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シンジケート//フィナーレ

……………………


 ──シンジケート//フィナーレ



 東雲と八重野は床に転がるチャイニーズマフィア極東道盟のボスである張敏を見つめた。髪は白髪交じりで、腹も中年腹だが、アンチエイジング処置を受けているのか肌は若々しく、逆にそれがグロテスクでもあった。


「おい。あんた、グローバル・インテリジェンス・サービスの仕事(ビズ)を手伝っただろう。あんたのおかげで友達がひとり死んだんだが? その上、余計な仕事(ビズ)までやらされてる」


「ど、どこの六大多国籍企業(ヘックス)の非合法傭兵だ……?」


「てめえが知る必要はねえよ。あんたが手伝ったクソグローバル・インテリジェンス・サービスの仕事(ビズ)にどれだけ関与したか吐け」


 東雲はそう言って張敏の腹を蹴り上げた。


「ぐう。クソッタレ。この六大多国籍企業の犬が。舐めやがって。絶対に報復してやるからな。覚悟してろ」


「馬鹿なこと言ってるなよ。俺たちが気づいて大井が気づいてないと思ってるのか? 残り30分で大井統合安全保障の強襲制圧部隊が到着して皆殺しにするぞ」


「畜生」


 東雲がARで残り時間を見る。


 30分でこの男から情報を引き出さなければ大井統合安全保障の強襲制圧部隊によって一緒に蜂の巣にされる。大井統合安全保障の強襲制圧部隊は殺戮を撒き散らすだけで、治安を回復させるために派遣されるわけではない。


「八重野。拷問は得意か?」


「それなりには。だが、端末から情報を抜く方が早く済むぞ」


「そっちは直接接続(ハード・ワイヤード)して端末を探ってくれ。俺はこのクソ野郎と楽しくお喋りする」


「分かった」


 八重野がオフィスに置いてあるサイバーデッキに直接接続(ハード・ワイヤード)して、中の情報をダウンロードし始める。


「なあ、便利だよな、BCIポート。マトリクスに繋げば別世界が味わえるし、フルダイブのアクション映画も見れる。俺は心底羨ましく思うよ。かといってBCI手術を受けるつもりはこれっぽちもないがね」


「な、何が言いたい?」


「BCIポートってのは脳みその一部を外に出してるのと同じなんだぜ。これまで眼球だけが露出していたけれど、これからはBCIポートもだ。つまり、脳みそを直接どうこうできる手段ってわけだ」


 東雲はそう言ってデバイスを手にした。


「こいつはとあるギャングの連中を絞めたときに手に入れたものでな。物凄い効果のある電子ドラッグなんだよ。一度BCIポートに差し込めば火星までぶっ飛んで意識朦朧。その上、感覚器が鋭敏になる」


「待て。止めろ。止めてくれ」


「こいつはギャングの言い分で実際に効くかどうかは試してない。なんたって俺にはBCIポートという技術の恩恵を受けてないんでね。じゃあ、始めようか」


 東雲は張敏の頭を床に押し付けると、BCIポートにデバイスを突っ込んだ。


 次の瞬間、張敏の体がビクンと痙攣する。


「聞くぞ。グローバル・インテリジェンス・サービスの連中にどこまで協力した?」


「あ、ああ、ああ。れ、連中の装備を運んだ。セクター9/1から運び込まれたものを輸送した。銃火器、ドローン、グレネード弾」


「他には?」


「れ、れ、連中から金を受け取って偽装IDを準備した。ちゅ、ちゅ、ちゅ、中国で戸籍のデジタルデータが吹っ飛んだときに生まれた偽造IDだ」


「ふうむ。足も準備したんじゃないか?」


「し、した。車を準備した。ド、ドイツ製のSUVを2台。要人(VIP)警護のための装甲付きSUVだ。それを渡した。陸運局には偽造のIDで申請して、て、てある」


「なるほど。連中を匿ったりは?」


「し、し、した。このホテルに匿った。だが、ほんの数時間だ。本当だ。それ以上は関わっていない。し、信じてくれ!」


「あいにく、俺は疑り深くてね。もうちょっと聞かせてもらおうか」


 東雲はそう言って張敏の右腕の親指を切断した。


「あがががががが!」


 感度が上がっている張敏が激しく痙攣して泡を吹く。


「最初から質問だ。グローバル・インテリジェンス・サービスの連中にどこまで協力した? 全て言え。最初から全てだ」


「言う! 喋る! だから許してくれ!」


「じゃあ、喋れよ」


「ぶ、ぶ、武器弾薬を運んだ! 運んだ! く、く、く、く、車も準備した! ドイツ製の防弾SUV! そ、それから偽装IDを与えた! 匿った!」


「他には?」


「してない! 何もしてない! 本当だ!」


 張敏は泣き叫びながらそう言った。


「次の質問だ。また襲撃を行うという旨の連絡は来ていたか?」


「き、き、聞いてない」


「本当かな?」


 東雲が次は人差し指を切断する。


「聞いた! 聞いた! 大井医療技研がマトリクスの魔導書とやらを手に入れたら破壊工作のために潜入すると! その時も手を貸せと言われた! た、た、大金を貰ったんだ! ひ、引き受けるのは当然だろう!」


「大金目当てに命を失うことになったな。こういうのって朝三暮四っていうんだぜ?」


 東雲がそう言って手のひらを“月光”の刃で切り裂いた。


「ひががががが! や、やめろ! やめてくれ! 全て喋った!」


「おいおい。大井統合安全保障の強襲制圧部隊が来るまでまだ20分あるぜ?」


 東雲はそう言って肩をすくめる。


「他の犯罪組織の関与は?」


「し、知ってるヤクザのファミリーがひとつ。わ、わ、我々とも良好なビジネス関係にある連中だ。れ、連中も足を準備したり、セクター9/1からの脱出を支援したりしていた! ほ、本当だ!」


「なるほど。そのヤクザファミリーの名前は?」


「第三代河野組! そこだ!」


「オーケー。八重野、端末の情報は?」


 東雲が八重野に尋ねる。


「ダウンロード完了だ。急ごう。大井統合安全保障の強襲制圧部隊が来る」


「あいよ。じゃあ、あんたは大井統合安全保障に任せるよ。こうしてな」


 そう言うと東雲は張敏の片足首を斬り落とした。


 張敏は声にならない悲鳴を上げて、そのまま気絶し、失禁した。


「よし! いいことした! 嬢ちゃんたち、すぐにここには殺戮の嵐が吹き荒れるぞ。とっとと逃げることをお勧めするぜ。さあ、逃げろ!」


 東雲が水着姿の女性たちに向けて叫び、女性たちは逃げていく。


「俺たちもずらかろうぜ、八重野。強襲制圧部隊の皆殺し事業の巻き添えにされるのはごめんだぜ」


「ああ。すぐに逃げよう」


 東雲たちは非常階段を駆け下りる。


「強襲制圧部隊の到着まで残り12分!」


「急げ、急げ! 強襲制圧部隊のような連中はヘマをしない。時間通りに動く」


 東雲たちが必死に非常階段を降りている時、ティルトローター機のローター音が響いてきた。かなり低高度で飛行している音だ。


「畜生。来やがった。装甲車も来るぞ。ここが封鎖される前に逃げねえと」


「間に合わないかもしれない」


「その時は大井統合安全保障を蹴散らして逃げるさ!」


 東雲たちは非常階段を1階まで下り切り、エントランスに向かう。


「強襲制圧部隊の到着まで残り3分」


「装甲車が来てる。複数台。馬鹿デカい装甲車だ。パトロールじゃない。強襲制圧部隊の連中だ」


「急がなければ」


 東雲と八重野はエントランスから外に出る。


 同時にティルトローター機が上空に到達し、ホテルの屋上に強襲制圧部隊の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが降下していく。


「装甲車も向かってきてるぞ。ここは封鎖される。強襲制圧部隊の連中は動く目標には手当たり次第に鉛玉を叩き込む。文字通り、皆殺しのための部隊だ。全く、なんだってこんなことに!」


「愚痴ってもしょうがない。逃げるのに専念しよう」


 大井統合安全保障の強襲制圧部隊の八輪装輪装甲車が瞬く間に周囲を包囲していく。上空には軽装攻撃ヘリが飛行している。


「イーグル・ゼロ・ワンより本部(HQ)。目標の建物の封鎖を実行。指示を待つ」


本部(HQ)よりイーグル・ゼロ・ワン。敵対者は全て無力化せよ。相手はテロリストだ。損害を出さずに制圧せよ』


「イーグル・ゼロ・ワンより本部(HQ)。了解」


 強襲制圧部隊の口径20ミリの電磁ライフルを装備した生体機械化兵マシナリー・ソルジャー強化外骨格(エグゾ)を装備したコントラクターたちがホテルに突入していく。


「……どうやら先客がいたようだな」


 エントランスに広がる死体の山を見て強襲制圧部隊のコントラクターが呟く。


「抗争の可能性あり。未確認の敵に警戒せよ」


「イーグル・ゼロ・ワンよりバスティオン・ゼロ・ワン。地下室から当たれ。我々は1階から掃討作戦を実行する。交戦規定(ROE)はブリーフィングの通り。変更なし」


『バスティオン・ゼロ・ワンよりイーグル・ゼロ・ワン。了解』


 大井統合安全保障の強襲制圧部隊は文字通りの強襲制圧を開始した。


「生体電気センサーに反応あり」


本部(HQ)より展開中の全部隊。共通(C)戦闘(B)管理(M)ネットワーク(N)に接続し、情報を共有せよ』


「了解」


 それぞれのコントラクターとボット、ドローンの捕捉した情報が強襲制圧部隊のネットワークで共有される。


「生体目標3体。攻撃する」


 壁越しに電磁ライフルを叩き込み、部屋に隠れていた極東道盟の警備要員があっさりとミンチに変えられる。


「うわあああ! 撃て、撃て!」


「全目標を排除せよ。同士討ち(ブルー・オン・ブルー)に警戒」


 恐怖からおかしくなった警備要員が飛び出して自動小銃を乱射し、そして生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの装甲によって銃弾が弾かれた。


 警備要員たちの攻撃は通じず、電磁ライフルが警備要員を一方的にミンチに変える。


 一方的な虐殺が繰り広げられた。


 血肉が飛び散り、壁に大穴が空き、銃弾とグレネード弾が爆ぜる。


「た、助け──」


 命乞いをしようと、武器を捨てようと結果は同じ。死だけだ。


「ガキどもをぶつけろ! その隙に逃げるぞ!」


「行け、行け!」


 人身売買で手に入れた子供たちに武器を持たせて強襲制圧部隊にけしかける警備要員と構成員。元人民解放軍の精鋭は既に東雲たちによって壊滅させられたため、もう残っている戦力は僅かにしかない。


「子供か。容赦はするな」


「了解」


 強襲制圧部隊は相手が子供だろうが何の容赦もしない。


 電磁ライフルと機関銃で子供の群れを薙ぎ払い、グレネード弾で吹き飛ばす。


「クソ! クソ! クソッタレ! どうすりゃいいんだ!」


「来るぞ! 対戦車ロケットを準備しろ!」


 もうどうしようもなくなった極東道盟の構成員たちが対戦車ロケットから機関銃、拳銃まであらゆるものを準備する。


 だが、言ったように元人民解放軍の精鋭は全滅している。残るのはせいぜい警察上がりの素人に毛が生えたようなものしか存在しない。


「敵の抵抗が増大」


「叩きのめせ」


 そのような戦力に過ぎないのに大井統合安全保障の強襲制圧部隊はそれこそ元は台湾海軍陸戦隊やアメリカ陸軍のデルタフォース、韓国陸軍第707特殊任務大隊と言ったエリートだ。装備と練度の差から勝ち目などない。


「逃げろ! 逃げろ! 勝ち目なんてない!」


「屋上からも向かってきてる! 階段もエレベーターも封鎖された!」


「畜生!」


 強襲制圧部隊はホテルにいた全ての人間を残らず皆殺しにした。


 それから極東道盟の拠点であるこのホテル以外の場所でも一方的な虐殺が繰り広げられ、セクター13/6は大騒ぎになった。


 一般市民が巻き添えになり、無関係の建物が破壊され、銃痕が壁に刻まれる。


 強襲制圧部隊が撤収した場所では死体が温かいうちに死体漁り(スカベンジャー)たちがやってきてインプラントやデバイスを抜き取っていた。


 そして、セクター13/6は何事もなかったかのように通常運転に戻った。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] >子供か。容赦はするな 一応相手が何者かは確認するのか、目に付く奴には原型留めなくなるくらいに銃弾ぶちこめ、かと思ってた
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