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軌道衛星都市へ//ハイジャック

……………………


 ──軌道衛星都市へ//ハイジャック



 シャトルは外殻が破損した際に気密性を維持するための隔壁がある。


 それが次々に封鎖されていく。


『貴様ら、何を……!』


 機長の声が僅かにアナウンスに流れる。


「ハイジャックか?」


「みたいだな」


 東雲は閉鎖された隔壁をトントンと叩く。


『東雲! 無人爆撃機が空港に迫っている! 離陸を急がせて!』


「あいよ。一仕事しますか」


 東雲は血と魔力を注いだ“月光”で隔壁を叩き切る。


 隔壁が裂け、向こうの隔壁が目に入る。


「なあ、隔壁って何層あるんだ?」


「このシャトルなら四層ってところだな」


「マジかよ」


「まあ、俺がやるよ」


 そう言って呉が前に立ち、隔壁を切断する。


「最初からそっちに任せておけばよかったぜ」


「それもそうだったな」


 東雲と呉はどんどん前方に進んでいく。


『当機は我々がハイジャックしたー! 今、隔壁を破って突入しているものに告げる! 我々は当機を爆破する準備がある!』


「はったりだ。シャトルを爆破すれば、連中も吹っ飛ぶ。とんでもない量の燃料を積んでいるんだからな」


 呉はそう言って隔壁を切断する。


「来たよ、ニトロ!」


「おっと! それ以上進むとドカンっすよ?」


 操縦席に繋がるルートにはガトリングガンを装備したダッシュKとオートマチックグレネードランチャーを装備したニトロがいた。


 ニトロの手には爆薬の点火装置がある。


「ここで機体を爆破すればお前たちも木っ端みじんだぞ?」


「そ、そうっすね。だけど、どうせ殺されるぐらいいなら道連れっすよ!」


「滅茶苦茶だな、おい」


 ニトロの発言に東雲が呆れる。


「それから爆撃機がこっちに向かってるって言ってるぞ。白鯨に雇われているみたいだけどあんたらは使い捨て(ディスポーザブル)かもしれないぞ」


「マジっすか!? や、やばいじゃないっすか! 姉御! セイレムの姉御!」


 ニトロがセイレムを呼ぶ。


「呉。そして、大井のサイバーサムライ」


「誰も大井の所属だなんて名乗ったことはないぜ?」


 セイレムが現れるのに、東雲がそう言う。


「セイレム。今は止めよう。白鯨がどれだけ破滅的な行為に出ているかは分かっているだろう。白鯨を止めなければならない」


「そして、結局あたしたちは使い捨て(ディスポーザブル)か……」


「逃げればいい。この混乱だ。六大多国籍企業(ヘックス)側もすぐには動けない。俺と一緒に逃げよう、セイレム」


 全てが終わったらと呉が言う。


「逃げられると本気で思ってるのか? 六大多国籍企業を相手にして。いずれ、どこかの非合法傭兵に消される。平穏なんてあたしたちにはない」


「それでも今死ぬよりマシだろうが! 白鯨はお前たちを使い捨て(ディスポーザブル)にするつもりだぞ! それでも白鯨に忠義を尽くすのか!?」


 セイレムが言うのに、呉が叫んだ。


「セイレムの姉御。爆撃機が向かってるって話が本当なら……」


「クソ。あたしたちは結局使い捨て(ディスポーザブル)か。やりきれんね。それでプランは?」


「オービタルシティ・フリーダムに白鯨の本体がある。それを叩く。そこには白鯨の開発者もいるそうだ。開発者ならば、白鯨を完全に消去する方法も知っているはずだ」


「信頼できる情報なのか……」


「俺は信頼する」


 呉はジェーン・ドウから聞かされていたのだろう。曖昧な返事だった。


「ベリア。白鯨と開発者がオービタルシティ・フリーダムにいるのは確かなんだな?」


『雪風の言葉を信じるならね』


 その時だった。東雲の視界に一瞬ノイズが走ったかと思うと雪風がARに表示された。


「皆さん。今は争っている場合ではありません」


「マトリクスの幽霊……」


 どうやらセイレムにも見えているらしく、セイレムが驚愕の表情を浮かべていた。


「白鯨はついにその本性を現しました。人類を憎み、人類を支配しようとしているのです。半生体兵器があれば、地球上の全てを支配するのは容易いことでしょう」


「それで、あたしたちにどうしろっていうんだ?」


仕事(ビズ)を依頼します。報酬はお支払いします。指定された口座に100万新円。目標は白鯨の無力化ないし完全消去。お願いできますか?」


仕事(ビズ)か。白鯨の方は仕事(ビズ)ではなく脅迫だったからな。こっちの方が条件はいいな」


「でしたら」


「ああ。引き受ける。その仕事(ビズ)受けた」


 セイレムがそう言って刀の柄から手を放す。


「呉。一緒に仕事(ビズ)ができるな」


「ああ。初めてのことだな、セイレム」


 セイレムと呉は互いを認め合うかのように見つめ合った。


「おふたりさん。急がないと爆撃機が迫っているってベリアが騒いでるぜ」


「全員、シートに座れ。ベルトを締めろ。この機のオンラインシステムはマスターキーが焼き切った。白鯨に乗っ取られることはない」


「操縦は?」


「本職にやってもらうさ」


 東雲の質問にセイレムはそう返して座席に座る。


『離陸準備。全エンジン異常なし。燃料系異常なし。ナビゲーションシステム、オフライン。畜生。これで飛べってのか?』


『いいから飛べ。オービタルシティ・フリーダムならナヴィゲーションがなくても行けるだろうが』


 機長が愚痴るのに、マスターキーがそう言うのが聞こえてきた。


『東雲! 爆撃機が急速接近中! 離陸、急がせて!』


「早く離陸しないと爆撃されるぞ!」


 ベリアが急かし、東雲が叫ぶ。


『待ってろ。そう簡単に飛ばせるものじゃないんだ。離陸チェックリスト完了。離陸スタンバイ』


『離陸スタンバイ。コントロール、これよりランウェイ45Rより離陸する』


 無線のやり取りが行われ、シャトルが滑走路に入る。


『ラムジェットエンジン、点火』


 グンと機体が加速し、東雲たちが激しいGを感じる。


『爆撃機が成田国際航空宇宙港上空に飛来。シャトルの滑走路とターミナルビルを爆撃していった』


「さようなら。そして、宇宙へようこそ」


 東雲たちを乗せたシャトルは既に猛烈な加速で大気圏を突破していた。


 重力がなくなり、ふたりとした感触に包まれる。


『ナビゲーションがないと軌道衛星都市へのドッキングは難しいぞ』


『手動でやる訓練は受けているだろう』


『それはそうだが。ここ何年も手動でドッキングするなんてことはやってない』


『じゃあ、今やりな。アポロだって手動で月に行ったんだ』


『畜生』


 何やら不安になるアナウンスが聞こえてくる。


『東雲。オービタルシティ・フリーダムが封鎖状態になろうとしている。急いでドッキングしないと締め出されるよ』


「おいおい。今日は急かしてばっかりだな。勘弁してくれよ。俺が操縦しているわけじゃないんだから」


『そうはいってもこのまま締め出されたら仕事(ビズ)は失敗だよ?』


「はいはい。おい! オービタルシティ・フリーダムが封鎖されるってよ!」


 東雲が操縦席の方に向けて叫ぶ。


『なんだって? ああ。畜生。本当だ。ドッキングステーションが閉じようとしている。このままじゃドッキングできない』


『突っ込め!』


『無茶を言うな! シャトルは精密機械だぞ!』


『いいから突っ込め! 殺すぞ!』


『クソッタレ!』


 シャトルが再加速し、遠くに浮かぶ円錐状の軌道衛星都市──オービタルシティ・フリーダムに向けて突っ込んでいく。


 その唯一のシャトルのドッキングステーションのゲートが封鎖されようとするのに、東雲たちを乗せたシャトルが強引に突っ込んだ。


 ドッキングは当然ながら失敗。シャトルは逆噴射するも勢いを殺し切れず、受け入れ側もドッキングさせるつもりはなかった。


 そのためシャトルはオービタルシティ・フリーダムのドッキングステーションに火花を散らしながら滑り込み落下するように放り出される。人工重力が発生しているドッキングステーション内で東雲たちは大いに揺さぶられれた。


「クソ。吐きそうだ」


「宇宙酔いか? いや。この強引なドッキングのせいか。さて、帰りにはこいつは使えるのかね……」


「おいおい。帰りの足がなかったら困るぞ」


「まあ、どうやら他にもシャトルはあるようだし、どうにかなるだろう」


 ドッキングステーション内には他の航空宇宙会社のシャトルもドッキングしていた。


「無事到着だね。ドッキングステーション内は封鎖されたおかげで気密性が保たれている。このまま降りて大丈夫だよ」


 ベリアがワイヤレスサイバーデッキをつけた状態で東雲のもとまで歩いてきた。


 既に人工重力圏内で、地球よりもやや軽いものの重力はある。


「それじゃあ、降りますか。で、どうやって降りるんだ?」


「緊急脱出シート」


「こいつか」


 キャビンアテンダントボットは破壊されているし、機長は衝撃で一時的に昏倒している。東雲たちは説明書を読んで緊急脱出シートを作動させた。


「よし。降りられるぞ」


 普通の飛行機にもあるバルーンのシート広がり、そこから東雲たちが滑り降りる。


「急いで。ドッキングステーションの隔壁も封鎖されようとしている」


「畜生。本当に今日は急かされてばかりだな!」


 ドッキングステーションからオービタルシティ・フリーダム内に続く連絡通路の隔壁が降ろされようとするのに東雲たちは滑り込んだ。


「ここがオービタルシティ・フリーダムか」


 街は人工重量を発生させるためにぐるりと円錐状の構造物の内面に作られており、天井を見上げれば街が広がっている。


「なんか感覚が狂いそうになるな」


「観光に来たんじゃないんだよ。白鯨がいるだろうメティスの研究施設を目指さないと。メティスの研究施設はオービタルシティ・フリーダムの食料生産プラントに隣接している。彼らがこの街の食料生産を担っている」


「了解。じゃあ、行きますか」


 東雲は“月光”を展開してオービタルシティ・フリーダムの内部を進んだ。


……………………

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