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運び屋//開始

……………………


 ──運び屋//開始



「ジェーン・ドウから指示が来た。荷物はTMCセクター12/8に運べとさ」


 東雲が予定日の朝にそう言う。


「具体的にTMCセクター12/8のどこ?」


「さあ。分からんね。その時になって指示が来るんだろう。これまでもギリギリまでゴールは教えてくれなかっただろ?」


 東雲がそう言って肩をすくめる。


「分かった。護送用の装甲車については手配できている。12.7ミリにだって耐えられる代物。そう簡単には破壊されないよ。ただ、ちょっと目立つから用心して行動してね」


「あいよ。じゃあ、そろそろ成田に行くか」


「私たちはマトリクス上で支援するから。東雲たちは現実(リアル)で頑張って」


「行ってきます」


 東雲はそう言って部屋を出た。


「八重野。行くぞ」


「ああ」


 東雲は八重野を誘い、電車で成田国際航空宇宙港に向かう。


 電車でもなかなかの早さで東雲たちは成田国際航空宇宙港に到着した。


「よう、呉、セイレム」


「また一緒に仕事(ビズ)をすることになったな」


 呉とセイレムとは成田国際航空宇宙港の駐車場で合流した。


「こいつが護送手段か?」


「ひゅー。すげえ、ゴツイ装甲車だな。軍用じゃないのか?」


「軍用だな。ただアクティブ(A)防御(P)システム(S)の類はついてないから、対戦車ミサイルが叩き込まれたらそこまでだ」


「うへえ」


 呉が言うのに東雲が愚痴る。


「まあ、抜からずやろうぜ」


「了解」


 セイレムがそう言い、東雲が頷いて成田国際航空宇宙港に入る。


 そこで東雲たちはホノルルからの到着便を待つ。


「荷物の中身についてはさっぱりなんだろう? どうも臭いが」


「ああ。分からん。価値のある荷物ってこと以外にはなにも。ジェーン・ドウはそれを手に入れたがっている。メティスから分捕ったものらしくてな。そのメティスもどこからか分捕ったらしいが」


「盗品か。俺たちに任されるんだから非合法な品だろうとは分かっていたが」


 時刻が着々と15時30分に近づく。


「ベリア。そっちはどうだ?」


『今のところ異常なし。成田国際航空宇宙港とその周辺の構造物が攻撃を受けている形跡はないよ』


「オーケー。このままスムーズに運ぶといいんだけどな」


 東雲がそう言って呉たちを見る。


「荷物について考えるか?」


「サイズは? 重さは? 後は核兵器(N)生物兵器(B)化学兵器(C)ではないかとか」


「勘弁してくれよ。ベリアが言うにはマトリクスの魔導書絡みかもしれないって話だ。メティス理事会のデータベースにマトリクスの魔導書のデータがあったとかで」


「ふうむ。となると、何かしらの記録デバイスか? マトリクス上でやり取りできないデータ。そいつを独立した記録デバイスで運んできている」


「マトリクスは魑魅魍魎が跋扈していて、ちょっとでもやり取りしたら強奪(スナッチ)されるってか。マトリクスってのは使い物にならねえな」


 便利なようで不便なものだなと東雲が愚痴る。


「使い方次第だよ。便利なものなのは確かさ。あんたの相棒がやっているように情報収集に使えるし、うざったい敵の警備システムを沈黙させることもできる」


「その点では確かに便利だな。なんだかんだでインターネットも便利だったし」


 セイレムが横から言うのに東雲が頷いた。


「しかし、運び屋がデータか。大抵はハッカーの方に任せるんだが。データを暗号化したり、論理爆弾を仕掛けたりするのはハッカーの仕事だ。運び屋がハッカーを兼ねているということも考えられるものの」


 呉がそう推理する。


「データじゃないかもな。何せ生物医学的サンプルってジェーン・ドウは言っていたからな。生物医学的サンプルって言われたら、ホルマリン漬けにされた臓器が思い浮かぶよ。気味悪い」


「生物医学的サンプルね。どうも繋がらない。マトリクスの魔導書はデジタルな存在だ。それが生物医学的サンプル? どういう意味だ?」


「どうもマトリクスの魔導書ってのは誰かの脳神経データの可能性があるとか。もっとも、人間の脳神経データを完全に採取するってことはできないらしいんだがな」


「プロジェクト“タナトス”の失敗か。完全な人間のデジタルデータは存在しない。少なくとも今のところは。人間のバックアップを取って疑似的な不老不死を実現することはできない」


「知ってるか。ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーも元の人格が失われていたらしいぜ。あいつ、同僚が機械化することに怯えたと言ったらしいが、あいつはその恐怖を感じることなくイカれちまってたってわけだ」


「脳あれだけ機械化してればな。それでもあの野郎は自分の人格よりも、大勢を殺すために身体を効率化させることを選んだ。ある意味では筋が通っている。人格があっても俺たちの主義主張はぶれるが、あいつはそうじゃなかった」


「そこまで殺しに執着するのはもはや病気だぜ」


 呉が語るのに東雲が吐き捨てた。


「人間の脳神経データを採取する方法はいろいろだ。方法によってデータも異なる。質問応答連想方式。全反応スキャン方式。構造学的解析方式。だが、メティスなら脳にダメージを与えるのを覚悟でニューロチェイサーが使える」


「ニューロチェイサー?」


「ナノマシンで脳を強引にスキャンするものだ。使ったら脳に深刻なダメージを与えることで知られている。メティスが欠陥を報告して回収したが、密かに使う連中もいるって話だ」


 東雲が尋ねるのにセイレムがそう言う。


「ふうん。物騒なものばっかり作ってるな、メティスは。だが、こいつはメティスのものじゃない。メティスが他所の六大多国籍企業(ヘックス)から分捕ったものだ」


「奪った、ね。どこのどいつから奪ったんだか」


「それは教えてくれなかった。教える義務もないとさ。運び屋がどこまで知っているのかも疑問だ。ジェーン・ドウの口ぶりからして、運び屋も何も知らない可能性がある」


仕事(ビズ)についてジョン・ドウ、ジェーン・ドウの類は情報を出し渋る。自分がどこの所属か隠し、誰が得をするのかを隠す」


「そうらしいな。いざってときは心置きなく使い捨て(ディスポーザブル)にできるってわけだ」


「そういうこった」


 東雲がぼやき、セイレムが小さく笑う。


「さて、そろそろ時間だ。ホノルルからの飛行機が到着したはずだ。ホノルルって今でも観光地なのか?」


「いいや。綺麗なビーチと陽気な人々が売りだったが、今や浜辺は異常発生した毒素を吐き出す微生物で覆われていて、収入がなくなった人間がスラムを作り治安は最悪。今や様々な品の違法取引が行われる地獄の島だ」


「やれやれ。酷い場所になっちまったようだな」


 憧れのハワイ旅行も今は地獄巡りかと東雲が呆れる。


「来た。航空便、到着。今から運び屋を確認する」


 東雲が到着した客たちの生体認証を行い、運び屋を探す。


「いたか?」


「待ってろ。探している。──いた」


 東雲が客のひとりに向かっていく。


 大きな金属製のスーツケースを引いている20代後半ほどの男で、顔立ちはアジア系。長身だ。飛行機から降りてきたのだから当然武装はしていない。


「よう、運び屋。お出迎えだ。確認してくれ」


「あんたがそうか。待ってくれ」


 運び屋がARデバイスで東雲の顔を生体認証する。


「確認した。聞いているだろうが、俺が暁涼だ。護衛を頼む」


「任せろ」


 そこで東雲のARにベリアから通知が来た。


『東雲。成田国際航空宇宙港の構造物が攻撃を受けてる。無人警備システムに気を付けて。急いでその場を離れることをお勧めするよ』


「クソッタレ」


 ベリアの言葉に東雲が悪態を吐く。


「おい。着いたところで悪いが早く移動するぞ。敵のハッカーがここを攻撃している。無人警備システムが暴走する可能性がある」


「クソ。追われているとは思っていたが、ここまで早く特定されるとは」


「どこでメティスの連中に見つかった?」


「バンクーバーでだ。メティス側の取引相手がメティス保安部にマークされてた。その保安部要員が白鯨派閥に情報を流した。それからハワイで撒こうとして、撒いたはずだったんだが、どうやらダメだったようだ」


「ブリティッシュコロンビア州は白鯨派閥の縄張りだ。当然だな」


「らしい。足は?」


「準備してある。行こうぜ」


 東雲たちは急いで成田国際航空宇宙港の出口に向かう。


「ところで荷物は何だ?」


「今は探るな。こいつはデリケートな荷物だとだけ思っていてくれ」


「あいよ」


 東雲、八重野、呉、セイレムが護衛する中、暁がスーツケースを引っ張って出口に急いだ。


 大井統合安全保障のコントラクターが警備する中を横切っていく。大井統合安全保障は警戒態勢を取っているが、東雲たちを異常だとは思わなかった。


「頼むから作動してくれるなよ、無人警備システム」


 あいつらは血を流さないから嫌いだと東雲が愚痴る。


『追加情報だよ、東雲。敵のハッカーは前回確認された連中だ。インペラトル。サイバーサムライも動いているはずだよ。ニンジャも。装甲車の運転は任せていい? こっちはハッカーを相手しないと』


「大丈夫だ。呉が運転する。それからニンジャってのマジで止めろよ」


 ベリアからの通知に東雲が心底嫌そうな顔をしてニンジャ呼びを否定した。


「この車だ。後部座席に乗れ」


「分かった。頼む。こいつはちゃんと運ばなければならない」


「仕事熱心だな」


仕事(ビズ)以上のことだ」


 暁はそう言い、装甲車に乗り込んだ。スーツケースを大事に抱えて。


「出してくれ、呉」


「了解」


 呉が運転席に座り、東雲が助手席に座って装甲車が発進する。


『東雲! 無人警備システムがジャックされた! 駐車場の出口のタレットが動くよ! 蜂の巣にされないようにね!』


「ああ。クソッタレ。勘弁してくれよ。呉、気を付けろ。リモートタレットが動くぞ」


 東雲が呉に警告する。


「クソ。マジだな。リモートタレットが動いてやがる。飛ばすぞ」


「あいよ」


 呉がアクセルを踏み込み、同時に駐車場の無人警備システムが作動しリモートタレットが東雲たちの乗っている装甲車を銃撃する。


「クソッタレ!」


「安心しろ。ここに設置されているのは7.62ミリのタレットだ。この装甲は抜けない」


 呉が言ったように装甲車の装甲はリモートタレットからの銃弾を弾き、装甲車は無事に駐車場を抜けて道路に入った。


「これからセクター12/8に向かってくれ。具体的な場所の指示はまだ出てない」


「気が遠くなりそうだな」


「そういう仕事(ビズ)さ」


 東雲がそう言って周囲を警戒する。


「で、荷物は何なんだ、運び屋……」


「重要なものだ。価値がある」


「あんた、何を運んでいるのか把握しているのか?」


「当り前だろ。ブツによって避けなければならないものは変わってくる。俺はオールドドラッグの類だって運ぶんだ」


 その時は麻薬探知を避けなければならないと暁が言う。


「今回避けなければならないことは?」


「はあ。あらゆるものだ。俗にいう生物医学的サンプルってものを運んでるんでね」


「データじゃないのか?」


「データだって? どうしてそう思った?」


「推測しただけだ」


 暁が尋ねるのに東雲がそう言う。


「俺はハッカーでもあるが、今回はデータの類じゃない。もっと繊細なものだ」


「じゃあ、何だよ? こっちだってあんたを命がけで守るんだから教えてくれないと困るぜ。本当に」


「そうだな。しいて言うならば」


 暁が告げる。


「生ものだ」


……………………

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