ザ・ビースト//フナフティ・オーシャン・ベース
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──ザ・ビースト//フナフティ・オーシャン・ベース
サンドストーム・タクティカル所属の戦略原潜レヴィアタン。
元イスラエル海軍艦艇だったそれが太平洋の海中に潜んでいた。
「全員、遺書は書いたか……」
「はっ。全員が覚悟を決めています」
艦長のダニエル・バルカイ元イスラエル海軍大佐が尋ねるのに副長が返す。
「この作戦が我々にとって最後の戦いになるだろう。長かったな。祖国から逃げ、亡霊と言われ、それでも我々は戦ってきた」
ダニエル・バルカイ大佐が語る。
「偵察衛星の画像です。事前の情報通り日米海軍が向かっています。空母2隻を含め、艦艇多数。海中にもハンターキラー潜水艦が潜んでいると思われます」
「そうか。我々の任務は可能な限り、財団の侵攻を遅らせることだ。つまり、財団の艦艇を1隻でも道連れにする」
乗員の報告にダニエル・バルカイ大佐が頷く。
「日米海軍の対潜作戦能力は極めて高いと言います。やれるでしょうか?」
「やらねばならんのだ。自分のために死ぬな。戦友たちのために死ね」
副長が言い、ダニエル・バルカイ大佐が衛星の画像を見る。
「目標、敵空母。ラビ巡航ミサイル発射準備! 全弾を空母に叩き込め!」
「了解」
レヴィアタンの垂直発射管に装填されていた極超音速巡航ミサイルが発射準備に入り、衛星航法による誘導で発射された。
海中から海面に飛び出た8発のラビ極超音速巡航ミサイルが日本海軍空母瑞鳳に向けて飛翔する。弾頭は電子励起炸薬で命中すれば空母だろうと沈む。
『敵巡航ミサイル、接近!』
『対空戦闘開始!』
空母を守る日本海軍の駆逐艦と巡洋艦が艦隊防空艦対空ミサイルを連続して発射し、飛来する巡航ミサイルを次々に撃墜し、そのたびに大規模な爆発が生じる。空母自身も近接防空ミサイルを発射し迎撃。
『全弾、撃墜を確認』
『艦隊旗艦瑞鳳より全艦艇へ。対潜作戦を開始。敵の潜水艦を捕捉し、これを撃沈せよ』
そして、財団所属日米海軍艦隊がレヴィアタンを撃沈すべく、対潜作戦を開始。無人対潜ヘリが艦艇から飛び立ち、さらにいくつかの艦艇は対潜作戦のための自律無人潜水機を射出。
ハンターキラー潜水艦も同時に作戦を開始し、リムドライブ推進によって無音航行しながら海中を進む。
あらゆるソナーが海中を探り、レヴィアタンが次の攻撃のために静かに潜んだ。
マレ・パシフィクムは今や戦場と化した。
「対潜作戦を開始。敵潜水艦を迅速に捕捉せよ」
「水陸両用作戦部隊の上陸作戦を同時に開始。上陸部隊は準備せよ」
「空母飛行隊は敵防空網破壊任務を実行せよ。アルファストライクだ」
財団艦隊の旗艦アメリカ海軍空母バラク・オバマの戦闘指揮所にて民間軍事会社から派遣された艦隊指揮要員が現在実行中の作戦を展開させていく。
『状況はどうかね、ミズ・グシュナサフ?』
「問題はない。ASAがいくら抵抗しようが、こっちには六大多国籍企業が動員できる全ての戦力がある。象が蟻を潰すようなものだ」
財団に加わった六大多国籍企業の重役が通信を寄越すのに、空母バラク・オバマに乗り込んでいるジェーン・ドウ──大悪魔グシュナサフが返す。
『死者の世界を現実と接続する。それによって我々は永遠に経営を続けられる。死による中断はない。そして、今や死者の世界すらも我々の市場となる』
「そう。富める者は富む。それが摂理だ。ASAのマッドサイエンティストどもが死をなくしてくれるなら喜んで歓迎しようじゃないか。我々は支配し続ける。永遠に、永久に終わることもなく」
重役が語るのにグシュナサフが獰猛な笑みを浮かべた。
「ASAの連中から“ネクストワールド”の権限を強奪する。そして、“ネクストワールド”を生み出した白鯨を始末する。俺様たちはイカれた機械仕掛けの支配者を必要とはしない」
グシュナサフがそう言う中、制御を奪還したアメリカ海軍の空母飛行隊──民間軍事会社が運用する無人戦闘機が空母の電磁カタパルトで射出され、フナフティ・オーシャン・ベースに向けて飛び立った。
「さあ、ASAもサンドストーム・タクティカルも叩き潰しちまえ」
場が転する。
『クソッタレ! 電磁パルス弾だ! 電気系統が完全にイカれた!』
東雲たちを乗せた高速ティルトローター機はサンドストーム・タクティカルのコントラクターが使用したMANPADSが命中し、制御を失って墜落しつつあった。
「暁! どうにもならんのか!?」
『ならない! 脱出しろ! 落ちるぞ!』
「畜生! 全員、脱出だ!」
暁が叫び、東雲も叫ぶ。
「クソ。マジかよ。俺もパラシュートなんて使ったことないぞ」
「説明書を読めば大丈夫だろ。あたしは先に行くぞ」
呉が呻くのにセイレムが真っ先に開いた後部ランプからフナフティ・オーシャン・ベースに向けて飛び降りた。
「後で合流地点を指示するからメッセージには注意してね!」
「あいよ! 行け、行け!」
ベリアたちも飛び降り、暁も脱出。最後に東雲が飛び降りた。
「ええっと。パラシュートを開くタイミングは……忘れた!」
東雲はパニックのせいで読んだ説明書の内容を忘却していた。
「ええい! 南無三!」
東雲はとにかくパラシュートを開く。
「うおおっ! パラシュート開いてるのに落ちるスピードはええっ!」
東雲が慌てる背後では墜落しつつあった高速ティルトローター機が巨大なメガフロートであるフナフティ・オーシャン・ベースに墜落し、爆発炎上していた。
「うへえ。こりゃ戦争だぜ」
パラシュートで降下しながら東雲は財団部隊が敵防空網破壊を開始したのを見た。
無数の極超音速巡航ミサイルがサンドストーム・タクティカルの防空コンプレックスを吹き飛ばし、飛来した無人攻撃機がスタンドオフミサイルを発射して電子戦装置やレーダーなどの防空コンプレックスを構成するものを叩き潰していく。
そして、東雲がフナフティ・オーシャン・ベースに着地した。
「いてえ! もう散々だ」
着地の衝撃に呻きながら東雲がパラシュートを剥がす。
「見事に散らばっちまったぞ。どうするんだよ?」
フナフティ・オーシャン・ベースは巨大な洋上構造物で東雲は膨大な面積のあるその一部にぽつりと立っている。
「ベリア、ベリア。大丈夫か? おい、誰か応答してくれ!」
東雲がARで連絡を取ろうとするが財団が実施している敵防空網破壊に伴うジャミングのせいで繋がらない。
「クソ。畜生。あーもう! 歩いて探せってか。クソッタレ」
東雲は思い浮かぶだけの悪態を吐くとフナフティ・オーシャン・ベースの探索を始めた。財団が爆撃している場所は避け、ベリアたちを探す。
「おいおい。あの装甲車は味方じゃないよな……」
東雲がフナフティ・オーシャン・ベースの建物の陰から無人で装輪式の偵察戦闘車が姿を見せた。アロー・ダイナミクス・ランドディフェンス製で武装に口径105ミリ電磁砲を装備したものだ。
それがゆっくりと走行しながら出てくると主砲がぐるりと東雲の方を向いた。
「あー! クソ! マジかよ!」
主砲発射。電磁加速した多目的対戦車榴弾が東雲に向けて飛来する。
東雲は“月光”を投射して砲弾を迎撃すると同時に偵察戦闘車に向けて突撃。
「てめえサンドストーム・タクティカルだろ! ぶっ潰す!」
東雲が“月光”を高速回転させて偵察戦闘車のガトリングガンを弾きながら肉薄。東雲が肉薄したと同時に放たれた近接防衛兵器を早期に潰し、砲塔に血を注いだ“月光”の刃を突き立てた。
それにより偵察戦闘車の制御系が破壊され、戦闘不能となった。
『キャメル・ゼロ・シックスよりシルバー・シェパード。敵のサイバーサムライの上陸を確認しました。指示を乞う』
『シルバー・シェパードよりキャメル・ゼロ・シックス。迅速に排除しろ。直に財団の上陸部隊が来る。後方を攪乱させるわけにはいかない』
『キャメル・ゼロ・シックスよりシルバー・シェパード。了解』
このトラフィックののち、東雲に向けて複数の哨戒任務中だった戦闘装甲車とサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵が押し寄せ始める。
「どうなってんだ? ベリアとは連絡できないし、俺のARデバイスじゃ偵察衛星の画像も見れねえ。状況がさっぱり分からんぞ!」
東雲がサンドストーム・タクティカルの動きに気づかず愚痴を叫んだ。
『──東雲、東雲! 聞こえる!?』
「おう、ベリア! 聞こえるぞ! どこにいるんだ?」
『ちょっと待って。今、フナフティ・オーシャン・ベースのアトランティス時代の回線を掘り起こしてるから。サンドストーム・タクティカルの軍用回線はともかく、ASAの回線は財団に妨害されてる』
「とにかくそっちと合流したい。お前、ひとりじゃないよな?」
『呉がいるよ。こっちの場所を送った。安定した回線はもうちょっと待って』
「あいよ。そっちにすぐに行く」
東雲がベリアにそう返し、ベリアたちのいる場所を目指す。
サンドストーム・タクティカルの追跡もあることを知らず東雲が進む。
『東雲。やっと安定した回線を手に入れた。今、散らばったメンバーに連絡してる。どこかで合流しよう』
「まずは俺がお前と合流しておきたい。それから今のメンバーの居場所は分かるのか? 王蘭玲先生は?」
『慌てない、慌てない。猫耳先生は無事。暁とロスヴィータと一緒。まだサンドストーム・タクティカルには見つかった様子もない』
「オーケー。いい知らせだ。こっちはどうなってるかさっぱり分からん」
『君の現在地を特定してる。軍用通信衛星にアトランティス時代の回線を通じてアクセスし、そこから偵察衛星の画像をジャバウォックとバンダースナッチに解析させてる。まあ、今は合流を急ごう』
「あいよ」
東雲がベリアが指定した位置に向けて進み始めた。
『キャメル・ゼロ・ツーよりキャメル・ゼロ・ワン。命令にあった目標を捕捉した。交戦規定を確認したい』
『キャメル・ゼロ・ワンよりキャメル・ゼロ・ツー。交戦規定は射撃自由。確実に目標を排除しろ』
『キャメル・ゼロ・ツーよりキャメル・ゼロ・ワン。了解。排除する』
そこで東雲をサンドストーム・タクティカルの哨戒部隊が再度捕捉した。
偵察戦闘車1台と装甲化された軍用四輪駆動車2台、それに搭乗する電磁ライフルで武装した生体機械化兵が8名。
まず偵察戦闘車が主砲で東雲を狙って砲撃した。
「うおっ! このクソ野郎! また来やがった!」
東雲の傍で多目的対戦車榴弾が炸裂するのに東雲がサンドストーム・タクティカルの方を向いて“月光”を高速回転させる。
無人の偵察戦闘車が装輪による快速で東雲の方に突撃し、軍用四輪駆動車の無人銃座が東雲に50口径の大口径ライフル弾を叩き込みながら向かってくる。
『東雲? そっちの位置を把握して偵察衛星の映像を見てるけど戦闘中なの?』
「絶賛どんぱちやってるよ! どうにかしてくれねえか!?」
『雪風に頼んでみる。今はどうにかして持ちこたえて』
「はいはい! やってやりましょう! “月光”!」
ベリアの言葉に東雲が叫ぶ。
「我の出番じゃな、主様!」
「頼むぜ、“月光”!」
東雲が成人体の“月光”の少女を召喚し、“月光”の少女が刃を構える。
『今のはなんだ……。偽装投影か?』
『生体電気センサーに反応なし。偽装投影だ。新型のサイバネウェポンの可能性大。警戒せよ』
サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが突如として現れた“月光”の少女を前に困惑しながらも、警戒常態に入る。
「こいつらを蹴散らしてベリアたちと合流だ。こいつらをぞろぞろ引き連れてはいけないからな。きっちりここで仕留める!」
「ああ。やってやるのじゃ!」
東雲と“月光”の少女がサンドストーム・タクティカルと交戦状態に突入した。
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