表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

08 仲間

ご覧いただき、ありがとうございます。



毎回、文字数にムラがあって申し訳ありません。


辺境に足を運ぶ人が増えるにつれ、その数に比例して求められる薬や治療の種類が多くなるのは自然の流れだろう。中には変わった病状を訴える人も居り、効果のある薬を作るには、稀少な素材が必要となった。だが、ここは山に囲まれた辺境の地、手に入らない物がいくつも出てきた。




「特に海由来の物、鉱物は諦めるしかないわね…」



深いため息と共に、ルネの言葉が宙に消える。免疫力を高めるミネラルが豊富な海藻、その干物さえあれば…と。だが一番近い海でさえ、馬車で一か月半掛かる。しかもそれは片道だけでだ。


ならば別の薬は無いか…分厚い医学書を手に取った時だった。コンコンコンコンと開け放したままの扉を叩く音がした。




「レーヌ様、少し宜しいでしょうか」



薬作りを率先して手伝ってくれるジゼルが、部屋の外から声を掛ける。



「えぇ、でも手が離せないの。此処でいいかしら?」



「はい、では早速。先日、ユーグ親方の所に一人の男が転がり込みまして。あぁ、病気だ怪我だって訳じゃありませんでしたが…」



「…だが…?」



言葉は返すものの話半分なルネに、ジゼルは苦笑いをしながら、部屋にあったポットを使い、お茶を淹れた。香草を使った薬茶に近いそれは、優しい香りが心地良い。難解な専門書と睨めっこしているルネも、暫し手を止めカップに手を付け、フゥと息を吐く。



「その…、いきなり倒れたのですが、二日程何も食べていないだけでした。…それはもう、見事な食べっぷりで」



「へぇ…」



頁を指で、なぞりながら、まるで此方を見ない。そんなルネを見ながら、ジゼルはコホンと咳払いをする。



「食事の御礼と言って、これを。レーヌ様、お使いになります?あぁ、要らないのでしたら処分致しますが…」



そう言いながら本のすぐそばに、カサリと音を立てさせ何かを置く。直後、潮の香が流れてきて、ルネは顔を上げる。



「え?これは!」



そこには、諦めていた海藻の干物が束になっていた。一つ引き抜いて、凝視する。短時間で乾燥した、なかなかお目に掛かれない上質なものだった。



「これさえあれば、免疫を上げる薬膳が作れる…。ジゼル、御手柄よ!」



「私ではなくて、その腹を空かせた男…ダンが食事代にと。今の話、聞いておられませんね」



ジゼルが呆れてジッと見つめれば、ルネは目を逸らし誤魔化すように質問をする。



「そのダンは、今どこに?」



「まだユーグ親方のいる農業組合です」



分厚い本を閉じ、徐に立ち上がる。



「今から会えるかしら?」



「そのつもりで参りましたので」



二人揃って部屋を出て、組合へと向かった。通りを歩いていると、遠くからでも組合のある建物に活気を感じる。ルネが来た頃から比べれば、人も増えた。まだまだ頑張らなければ…とルネは人知れず誓う。



組合に着くと、至る所から「レーヌ様」と声が掛かる。それに笑顔を返していると、向こうからユーグがやって来た。がっしりとした身体つきの腕をブンブンと振っている。



「レーヌ様、待ちくたびれたわい」



「ごめんなさい、お待たせしちゃって」



ルネは返事をしながら、ユーグの後ろに隠れる様にいる人物を観察する。黒いフードを目深に被り、僅かに口元が見えた。その唇は形が良いのに、埃だらけで元の肌が窺い知れない。高身長な上に、ユーグと同じかそれ以上に鍛えられているのがローブ越しにも隠しきれていなかった。



「初めまして、私はレーヌ、レーヌ・レヴェイヨンと申します。あなたがダンかしら?」



「…あぁ、ダンだ。よろしく、レーヌ様」



笑顔で右手を差し出したルネの手を取り、ダンと名乗る男は握手をする。その横でユーグが口を開く。



「レーヌ様、こいつは顔に怪我を負っていてな、フードをしたままでも許してやってくれ」



「そんな些細な事は気にしないわ。それよりダン、あなた仕事は何を?」



やや間があって、ダンが口を開いた。



「…依頼された物を用意する、そんな事を生業にして何年も経つ」



「そう、適任ね。私の依頼も受けて頂けないかしら?報酬は、なるべくダンの期待に沿える様に努力するわ」



ルネの話を聞いて、ローブが少し上を向いたのが分かった。




「…金は要らない。ここへ来た時に、また美味い飯が食えればそれでいい」



「そんな事ならお安い御用だけど…、それだけでは見合わないと思うわ」



ゆっくりとダンが頭を横に振る。



「分かってない様だが、ここの飯はとんでもないぞ。俺は平民だが、少し魔法が使える。…それが増えた」



「「増えた?」」



ルネとジゼルは揃って首を傾げる。



「…あぁ。風魔法を使った切断だけのはずが、炎魔法が増えていた。野営が格段に楽になるだろうな」



幼い頃であれば、成長と共に魔法で出来る事が増えていくのも分かるが、ダンは既に成人している。本来であればあり得ない出来事に、ルネも驚きを隠せなかった。



「だから飯がいい」



「分かりましたわ、それでお願い致します」



辺境の繁栄に、力強い仲間が加わった。






ここまで、お読み頂きありがとうございます。


薬・食材の効能や素材は、実際と異なる場合がございます。

あくまでも物語の設定とご理解下さい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ