西海岸戦争//大井D&Cウェストコースト
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──西海岸戦争//大井D&Cウェストコースト
ニューロサンジェルス到着の翌日夜。
東雲たちは仕事を始めた。
「ベリア。偵察衛星の画像を頼む。できればALESSの連中のC4Iから連中の通信も傍受しておいてほしい」
『オーキードーキー。衛星の画像を送るよ』
東雲が車を運転しながら要請するのにベリアが応じた。
偵察衛星が捉えた大井D&Cウェストコーストの映像が送られてくる。
「現地に異常なし。ALESSの軽装歩兵部隊がいる。戦闘用アンドロイドも一緒だ」
「軍用四輪駆動車と強化外骨格を装備した部隊。大した脅威じゃないが、こいつらが警報を出すと重装部隊が派遣されてくるな」
「その前に片付けよう。八重野、暴動の準備は?」
呉も確認し、東雲が八重野に尋ねる。
「連絡が来た。後5分で始まる。黒人ギャングが使っているバーに発砲し、白人ギャングが使っているレストランに火炎瓶を放り込む。お互いがお互いを攻撃したと思って、暴動が起きるという寸法だ」
「オーケー。連中には暴れてもらおう」
八重野が報告し、東雲がARに表示されている時刻を見た。
今は2105だ。ニューロサンジェルスは夜もネオンとホログラムで輝いている。
「砲声だ」
「外だろう。まさかニューロサンジェルス市内を砲撃するほどアローも馬鹿じゃない」
遠くから砲声が響く。榴弾砲の砲声だった。
「戦争がすぐ隣で起きてるのにニューロサンジェルスは暢気なものだよな」
「どこかしらでいつも戦争が起きている時代だ。気にしていたら何もできない」
東雲が車の中でぼやくのにセイレムが肩をすくめた。
「東雲。ラジカルサークルが始めた。ギャングたちが騒ぎ始めてる」
「よし。行くぞ。俺たちは俺たちの仕事をやる」
東雲はそう言って車を出す。
ニューロサンジェルスのビジネス街を進み、大井D&Cウェストコーストのビルに向かう。ALESSのチェックポイントを偽造IDでまんまと通過し、ビルに向かって進んでいく。
「よしよし。問題はないな。このまま楽々とやっちまおう」
東雲が楽観的な意見を述べた直後だ。
砲声が遠くで響いたかと思うと近くで爆発音がした。
爆発音とともに吹っ飛んだのはさっき東雲たちが通過したALESSのチェックポイントだ。大きな爆発が生じ、ALESSの軍用装甲車とコントラクターが吹き飛んでいる。
「マジかよ。ニューロサンジェルス市内を砲撃しやがったぞ」
「知性化砲弾の砲撃だ。軍事目標だけを砲撃するつもりだぞ」
「クソ。滅茶苦茶しやがる。正気かよ」
呉が唸るのに東雲が吐き捨てた。
砲声は響き続け、砲弾がニューロサンジェルス市内に着弾。市内の全ての電子掲示板に警報が表示され、警報が鳴り響く。
『ニューロサンジェルス・イズ・アット・ウォー』
電子掲示板に表示された文言が事態を示している。
「現地の様子は?」
「ALESSの部隊は混乱してるみたいだ。コントラクターはビルの中に隠れた。軍用四輪駆動車は……砲撃で今吹っ飛んだ」
八重野が尋ねるのに東雲が答えた。
アローの雇っている民間軍事会社であるフラッグ・セキュリティ・サービスは自走榴弾砲で構築される砲兵部隊をニューロサンジェルスの周囲に展開し、ニューロサンジェルス市内のALESSに向けて砲撃を行っている。
センサーと限定AIに制御される知性化砲弾は軍事目標を狙って砲撃を行わせていた。
『東雲。ALESSの構造物から通信を盗聴してるけど、ニューロサンジェルスが砲撃されてるって本当?』
「マジだよ。連中、滅茶苦茶砲撃してやがる。あちこちで爆発だ」
『オーケー。分かった。AELSSがドローン部隊を展開させて応戦しようとしている。砲撃は長くは続かないはず。航空優勢はまだどっちも握れないから。小型のステルスドローンだけが行動できている』
「空から狙えば砲兵も弱いのか?」
『空を握られて弱くない軍隊はいないよ』
ALESSによる反撃が始まり、誘導爆弾を下げたドローンが飛行する。ドローンのエンジン音が東雲たちがいるビジネス街にも聞こえてきた。
「戦争だぜ。マジの戦争だ。勘弁してくれよ、畜生」
「さっさとお土産を掻っ攫って逃げるぞ、大井の」
「そうしよう。逃げるに限る」
セイレムが言うのに東雲が車を飛ばした。
「エンジン音。ALESSのドローンじゃない」
「じゃあ、なんだ?」
「無人戦闘機だ」
上空をエンジン音を響かせて、無人戦闘機が飛行していったかと思うと連続した爆発音が響いた。その後、地上から光が伸びるように地対空ミサイルが発射され、爆撃を行なった無人戦闘機が撃墜される。
「もう滅茶苦茶だぞ、こん畜生。空港はこれでも営業してくれるのか?」
「神様にお祈りするしかないな」
東雲は砲爆撃を受けるニューロサンジェルス市内を駆け抜け、道路を大井D&Cウェストコーストに向けて進み続ける。
『ALESSがニューロサンジェルス全域に空襲警報を出したよ。フラッグ・セキュリティ・サービスは航空戦力をカミカゼ突撃させてる。撃ち落とされるのを覚悟で突っ込ませてる。爆撃にも気を付けて』
「あいあい。頑張りますよ」
ベリアからの報告に東雲が急ぐ。
「もう少しだ。着くぞ」
「あたしたちはいつでも始められる」
「オーケー。行くぞ!」
東雲たちを乗せた車が大井D&Cウェストコーストのビルのエントランスに突っ込む。砲撃で破壊されたALESSの軍用四輪駆動車を脇を潜り抜けて、車は勢いをそのままにエントランスに突っ込んだ。
「おっぱじめるぞ!」
「やってやろう」
東雲たちが車から飛び降りる。
「侵入者だ!」
「サーカス・ゼロ・ワンより本部! 大井D&Cウェストコースト本社ビルにて侵入者だ! 本部、本部、応答せよ!」
「クソ! C4Iがハックされてる!」
ベリアたちがALESSの構造物に侵入し、C4Iを機能不全にさせている。そのせいでALESSのコントラクターたちの通信は妨害されている。
「手間取るなよ。時間がかかればかかるほどリスクは高くなる」
東雲がそう言ってALESSのコントラクターに“月光”を投射して仕留める。
「撃て、撃て!」
「ぶち殺せ!」
ALESSのコントラクターは東雲たちを狙って銃撃を行うが、そもそもここに配置されていたのが軽装歩兵部隊に過ぎず、強化外骨格を装備しているだけで火力が不足していた。
「覚悟しろ」
東雲たちを食い止めることはできずに防衛線は後退していき、八重野の突撃もあって敵のコントラクターたちは分断された。即席のバリケードを作って応戦するも、各個撃破されてしまっている。
『東雲。大井D&Cウェストコーストの無人警備システムがALESSの制御下に入った。今、焼き切ろうとしているけど時間がかかる。無人警備システムに警戒して』
「あいよ」
早速無人警備システムが動き始めた。
リモートタレットが天井から現れて東雲たちを銃撃し、警備ボットと警備ドローンが次々に現れては東雲たちを攻撃する。
「そんなこともあろうかと!」
東雲が電磁パルスグレネードを投擲し、発生した電磁パルスが無人警備システムの回路を焼き切って機能を停止させる
「よーし、よし。いい感じだ。電磁パルスグレネードを持ってきて正解だったぜ!」
東雲は景気よく無人警備システムに向けて電磁パルスグレネードを放り投げていく。
「東雲。気を付けろ。敵は無人警備システムだけじゃない。ALESSのコントラクターどもも生きている」
「知ってるよ。注意している」
八重野が警告すると東雲が頷いた。
東雲たちはALESSのコントラクターと無人警備システムを制圧していき、大井D&Cウェストコーストの施設内を進んでいく。
「前方に重機関銃陣地」
「蹴散らすぞ。援護してくれ、八重野」
「了解」
東雲が八重野に援護されて大口径ライフル弾を叩き込んでくる重機関銃陣地に突撃し、そこにいたコントラクターたちを斬殺した。
「そろそろか? ベリア、目標の位置情報をくれ」
『オーキードーキー。今、大井D&Cウェストコーストの監視システムをハックしている。よし、位置が分かったよ。目標はビルの66階にある研究室にいる。それからALESSの警備部隊もいるから気を付けて』
「無人警備システムはどうにかならんのか?」
『もう少しで焼き切れるから。今はそっちで凌いで』
「はいはい」
ベリアがそう言い、東雲がうんざりしたように頷く。
電磁パルスグレネードの残数が少なくなっている。
「今のうちに造血剤を放り込んどこう。で、エレベーターで上がる? それとも非常階段で上がる? 好きな方でいいぜ」
「エレベーターにしとこうぜ。時間がない」
「じゃあ、エレベーターな」
東雲たちはエントランスからエレベーターに到達し、エレベーターで目標がいる66階に向けて昇っていった。
『無人警備システム、制圧完了。もう心配しなくていいよ』
「サンキュー。目標に動きはないか?」
『今も66階にいる。ALESSの増援やらなにやらは今もところなし』
「いいニュース」
ベリアからの報告に東雲が頷く。
そして、エレベーターが66階に到着。
「さてさて、目標をゲットして逃げるぞ。ALESSの警備部隊はぶちのめす。外は大混乱だ」
東雲がそう言って目標がいる研究室に走った。
「いたぞ。ALESSの警備部隊だ。ぶちのめせ!」
「敵だ! 本部、本部! 応答せよ!」
東雲たちが突っ込んでくるのにALESSの警備部隊が応戦。激しい銃撃が行われる中を東雲たちが駆け抜けて、ALESSの警備部隊の懐に飛び込んだ。
「畜生! 敵はサイバーサムライ──」
「死ね」
東雲たちは一瞬でALESSのコントラクターたちを仕留めた。
「片付いた。目標とご対面といこう」
東雲が研究室の扉を開く。
「な、なんだ、君たちは!?」
「うるさい。黙ってろ」
中にいた研究者たちが叫ぶのに東雲が生体認証を行う。
「確認。あんたが南島エルナ博士だな?」
東雲が呼びかけたのはアジア系の40代前半の女性研究者だった。
「大井のお出迎えって訳ね?」
「そういうこった。ここから逃げるぞ」
「ええ。もう軟禁されるのはうんざり」
南島エルナが呉と八重野に護衛され、東雲たちは大井D&Cウェストコーストのビルからの脱出を図る。
『東雲。落ち着いて聞いて。今、合衆国大統領がニューロサンジェルスの暴動に対して海兵隊と海軍を動員することを決定した。表向きはアメリカ軍だけど、実際はアローの部隊だよ。大統領の決定もアローの圧力』
「畜生。軍隊が乗り込んでくるのかよ。空港はまだ動いているのか?」
『空港は大丈夫。ALESSの重武装部隊が守ってる。地対空ミサイルと高出力レーザー防衛システムが配置されているから砲爆撃の心配もない』
「じゃあ、空港に逃げ込まないとな」
ベリアからの知らせに東雲たちが急ぐ。
『足を準備したよ。乗って!』
「ありがと、ロスヴィータ。全員乗り込め!」
ロスヴィータが準備したバンに東雲たちが乗り込み、ニューロサンジェルス国際航空宇宙港に向けて飛ばした。
依然として砲爆撃が続いており、エンジンの音と砲声、爆発音が響き続ける。ニューロサンジェルスではさらに空襲警報がサイレンを鳴らしていた。
「大混乱だぜ。これに加えてアメリカ軍まで来るってのは地獄だな」
「ああ。同意する。留まるべきではない」
東雲と八重野がそう言葉を交わしてニューロサンジェルス国際航空宇宙港にひたすら急ぐ。地対空ミサイルが発射されるのが見え、ニューロサンジェルスの外周から発射される砲弾を迎撃する高出力レーザーも見えた。
「戦争そのものだな。六大多国籍企業同士でここまでやり合うのは滅多にないぞ。戦争は他人がしてる分には儲かるが、自分たちがやっても儲からん」
「六大多国籍企業のお偉いさんが考えることは分からんよ、セイレム」
セイレムが外を見ながら言うのに東雲はそう返す。
東雲たちはニューロサンジェルス国際航空宇宙港に近づいていた。
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