コンクリートジャングル・クルーズ//テセウスの戦い
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──コンクリートジャングル・クルーズ//テセウスの戦い
TMCの地下に広がるかつての都市計画の夢の跡。ジオフロント計画で作られた空間。
そこで東雲と八重野は自分たちを追跡している財団の繰り出してきた半生体兵器“天雷”を迎撃しようとしていた。
「音響センサーが独特の歩行音を捉えている。近いぞ。距離およそ1100メートル」
「既に主砲の射程には入ってるな。撃ってこないのは遮蔽物があるからか?」
「かもしれない。何せ敵の第5世代主力戦車を曲がりなりにも撃破できる能力があるんだ。ガンランチャーになっている主砲の有効射程は8000メートルを超える」
「相手にするの嫌になってきた」
八重野が地下に放置されていた建築機材の影に隠れながら暗闇を暗視装置で見つめるのに東雲は放置された旧式もいいところの重機の陰に隠れてため息を吐いた。
「……見えた。間違いなく“天雷”だ。情報を共有する」
八重野が捉えた“天雷”の映像が東雲に送信されてくる。
「こいつはまた」
八重野が捉えた“天雷”の映像を東雲が見つめた。
“ハニー・バジャー”と違って巨大な人工筋肉とタングステンの骨格、そして複合電磁装甲で構成される五脚で本体が支えられている。五脚という歪な形は戦闘時に足が破損した場合にバランスを維持するためだ。
そして、本体は無人戦車に似たステルス性を有するフォルムの戦車砲を備えた砲塔が設置され、そこを中心に様々な兵装が設置されている。
「また面倒な相手だな、こいつは。それも1体じゃなくて3体もいやがる」
そう、東雲たちを追跡してきた財団の“天雷”は1体ではなかったのだ。3体が援護し合いながら進んでいる。
「作戦を立てないと不味いぞ。少なくとも、俺たちがどいつから相手にするかぐらいは決めないと」
「敵は油断なく相互の死角をカバーしている。隙がない。どれから相手にしても危険は一緒だ。その上、ちょっとばかりダメージを与えても第2世代の半生体兵器である“天雷”はリソース転換で回復する」
「やるなら一撃か。よし、作戦はその時に応じて考えるか。俺だって血がある限り多少の損害はどうにかなるし、お前は不死身だ」
「ノープランで突撃するわけか」
「気分は万歳突撃だ」
東雲が“月光”を展開し、八重野が“鯱食い”の柄を握る。
「3カウント。気合入れろ」
東雲と八重野は3秒カウントすると一斉に遮蔽物から飛び出し、“天雷”へと向けて突撃を開始した。“天雷”のセンサーが暗闇の中で東雲と八重野をあらゆるセンサーで捉え、兵装の照準を向ける。
「来るぞ!」
ガンランチャーから電磁力と火薬による推進力で多目的対戦車榴弾が発射された。1発は八重野に向けて2発は東雲に向けて。
「クソッタレ! 戦車の相手するために作られたのに人間を虐めてるんじゃねーよ!」
東雲が飛来する多目的対戦車榴弾を“月光”を投射して迎撃。空中で砲弾が爆発し、もう1発はその爆発によって生じた衝撃波で軌道が逸れ、東雲から僅かに離れた地点に命中して炸裂した。
「八重野! 行けそうか!?」
「どうにかする! お前は下手をすると死ぬんだから気を付けろ、東雲!」
「わーってるよ!」
八重野が叫び返すのに東雲が“月光”を高速回転させながら“天雷”に向けて突撃する。既に2体の“天雷”はC4ISTARによってリンクされた共同交戦状態にあり、東雲を容赦なく火力を絶やさず攻撃した。
「とうっ!」
そこで東雲が“月光”を投射して“天雷”の脚部を一本破壊した。投射された“月光”が“天雷”の背後に回る。
「“月光”!」
そして、東雲が叫んだ。
「我の出番じゃな、主様!」
東雲によって投射された“月光”の刃から成人形態の“月光”の少女が現れ、その刃を握って構える。
「ああ! この化け物をぶちのめす!」
「任せるのじゃ!」
“天雷”のセンサーが捉えているのは東雲と八重野だけで、“月光”の少女は捉えられていない。その上、彼女は2体の“天雷”の背後にいた。
「行くぜっ! くたばりやがれ、ブリキ缶!」
東雲の突貫に対して“天雷”は容赦なく砲弾を浴びせかけた。
戦車砲は自動装填装置と砲弾の仕組みそのものの進化で発射間隔は極めて短く、艦載される速射砲並みの速度で砲弾を叩き込んでくる。
さらに電磁機関砲も絶え間なく東雲を攻撃するし、ロケット弾はサーモバリック弾頭のそれが次々に炸裂するのだ。
「ああ、もう! 殺す気かよ、畜生! “月光”! そっちから仕掛けてくれ!」
「了解じゃ!」
“月光”の少女を捉えられない“天雷”は背後から急速に迫る彼女を迎撃する様子もなく、“月光”の少女は“天雷”の背後から高々と飛び上がり、砲塔上面装甲に“月光”の刃を突き立てた。
電磁装甲が攻撃に反応して作動するも意味はなく、“月光”の刃は砲塔内の自動装填装置を破壊。1体の“天雷”の戦車砲が使用不可能になる。
「いいぞ! やっちまえ!」
東雲は戦車砲が使用不可能になった“天雷”にさらに攻撃を仕掛ける。脚部を二本の“月光”を投射して切断し、“天雷”のバランスが崩れたところを攻撃。
「ぶっ倒れろ!」
東雲が砲塔正面装甲というもっとも丈夫な部位に血を注いだ“月光”を突き立て、ついに“天雷”の制御系及びメモリーを破壊した。“天雷”は制御することも、リソース転換で回復することもできず崩れ落ちる。
「オーケー! 1体撃破! この調子で行こうぜ!」
「いい調子じゃの、主様!」
東雲と“月光”の少女のコンビネーションは完璧だ。
だが、敵はまだ残っている。
『ソードダンサー・ゼロ・ワンより全部隊。敵は情報通りサイバーサムライだ。“ネクストワールド”の使用を許可する。叩きのめせ』
『了解』
無人であるはずの“天雷”の内部に設置されていた通信装置が“ネクストワールド”を遠隔起動し、その周囲の現実にマトリクスの理が上書きされた。
「妙な感じになったな。もしかすると」
東雲はその気配を肌で感じ取りつつ、“月光”の少女とともに“天雷”に向けて突撃する。“天雷”は全火力を東雲に叩き込み続け、東雲の肉が抉れ、血が減っていく。
「“月光”!」
そして、東雲が“天雷”の脚部に“月光”を投射したとき違和感の正体が明らかになった。敵は魔術的障壁を展開して、投射された“月光”を弾いたのだ。
「やーっぱりか。いいぜ。こっちには奥の手がある!」
「障壁砕き!」
東雲と“月光”の少女がその魔力で障壁砕きを“月光”の刃に付与し、それを以てして“天雷”を襲撃する。
“天雷”はその事実を知らずに全火力を東雲に叩き込み続け、それを振り切って東雲が前進する。そして、東雲が肉薄すると近接防衛兵器である口径60ミリ迫撃砲弾が発射された。鉄球が撒き散らされ、東雲がミンチになりかける。
「く・た・ば・れ!」
「貰ったのじゃ!」
東雲と“月光”の少女が同時に“天雷”に刃を突き立てた。
障壁砕きが“ネクストワールド”を利用して“天雷”の展開していた障壁を貫き、“月光”の刃が“天雷”を引き裂く。
“天雷”は砲塔内の制御系とメモリ、そして主砲弾薬庫を破壊され機能を停止。強力なバッテリーが炎上を始め、炎に包まれていった。
「よっしゃあ! 撃破っ! やってやったぜ!」
「やったのう、主様!」
撃破された“天雷”を前に東雲と“月光”の少女が歓声を上げる。
「八重野! そっちはどうだ!?」
東雲が最後の“天雷”と戦っている八重野に声をかける。
「今、撃破した。やはり“ネクストワールド”は厄介だな」
八重野も“天雷”の砲塔を引き裂き、制御系とメモリを破壊していた。
「これで終わりか?」
「こいつらは猟犬だ。獲物を足止めするための使い捨ての駒。後から本隊が迫っているだろう」
「やべえじゃん。さっさと逃げようぜ」
東雲がそう言いつつ吉野に連絡を取る。
「吉野。追手は一先ず片付けた。そっちに合流するからナビしてくれ」
『了解。しっかりついてきてね』
吉野が東雲たちの現在地を地下に張り巡らされた回線によって構築されるマトリクスで把握し、トンネルの出口までのナビゲーションを開始する。
『ソードダンサー・ゼロ・ワンより全部隊。猟犬が全滅した。敵の脅威を修正。先遣部隊は熱光学迷彩を使用し、慎重に交戦せよ』
マトリクスに財団の追跡部隊のトラフィックが流れる。
太平洋保安公司の特殊作戦部隊が東雲たちをトンネルの中で捜索し始めた。高度軍用グレードの機械化ボディを使用する生体機械化兵が電磁ライフルを構え、暗視装置でトンネルの中を探りながら進む。
「逃げろ、逃げろ。連中だって俺たちがどこに向かってるかまでは把握できていないはずだ。これ以上どんぱちしてたら本当にTMCから脱出するチャンスを失っちまうぜ」
「そうだな。いくら連中を退けても意味がない。次から次に敵はやってくるし、最悪飛行場を先に抑えられてしまう」
東雲と八重野は吉野の正確なナビで真っ暗なTMCの地下空間を進み続ける。
「東雲。これは使えそうだぞ」
「工事用車両か。まだ動きそうか?」
「ああ。大丈夫だ。使える」
そこで八重野が作業員がトンネル内を移動するために使っていた乗員2名の小さな工事用自動車を見つけ、それに乗り込んでエンジンをかけた。無事にエンジンが動き出す。
東雲も乗り込み工事用自動車がトンネルをそれなりの速度で走った。
「おお。結構不整地に強いな」
「この調子で逃げ切ろう」
頑丈なオフロード対応のタイヤとサスペンションを備えた車両は荒れたトンネル内をスムーズに進み、ベリアたちとの合流地点であるトンネルの出口に向かっていく。
「もう少しだ。急げ、急げ」
「急かすな。これが全速力だ。所詮は工事用車両だからな。現場を行き来するのが目的のものだ。安全のためにも速度はそこまで出ない」
王蘭玲のSUVと比べると東雲たちが拝借した工事用車両は遅い。走るよりは速いが、のっそりとした速度でトンネル内を進んでいる。
『ソードダンサー・ゼロ・ワンより全部隊。目標は捕捉できたか? 報告せよ』
『ソードダンサー・ワン・ワンよりソードダンサー・ゼロ・ワン。ネガティブ。発見できず。捜索を続ける』
後方から特殊作戦部隊向けの軽量戦闘車両で財団の部隊が迫る。速度は東雲たちの工事用車両より軽量戦闘車両の方が速い。
『お兄さん。そこから真っすぐだよ。絶対に脇には逸れないでね。死ぬよ』
「死ぬって。何があるんだよ」
吉野から最後の連絡が来て東雲たちを乗せた工事用車両が地下鉄の路線になるはずだったトンネルを真っすぐ突き抜ける。
「やあ、東雲。大丈夫だった?」
「死ぬかと思ったよ」
出口になっていたのはやはり倉庫のような建物で、コンクリートが剥き出しの構造物の中にこの出口を管理している密輸業者の人間が先に到着したベリアたちを見張っていた。手には旧ロシア製の自動小銃だ。
「追手はいないだろうな?」
「見つかっちゃいないよ」
「なら、さっさと出ていってくれ。あんたらがいると迷惑なんだ」
「はいはい」
密輸業者の男がシャッターを指さすのに東雲が頷いた。
「無事でよかった」
「まだまだ死ねないよ、先生。ところで造血剤はあるかな?」
「積んである。後部座席だ」
東雲が尋ねるのにSUVの運転席にいる王蘭玲が後部座席を指さす。
「あった、あった。全く、血を流さない連中は嫌いだぜ」
東雲は“天雷”との戦闘で消費した造血剤を補充した。
「旧調布飛行場で暁が待ってる。飛行機も直に到着するよ」
「飛行機はどこから分捕ったんだよ?」
「ローコストキャリアーがメンテに出していたのを拝借。航続距離はツバルまで行くには少し足りないから経由地を考えておかないといけない」
「とうとう飛行機まで盗んだわけだ。犯罪者まっしぐら」
「人殺してる時点でどうでもいいでしょ」
東雲がため息を吐くのにベリアが呆れる。
「ここから旧調布飛行場は近いんだよな?」
「近いよ。すぐだから。猫耳先生、出発して」
東雲にベリアがそう答えると、王蘭玲に声をかけた。
王蘭玲のSUVは密輸業者の倉庫を出て、通りに入ると旧調布飛行場を目指して進んだ。上空にいるドローンや偵察衛星は東雲たちを捕捉できていない。
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