ることができる。
だが、アンドロイドは血を流さない。それが問題だった。
血を流さないアンドロイドからは、“月光”は血を得られず、東雲から吸うしかなくなるのである。
「畜生。あれが生身の人間ならな……!」
東雲がそう言ったとき、前方にもアンドロイドらしきものが見えてぎょっとした。
『大丈夫。東雲、それは私たちがハックした奴だから』
「任せていいんだな?」
『任せて』
東雲とディーを乗せた車が立ち去った直後、“ボクサー”が横に展開し、一斉に電磁パルスガンを発射した。
それによってほとんどのアンドロイドが行動不能になったものの、アンドロイドの群れは“ボクサー”に襲い掛かり、激しい白兵戦と電磁パルスガンの連射を招いた。
「うちの警備ボットだぞ、あれ!」
「どうなっている!?」
担当の職員たちが慌てふためく中、東雲たちは何とかアンドロイドの大群を振り切った──かのように思われた。
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