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コンフリクト//ベイエリア・アーコロジー

……………………


 ──コンフリクト//ベイエリア・アーコロジー



 八重野はワイヤレスサイバーデッキに接続し、ベリアからの連絡を待っていた。


『八重野君! 核爆弾が運ばれた先が分かるかもしれない』


「どこだ?」


 そして、呉の軍用輪駆動車の助手席にいた八重野にベリアから連絡が入る。


『放射線モニターが異常値を検出したルートを辿っていくと、ヒット。恐らく敵はベイエリア・アーコロジーに対して核爆弾を運び込もうとしている』


「アーコロジーか。確かに吹き飛ばせば大量虐殺が期待できる」


『それからこれは今のところは不確かだけど、メティスから企業亡命したAI研究者のダレン・I・グリーンがベイエリア・アーコロジーにいるって情報がある』


「あの男が何か重要な情報を握っている、というわけだろうか」


『今のところは分からない。だけど、ベイエリア・アーコロジーは幹部社員や上級研究者の居住する場所。軌道衛星都市に次いで、六大多国籍企業(ヘックス)が重要な技術者を囲い込むための場所でもある』


 軌道衛星都市のひとつであるオービタルシティ・エデンは大井が技術者を囲い込むのによく使われているとベリアは言った。


「敵はもう奪還を目指していない。殺害を目指している、と。それも核爆弾まで使って。経済的混乱と同時に重要な技術の漏洩も防げるというわけだ」


『うん。だけど、それだけ重要な場所なだけあって大井統合安全保障も警備を固めている。彼らが敵の非合法傭兵と撃破とはいかなくとも、足止めはしてくれるはずだよ』


「それでも急いだほうが良さそうだな」


『そうして。こっちは引き続き放射線モニターの数値を見てるから』


 ベリアからの連絡はそこで切れた。


「敵は核爆弾をベイエリア・アーコロジーに輸送中の可能性大とのことだ。急いだ方がいい。アーコロジーに核爆弾を持ち込まれた時点で不味いからな」


「了解。飛ばすぞ」


 呉が軍用四輪駆動車を走らせ、ベイエリア・アーコロジーに向かう。


 ベイエリア・アーコロジーは東京湾に面しており、セクター3/2にあった。


「そう言えば、あんた、自分のジョン・ドウを探してるんだって……」


「ああ。私を使い捨て(ディスポーザブル)にした上に、呪いまでかけていったクソ野郎だ。必ず殺す」


「そいつは、また。こうして拾ってもらえているならいいじゃないか。それに呪いってのはどういうことだ?」


「そのままの意味だ。私には呪いがかけられている。2年以内に死ぬという呪いだ」


「魔術か。ちょっと前ならば笑い飛ばせただろうが、白鯨が暴れた後となってはな」


 世の中、不思議なこともあるものだと呉は肩をすくめた。


「HOWTechでは魔術の研究はしているのか?」


「俺はただの非合法傭兵に過ぎない。HOWTechが何を研究しているかについて知り得る立場にない。あいにくだが」


「そうか」


 八重野はそう言って黙り込んだ。


「困った時には我武者羅に前に進むことだ。今解決できない問題はいくら悩んだって時間の無駄だ。とにかく前に進み続け、物事の先を見ること。関係がないと思うような仕事(ビズ)でも進めれば何かある」


「そうしよう。まずは核兵器による攻撃を阻止することだ」


「ああ。この仕事(ビズ)をしくじったら俺たちも被爆することになる」


 呉がベイエリア・アーコロジーに向けて車を走らせる。


 ベリアリア・アーコロジーの様子が見えてくる。


 ベイエリア・アーコロジーは巨大なドーム状の構造物だった。多くのアーコロジーがそうであるようにほぼひとつの施設で一生の人生が送れるようにできている。


 完全自動化された食料プラントから食料が提供され、運動施設や娯楽施設が整えられ、各種医療サービスがあり、大井の職員ならばアーコロジー内からリモートワークをすることもできる。


「見えてきたぞ。まだ吹っ飛んでないな」


「ベリア。放射線モニターの数値は?」


 呉が言うのに八重野がベリアに連絡を取る。


『直近の異常値はベイエリア・アーコロジーから2キロの地点。急いで!』


「了解。敵はベイエリア・アーコロジーまで2キロの地点に来ている」


 ベリアの言っていたことを八重野が呉に伝える。


「大丈夫だ。すぐには起爆できない。自爆覚悟じゃないとな。威力が低くても核兵器だ。起爆するときは十分に離れる必要がある」


 そう言いながらも呉はアクセルを踏み込んだ。


『八重野君。ベイエリア・アーコロジーにいる大井統合安全保障が警報を発した。敵は正々堂々と正面から侵入したらしい。だけど、セクター2/1でテロの予告があって、大井統合安全保障の緊急即応部隊(QRF)はそっちに向かっている』


「不味いな。既に核爆弾が運び込まれた可能性があるわけか。それもベイエリア・アーコロジーは敵に制圧されている可能性がある」


『今のところ、警備システムは──。あーあ。ベイエリア・アーコロジーの警備システムが外部からハッキングされている。敵のハッカーの狙いはこれだったのかな。ベイエリア・アーコロジーに入るときには警備に注意』


「了解」


 八重野はベリアにそう返す。


「ベイエリア・アーコロジーの警備システムがハックされている。警備システムが敵に回っていることを考えなければならない」


「アーコロジーの(アイス)を抜いたのか。そいつは驚きだ。いや、正直に言ってヤバイな。ベイエリア・アーコロジーは金持ち向けのアーコロジーだ。警備システムはかなり厳重だぞ」


「だろうな。警備ボットと警備ドローン、戦闘用アンドロイドとの交戦を考えなければならない。幸い、その手のものを相手にするのは別に初めてでもない」


「そいつは結構だ。よし、もう少しで到着」


 呉と八重野が乗った軍用四輪駆動車はベイエリア・アーコロジーの正面まで来た。ベイエリア・アーコロジーの地下駐車場に向かう道には入らず、正面入り口に乗り付けて、そこでふたりとも下車する。


本部(HQ)本部(HQ)。こちらベイエリア・アーコロジー。テロリストが侵入し、警備システムがハックされた。アーコロジー内のコントラクターが多数殺害されている。繰り返す──」


 正面入り口前で大井統合安全保障のコントラクターたちが無線で大井統合安全保障の本部と連絡を取っていた。


 コントラクターたちは6名ほど。ほとんどが内部にいるものと思われた。バリケードすらも展開されていない。


「どうする?」


「突破するしかない。連中は核爆弾を奪還する様子はない。爆発するまで様子見を続けるだろう。緊急即応部隊はセクター2/1に向かっているから増援もない」


「だろうな。では、行くとしようか」


 呉が八重野を引き連れて、ベイエリア・アーコロジーの入り口に向かう。


「おい。そこの連中。何をしている。ここは立ち入り禁止だ」


「そうか? だが、通らせてもらうぞ。こっちにはこっちの仕事(ビズ)があるんでな。邪魔をしてくれるな」


「貴様──」


 大井統合安全保障のコントラクターたちが銃口を向けようとするのに呉と八重野が同時に動いた。


 呉と八重野の“鮫斬り”と“鯱食い”はコントラクターたちが持っていた小火器を真っ二つに切断してしまった。


「それでは通っていいか?」


「クソ。好きにしろ」


 呉と八重野をサイバーサムライと確認した大井統合安全保障の指揮官が親指でベイエリア・アーコロジーの入り口を指さす。


「行くぞ。核爆弾を設置して敵が逃げる前に押さえる」


「ああ。了解だ」


 呉と八重野はベイエリア・アーコロジーの中に入る。


 ベイエリア・アーコロジー内に入ってまず目に入ったのは死体だった。


 大井統合安全保障のコントラクターたちの死体。どれも鋭利な刃物で切断されている。警備ボットや警備ドローンによって殺害されたものではない。


「ふむ。敵はサイバーサムライを全てこっちに寄越したようだな」


「あるいは敵の非合法傭兵は全員サイバーサムライなのか」


 八重野が死体を見て告げるのに、呉がそう言ってワイヤレスサイバーデッキでベイエリア・アーコロジーのシステムにマトリクスからアクセスすることを試みる。


「クソ。システムは完全に掌握されている。敵のハッカーの狙いはここで間違いないようだな。こちら側のハッカーに奪還と敵のハッカーの所在を確認してもらわなければならん。連絡できるか?」


「ああ。伝えておく」


 八重野が自分のワイヤレスサイバーデッキからベリアに連絡を取る。


「ベリア。敵のハッカーのベイエリア・アーコロジーの警備システムからの排除とこの事件に関わっているハッカーの居所の特定を頼みたい」


『もうやってるよ。けど、敵はかなり腕が立つみたい。どこから侵入したのか分からない。アーコロジーの(アイス)六大多国籍企業(ヘックス)のそれ。侵入経路が分からない以上、こっちも最初から(アイス)を砕くしかない』


「どれくらいかかる?」


『最短でも30分。大井統合安全保障のサイバーセキュリティチームが先に奪還するかもしれないね』


「ふむ。こちらはこちらで動くしかない、か」


 30分もあれば核爆弾をセットして逃げるのに十分だ。


「警備システムは奪還できない。急いだ方がいい。核爆弾を急いで確保する」


「そうだな。核爆弾を仕掛けるとすれば爆発の効果がアーコロジー全体に及ぶ中心部だ。システムは乗っ取られているが、構造は理解できる。中心部へのルートを示す」


「把握した。行こう」


 呉がベイエリア・アーコロジー内の構造を表示するのに、八重野が情報を受け取る。


 そして、アーコロジーの清潔で、管理された環境の中を呉と八重野は進んでいく。ゴミはないが、死体は転がっている。


「これだけ好き放題に殺した後で核爆弾を炸裂させるのか?」


「住民が逃げきれていない。居住区の隔壁が降りて閉鎖されている。これは巨大な死刑執行機械だ。この状態で核爆弾が炸裂すれば大惨事になる」


 ベイエリア・アーコロジーの居住人口は7万人。威力の低いスーツケース核爆弾でもこれだけ密集した人口地帯で炸裂すれば大量虐殺が可能になる。


 そして、呉と八重野が中心部に向けて非常階段を上っていた時に警備ドローンが飛び込んできた。警備ドローンは口径7.62ミリのガトリングガンで攻撃してくる。


「邪魔をするな」


 八重野が警備ドローンに飛び掛かり真っ二つに切断する。


「なかなかだな」


「機械化率が高いからな。それに伊達にサイバーサムライを何年もやってない」


 八重野はそう言って聞き耳を立てる。


「まだまだ警備ドローンがいるようだ。侵入に気づかれたのかこっちに向かってきている。戦闘用アンドロイドらしき歩行音もするな」


「よし。斬り倒して前進だ。まだ敵は核爆弾をセットできていないはず。逃げる前に足止めし、起爆を阻止しなければならん」


「ああ。ここにいるからには私たちも核爆発で殺される可能性がある」


 核爆発で死ぬのはごめんだと八重野は愚痴った。


「中央部までもう少しだ。幸い、警備ボットと警備ドローン以外の妨害はない。ブービートラップは確認できず。急いで進むぞ」


「了解」


 そう言葉を交わしたときに、すぐに警備ドローンが飛んでくる。


「叩き切って進む」


「スクラップにしてやれ」


 八重野と呉は同時に動き、群がる警備ドローンを撃破し、警備ボットを叩き切り、銃弾の嵐の中を潜り抜けて警備システムを相手にする。


「順調だな。順調すぎて気味が悪いほどだ。敵は警備システムを乗っ取ったことで、もう万全だと思っているのだろうか」


「確かにな。さっさと仕掛けて、逃げ去るつもりなのだろう」


「そうはさせるものか」


 八重野と呉は確実に中心部に近づきつつあった。


……………………

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