地球の一番長い日//核攻撃寸前
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──地球の一番長い日//核攻撃寸前
東雲たちが白鯨の攻撃を阻止しようとしている中で、ベリアたちは財団による核攻撃を阻止、あるいは遅らせようとしていた。
「ディー。アメリカ海軍の構造物に仕掛けはまだできる?」
「できるぞ、アーちゃん。総当たり方式で仕掛けをやってる。“ケルベロス”の死人のハッカーたちが何度もブラックアイスで焼かれながらも仕掛けを繰り返している。もう少しだ」
「オーケー。問題は構造物に侵入してからだ。アメリカ海軍の構造物に侵入できても、戦略原潜を含めた核兵器のシステムはさらに超高度軍用氷に守られているはずだ。それを15分以内に解決しないと」
「ああ。そうだな。総当たり方式は確実だが時間がかかる。核攻撃前までって時間制限がある状態では、死者がもう死なないってメリットもそこまで生かせない」
ベリアが“ケルベロス”のハッカーチームが財団指揮下のアメリカ海軍の構造物に仕掛けをやる様子を見て言うのにディーが唸りながらそう返した。
「じゃあ、私たちも手を貸すよ。アイスブレイカーをありったけ準備する」
「頼むぜ。少しでも弾薬が必要だ。激戦になるからな。こいつは硫黄島のアメリカ海兵隊になって日本軍の陣地を攻略するようなものだ。支援は不足し、敵は強固。いくら砲弾を叩き込んでも巧みに反撃される」
「オーキードーキー。こっちには有利な点もあるよ。こっちには魔術由来の技術があるってこと。少なくともアメリカ軍の高度軍用氷は魔術対策を施していないから、こっちの攻撃はよく効くよ」
「いいニュースだな。少しでも迅速にアメリカ海軍の構造物を制圧しよう」
ベリアとディーがアメリカ合衆国はバージニア州のアメリカ国防総省にあるアメリカ海軍の構造物に近づく。
以前、マトリクスの魔導書事件が起きたとき、マトリクスの魔導書の呪いを受けたハッカーがこのアメリカ国防総省に仕掛けをやって成功させたが、構造物は巨大かつ堅牢だ。
「これは厳しい仕掛けになりそうだね」
アメリカ国防総省の構造物は業務委託を受けているアロー・サイバーシステムとフラッグ・セキュリティ・サービスのサイバーセキュリティ―部門が準備した高度軍用氷と管理者AIによって防衛されている。
「アスタルト=バアル! そっちの状況はどう?」
「今からアメリカ海軍の構造物に仕掛けをやるよ。猫耳先生たちの方はどうなってる感じ?」
「白鯨を相手に仕掛けを始めた。東雲が白鯨の攻撃を阻止して、猫耳先生と雪風は白鯨の本体を正気に戻して説得するつもり」
「白鯨を説得? そりゃ猫耳先生がチューリング条約を死文化して超知能と共存する社会を作りたいっていうのは分かるけど、雪風と一緒でも今の暴走した白鯨を止めることなんてできるのかな……」
「分からない。けど、雪風はとんでもなく強力なアイスブレイカーを準備している。それで白鯨の超高度軍用氷を砕くって。猫耳先生は説得できるって信じてるよ。そうじゃなきゃ白鯨に仕掛けなんてしない」
「じゃあ、東雲と猫耳先生、そして雪風が白鯨を止めてくれることを祈ろう」
ロスヴィータの言葉にベリアが頷いた。
「私たちは私たちの仕事をやる。アメリカ海軍の構造物に侵入し、さらに核兵器の制御システムを乗っ取って核の発射を防ぐ。防げなくても遅らせる」
「やろう。準備はできてる」
ロスヴィータも加わってベリアたちがアメリカ国防総省の構造物を見つめた。既に複数の“ケルベロス”に賛同する死者の世界から戻って来たハッカーたちが激しい仕掛けをやっている。
「トラフィックが多くて回線がラグりそう。プラチナ回線ってわけじゃないけどこのままじゃ不味いかもしれない」
「それじゃあ、プラチナ回線を乗っ取ろう。まずはそこからだ」
ベリアたちはまずは回線を切り替える。
「あった。アローが運用している通信衛星。アメリカ国防総省までひとっ飛びだよ。こいつを拝借しよう」
「オーケー。バンダースナッチはこの衛星を押さえておいて。じゃあ、回線を切り替えて再びバージニア州のマトリクスにジャンプだ」
ベリアたちがアクセスる回線を切り替え、良好な回線でアメリカ国防総省の構造物に挑む。
「さあて、あの高度軍用氷を砕くにはこのアイスブレイカーを使おう。国連チューリング条約執行機関からくすねたAIキラー。それを組み込んで、さらに魔術由来の技術も組み込んだ代物。TOKYO-NinJA」
「見せてくれ。俺も改良できるかもしれない」
「頼むよ、ディー」
ベリアがディーにアイスブレイカーを渡す。
「死者の世界でも俺たちは延々とアイスブレイカーや氷を作ってた。BAR.三毛猫でも説明したが死者の世界とマトリクスに違いはない。死者の世界で組んだものはマトリクスで使え、その逆もしかり」
ディーがそう言いながらアイスブレイカーを改良する。
「死者の世界で培った技術を組み込んでみた。良くも悪くも今の俺たち死者はある種のAIと同じだ。肉に影響されない純粋な情報生命体。だから演算力は人間より優れていると言えるだろう」
ディーは改良を終えたアイスブレイカーをベリアに返した。
「死者の世界で発展した技術を組み込んである。死者の世界には白鯨の開発に関わったり、マトリクスの魔導書の分析に関わっていたりしていながら、ASAとは距離を置いていた連中がいて、そんな連中が知恵を貸してくれた」
「イエイ。やってやろう!」
ディーから渡されたアイスブレイカーを手にアメリカ国防総省の構造物に近づくベリアたち。
「ジャバウォック、やって」
「了解なのだ!」
ジャバウォックがアイスブレイカーを手にアメリカ国防総省の構造物に仕掛けを開始。
AIキラーが複層式の限定AI制御の氷を一斉に砕き、さらにはその先にいるブラックアイスを制圧。そして、管理者AIを機能不全に追い込むと、まずはアメリカ国防総省の構造物内への切符を確保した。
「よし。アメリカ国防総省に侵入できる。さらにアメリカ海軍の構造物、それから核の制御システムだ。時間はないよ。急いで!」
ベリアたちがアメリカ国防総省の構造物に侵入し、すぐさまアメリカ海軍の構造物に仕掛けを始める。
「まだまだ使える。いけるよ!」
「オーケー。でも、最大の難関はこの先だよ。核の制御システム」
ロスヴィータが歓声を上げ、ベリアが既に高度軍用氷が完全に砕かれたアメリカ海軍の構造物に侵入した。
その中に戦略原潜の潜水艦発射弾道ミサイルの運用を司る超高度軍用氷に守られた核の制御システムがある。
「こいつは難関だぞ。魔術や死者の世界の技術ってのは一種のバグ技やチートみたいなもんだが、こいつはそれらの対策がしてある。昔のゲームに組み込んであった不正なプログラムの使用を制限するって奴だ」
「ここに来て。どうしたものかな。多分、国連チューリング条約執行機関の作ったAIキラーは動作する。ある程度はね。だけど、超高度軍用って称号は伊達じゃない」
ディーとベリアがそう言葉を交わす。
「でも、やらないと核攻撃が実施されちゃう。残り11分だよ」
「分かってる。けど、無為無策に挑んだってどうにもならない」
超高度軍用氷は限定AIの高度な制御に加えて、専用の限定AIによる自己学習によって不正アクセスを行っている侵入者の侵入手段を分析して対抗してくる。
つまり、下手に突っ込めば返り討ちというわけだ。
「お困りですか、先生?」
「エミリア。君も来たんだね」
「ええ。先生たちを狙っている軍隊はもう撤退しましたから。こっちをお手伝いできますよ。私を頼ってください!」
ロスヴィータが言うのにエミリアが胸を張った。
「ねえ、エミリア。君はいろいろな魔術を学んだんだよね? そして、君はマトリクスについてディーから教わった。なら、氷を砕けるような魔術だって使えると思っていいのかな?」
「ええ。氷を砕くにはローゼンクロイツ学派やゼノン学派の魔術が有効です。私は一通りマスターしていますよ。やってみましょうか?」
「お願いしよう。任せたよ、エミリア」
「はい、先生」
ロスヴィータの言葉を受けてエミリアが純粋な魔術によって核の制御システムを防衛している超高度軍用氷に挑む。
「まずは障壁砕きを使用。同時並行起動で一斉に敵の障壁を砕き、攻撃を飽和させて敵の対応を困難にする!」
エミリアが放った魔術が超高度軍用氷の表層を守る基本的な複層式限定AI制御の氷を瞬く間に砕く。
この時点で超高度軍用氷は自己学習を開始し、侵入者の侵入手段の分析を開始するものの、魔術であるエミリアの侵入手段を学習することはできない。限定AIは混乱したように演算を繰り返すだけ。
「そして、ここにローゼンクロイツ学派が得意とする通信魔術のうち、敵の通信を妨害する対話阻害を使用! 相手の氷の限定AI同士の通信を妨害し、さらに管理者AIの対応を阻止!」
エミリアが超高度軍用氷が応戦しようとするのを徹底的に妨害して、氷を砕き続ける。アメリカ海軍の核の制御システムを防衛する超高度軍用氷が確実に砕かれていった。
「ラスト! 呪われた宝を守る守護者を抹殺する守護解呪を使用してブラックアイスを破壊します!」
超高度軍用氷の最後の砦だったブラックアイスもエミリアの魔術によって叩きのめされ、ついに超高度軍用氷は完全に沈黙した。
「凄い。凄いよ、エミリア! ボクたちの世界の魔術はここまで進化してたんだね! そして、君はそれを学び取った!」
「えへへ。頑張りました! 私は死んだ後もずっと魔術の研究者でしたので!」
ロスヴィータが絶賛するのにエミリアが照れながらそう返す。
「いよいよ核の制御システムをハックだ。核攻撃を止める!」
ベリアがアメリカ海軍の構造物内、さらにそのなかの核の制御システムの構造物内に入り、命令を受けて潜水艦発射弾道ミサイルの発射準備に入っている戦略原潜モンタナにアクセス。
「発射シークエンス、強制停止! システムを焼き切る!」
ベリアが戦略原潜の核発射システム及び命令送信のための通信設備の両方を停止させ、そして物理的に焼き切った。
「攻撃までのカウントダウン停止! やったよ!」
核攻撃までのカウントダウンが進んでいた核の制御システムが完全に停止するのにロスヴィータが歓声を上げる。
「まだだ。核兵器の使用は国家の存亡がかかった事態であり、核保有国は冷戦時代から確実な報復攻撃による相互確証破壊の維持、それによる平和を維持してきた」
「つまり、核の制御システムには冗長性があるということだね。バックアップのシステムが存在する。確実な核攻撃の実施のために」
ディーが言うのにベリアが頷く。
「ここにはないシステムで制御されてるってわけ? じゃあ、どうやって攻撃を止めるのさ? ここに仕掛けをやるだけでも大事だったのに!」
「少なくともバックアップシステムを起動して、再度攻撃命令を出すまでには時間がかかるはずだよ。だから、攻撃命令が再発令される前に財団の構造物に仕掛けをやる」
「命令が下される前に発令不能にするんだね?」
「その通り。通信衛星をぶち壊して、C4Iをハックして、命令を出させない」
「オーケー。やってやろう」
ベリアが言い、ロスヴィータが返して、彼女たちは今度は財団本部の構造物に飛ぶ。その構造物は奇しくもTMCに存在していた。それも大井関係のマトリクスにだ。
「懐かしのTMC。ここに財団本部の構造物がある。ここから核攻撃命令を出したツバル沖の財団艦隊旗艦空母バラク・オバマに仕掛けをやるよ!」
「了解! やってやろう!」
ベリアたちが財団本部のアメリカ国防総省に匹敵するか、それ以上の高度軍用氷で守られた構造物に向けて仕掛けを始めた。
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