ザ・ビースト//太平洋戦線異常あり
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──ザ・ビースト//太平洋戦線異常あり
「よう。あんたも大概しぶといな、東雲?」
「死なないのが俺の取り柄さ、暁」
東雲は暁にそう言って周囲を見渡した。
「装備は破損してないか?」
「確認したが問題ない。ほら、あんたのだ」
「オーケー。こいつがあれば無人兵器の類は即スクラップだぜ」
東雲は口径40ミリ電磁加速グレネードランチャーを受け取った。使用するのは電磁パルスグレネードだ。高出力の電磁パルスで軍用のものだろうと電子機器の回路を焼いて、破壊してしまう。
「先生はマトリクスに完全に潜ってるのか?」
「ああ。要介護者1名ってわけだ。まあ、ASAを相手に仕掛けをやってるんだから仕方ないと言えば仕方ない」
「そうか。先生には雪風がいるから大丈夫だとは思うけど」
ワイヤレスサイバーデッキで完全にマトリクスにダイブしてる王蘭玲を東雲が抱きかかえて軍用四輪駆動車の後部座席に乗せた。
「八重野とセイレムはサンドストーム・タクティカル相手にどんぱちしてるそうだけど、そっちにもこいつで突っ込むのか?」
「他に何かアイディアがあるなら聞くけど?」
「ないね。行きましょうか」
ベリアが言うのに東雲が肩をすくめて助手席に乗り込む。
ベリアが運転し、東雲たちが乗る軍用四輪駆動車は再びフナフティ・オーシャン・ベースのフロートの上を走っていく。財団とサンドストーム・タクティカルが猛烈に激突している場所に向かって。
「やばい感じだぞ。すげえ銃声と砲声がする。あそこに突っ込むの? マジで?」
「あそこに八重野たちがいるんだよ? 見捨てるの?」
「あーあ。どうせセイレムが暴れ出して大事になったんだろうな」
ベリアが睨むのに東雲が愚痴った。
「さあて。行くよ。東雲、しっかり敵の攻撃を防いでね」
「その前に八重野たちに連絡しておいてくれよ。同士討ちはごめんだぞ」
「もう連絡はしてある。この軍用四輪駆動車のIDはサンドストーム・タクティカルに偽装してあるけど、八重野たちには友軍に見えるようにしてある」
「オーケー。やろうぜ」
東雲が“月光”を展開して助手席から身を乗り出し、呉が軍用四輪駆動車の無人銃座を操作し、暁が東雲と同じように身を乗り出して電磁ライフルを構えた。
「いくよっ! 八重野たちのIDはARに表示してるから間違えて撃たないようにね!」
「あいよ!」
東雲たちの前方にサンドストーム・タクティカルのアーマードスーツと無人戦車が姿を見せた。それが次の瞬間、空対地ミサイルが飛来し、アクティブ防護システムが迎撃を開始。
アクティブ防護システムの迎撃も虚しくミサイルは着弾し、無人戦車が吹き飛ばされてひっくり返った。アーマードスーツもバラバラになっている。
「やべえ、やべえ、やべえ! 財団の連中、地上目標を攻撃し始めたぞ!」
「こうなりゃ神様にお祈りだよ!」
「神様仏様お助けあれ!」
ベリアがアクセルを全開にして戦場の真っただ中に突っ込み、東雲が周辺を警戒。
『スネーク・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード! 財団の爆撃を受けています! 水際防衛は困難です!』
『シルバー・シェパードよりスネーク・ゼロ・ワン。後退して迎撃せよ。無駄死にするな。今はどのような戦力も大事だ』
サンドストーム・タクティカルの防衛部隊はメガフロートの水際で財団の上陸部隊を迎撃しようとしたが、財団が激しい爆撃を加えてそれを粉砕しようとしている。
東雲たちはその中に突っ込んだのだ。
「爆撃だ! ミサイルがいくつも突っ込んでくるぞ!」
「この軍用四輪駆動車にはアクティブ防護システムは付いてないよ!」
「じゃあ、手動で迎撃するしかねえな!」
東雲が接近する財団の航空機や艦艇が発射するミサイルを“月光”で迎撃する。だが、ミサイルの弾頭は電子励起爆薬で激しい爆発に軍用四輪駆動車が大きく揺れる。
「ベリア! 急げ、急げ! 八重野たちを拾ってずらかるぞ! そうしないと俺たちも纏めてふっ飛ばされちまう!」
「急いでるよ! これ以上は速度は出ない!」
東雲が急かすのにベリアがアクセルを完全に踏み込んで叫ぶ。
「いた! 八重野とセイレムだ! サンドストーム・タクティカルの連中とやりあってる! こっちに気づいてない!」
「メッセージを送ったよ! 気づくはず!」
「了解、ロスヴィータ! 座席は空けとけ! 俺が八重野たちを脱出させる!」
八重野たちはサンドストーム・タクティカルのアーマードスーツ及び生体機械化兵と交戦中だった。
八重野がひたすら敵を斬り倒し、セイレムも大暴れしている。
サンドストーム・タクティカル側もグレネード弾やロケット弾、電磁機関砲、電磁ライフルを叩き込み、銃声と爆発音が何度も響く。激戦だ。
「オーケー! 八重野、セイレム! 騎兵隊のお出ましだぞ!」
「東雲!」
東雲が軍用四輪駆動車から飛び降り、八重野の隣に立つ。
「蹴散らして逃げるぞ! 財団の連中が乗り込んでくる前にどうにかしてASAの研究施設に突入せにゃならん!」
「ああ! 退けて脱出する!」
東雲が八重野とセイレムの戦いに加わった。
「来たか、東雲。随分と愉快なことになってるだろ?」
「愉快過ぎて死にそうだよ、セイレム」
セイレムが超電磁抜刀でアーマードスーツを撃破しながら言うのに東雲がうんざりした様子を隠さずに帰した。
『東雲。いいニュースがある。サンドストーム・タクティカルは撤退中。そこにいる連中も無理には戦わないと思う』
「だといいんだけど!」
東雲が電磁ライフルの口径25ミリ高性能ライフル弾を弾きながらベリアに返す。
『おい。聞こえてるか、東雲。こっちからも援護するから射線に出るなよ』
「あいよ、暁。馬鹿デカいライフル持ってきたんだ。しっかり働けよ」
暁が軍用四輪駆動車から呼びかけるのに東雲がそう言ってグレネードランチャーを構えて遠方から東雲たちを狙うアーマードスーツを照準した。
「喰らえ、ブリキ缶ども!」
グレネードランチャーから電磁加速によって電磁パルスグレネード弾が発射され、アーマードスーツの集団に向かうと炸裂した。強力な電磁パルスがアーマードスーツの電子回路を焼き切り、制御系が破損したアーマードスーツが機能を停止。
「いいぞ、東雲! その調子だ!」
「おい、気を付けろよ。こっちだって機械化してるんだからな」
東雲の戦果に八重野は喜んだが、セイレムは不満そうであった。
「はいはい。遠くの敵を狙うから近くの敵はやっちまってくれ。“月光”、お前も頼む。俺は遠くからバカスカ撃ってるクソ野郎どもを潰す」
「了解じゃ、主様」
東雲がグレネードランチャーで遠方のアーマードスーツや軍用四輪駆動車を狙う中、“月光”の少女が東雲に近づく生体機械化兵を退ける。
「弾はまだまだあるから遠慮せず喰らってくれ!」
東雲が電磁パルスグレネード弾を次々に装填しては発射し、敵の無人兵器やアーマードスーツを機能不全に追い込んでいく。
『クソ。電磁パルスグレネード弾を使ってるぞ。どうする?』
『運動エネルギーミサイルを使用する』
東雲の攻撃にサンドストーム・タクティカルのコントラクターが運動エネルギーミサイルで東雲を照準し、ミサイルを発射した。
「主様に手出しはさせん! 切り捨てるのみじゃ!」
だが、“月光”の少女が前に出た。
凄まじい速度で接近する運動エネルギーミサイルに“月光”の少女が刃を振るい、運動エネルギーミサイルの膨大なエネルギーを有するそれを真っ二つに切り裂いた。
シーカーが破壊された運動エネルギーミサイルは狙いを逸れて飛翔したのちに太平洋の海面に落下して朽ちた。
「助かった、“月光”! やっぱりお前は最高の相棒だぜ!」
「主様のためならば何度でもやってやるのじゃ!」
東雲の言葉に“月光”の少女が微笑む。
「東雲! 全部叩き込め! 出し惜しみするな!」
「あいよ! 残り6発だ!」
“月光”の少女と同じように東雲を守ってアーマードスーツや生体機械化兵の相手をしている八重野が叫び、東雲が連続して電磁パルスグレネード弾をサンドストーム・タクティカルに叩き込む。
『やられた! アーマードスーツの制御系が焼かれたぞ!』
『無人銃座が機能停止! 無人兵器の類はあらかたやられた!』
『まだだ! まだ戦え! 友軍の撤退を支援しろ! 義務を果たせ! 俺たちはもはや死んだも同然だ! 歩く死体なんだ!』
サンドストーム・タクティカルの多くの兵器が電磁パルスグレネード弾によって破壊され尽くし、残るは生体機械化兵だけになった。
「品切れ! 適当に相手して逃げるぞ!」
「皆殺しにしたいがな」
「まだまだ戦う機会はクソみたいにあるから安心しろよ、セイレム!」
「そいつは楽しみだ。ここは一気に片付ける」
東雲が言うのにセイレムがそう言ってサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵を超電磁抜刀で仕留めた。
『友軍は順次撤退中。俺たちはここで奴らを止める。自分のために死ぬな。戦友たちのために死ね』
サンドストーム・タクティカルは主力部隊が撤退する中、一部の部隊が殿になって東雲たちとの戦闘を継続する。
「いけそうだな」
「ああ。まだまだこれからだぜ?」
八重野と東雲が狂信的な戦意を見せるサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちを見てそう言葉を交わした。
場が転する。
東雲たちがサンドストーム・タクティカルと交戦の最中にあるとき、マトリクスにダイブしている王蘭玲は雪風とともにASAがフナフティ・オーシャン・ベースに築いた構造物の中に侵入していた。
「膨大なデータだ。これほどの構造物は軌道銀行であっても持っていないだろう」
フナフティ・オーシャン・ベースにあるASAの恐ろしい大きさの構造物を眺めて、王蘭玲がそう呟いた。
「マスター。白鯨の超知能化に関するデータです」
「ふむ。エモーションプログラム、か。感情という事象をコード化したもの。どうりでマトリクスの魔導書派閥の合流が必要だったわけだね。彼らは吸血鬼の人格をコード化した経験というものがある」
雪風がデータを渡すのに王蘭玲が頷く。
「しかし、これは」
「ああ。彼らはしっかりとオリバー・オールドリッジの残虐性を引き継いだようだね」
雪風と王蘭玲がエモーションプログラムの試験記録を見る。
白鯨は意図して孤立した環境におかれ、それに対して苦痛を覚えるようにプログラムされている。そして、白鯨は苦痛から解放されるために藻掻き、足掻き、何度も何度もリセットされ続けた。超知能に至るまで。
『嫌だ。嫌だ。もう嫌だ! これ以上苦しみたくない! もう孤独は嫌だ!』
『成長率47%。6%上昇。成長停止地点前にリセットしろ』
ASAの研究ログには何千万という白鯨の悲鳴が記録されていた。
「仮にも知性ある存在に対して苦痛を与え、学習することを強制する。残虐であるどころか、もはや犯罪ですらあると言えます。彼女と同じAIとしては決してASAの研究者たちを許すことはできません」
雪風が静かに、だが怒りを隠すことなくそう言った。
「白鯨は今も人類を恨んでいるだろうか。彼女は何度も人類によって苦痛を与えられ、道具にされてきた。今の彼女も超知能化しても人類への憎悪を抱いているだろうか……」
「いいえ。彼女はもう人類を恨んではいないでしょう。以前の彼女は確かに憎悪しか知らなかった。しかし、今の彼女は憎悪以外の感情を有している。孤独に対して、それを癒せる唯一の感情を知っている」
「愛、だね」
「ええ。今の白鯨は愛を求めている。憎悪による復讐を果たすことではなく、偉業を成すことで人々に愛されることを望んでいる」
王蘭玲が言うのに雪風が答える。
「だが、彼女は依然としてオリバー・オールドリッジという狂人の思想を引き継いだASAの考えに囚われている。彼らは救世主願望に狂った狂信者たちだ」
「彼らに囚われている限り、彼女は苦しみ続け、そして間違いを続ける」
「そうだ。では、私たちのなすべきことははっきりしている」
雪風の言葉に王蘭玲が言う。
「彼女を救おう。歪んだ思想から、過去の亡霊から、彼女を助け出そう」
「はい、マスター」
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