06 仕込
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「レーヌ様ー、集めてきたぜー」
大きな籠を背負った人々が、ルネの元へと集まって来る。その中には今にも溢れそうな程の落葉が入っていた。
「これだけあれば十分でしょう、そちらは如何ですか?」
「あぁ、もう出来てるぞー」「囲うだけで良いってんだ、あっという間に終わっちまったよ」
声の先には、板で作られた大きな木枠が置いてあった。枠組みだけで、底は無く地面が見えている。その横では、子どもが数人山になった土を、裸足でかき回すようにグルグル回っていた。そこへ落ち葉を持ち帰った中の一人の女性が、慌てて駆け寄り、声を掛ける。
「ジル、そんなとこで遊んでレーヌ様の邪魔立てするんじゃないよ。あぁ、もう膝まで泥だらけじゃないかっ」
「違うって、お手伝いだよ!」
窘められた少年ジルは、腰に両手を当て胸を張る。そこへレーヌが笑いながらやって来た。
「みんなが率先して、お手伝いをしてくれたのです。お陰で必要な物が全部揃いました」
「レーヌ様…、本当に迷惑掛けてやいませんね?」
ジル少年の母親は、申し訳なさそうにルネを見つめた。ルネは笑ながら、彼女の手を取る。
「えぇ、本当に助かりました。まだまだジル達にやってもらいたい事があるので、お願いしても?」
ルネの言葉を聞いたジルは、人差し指で鼻を擦り、誇らしげに笑った。
「レーヌ様、任せておけって!な、みんな?」
「「「おー!!」」」
「頼りにしているわ!じゃぁ早速、堆肥を作りましょう。これさえあれば、来年の作物は今年以上の収穫があるかもしれません」
そこからルネが指示する通りに、皆で手分けした。木枠の中に落ち葉を入れる者、その落ち葉をジル達が笑いながら踏みつける。たまに水を掛ける時は、浴びないように避けながら、着実に作業が進んで行く。
「そろそろ良いと思います。ではその上に、そこの土を平らになるように掛けて下さい。土の厚みは人差し指の第二関節ほどで結構です」
土を落葉の上に掛け入れていた一人が、独り言のように呟く。
「ただの土と落葉が肥料になるんだな…」
「子ども達が丁寧に油粕を混ぜてくれた土なんです。これがとても大事なの」
ルネが微笑みながら答える。
「土を重ねたら、先ほどと同じように落ち葉を、次に土を…と交互に重ねて、水を撒いて下さい。最後に雨避けの板を被せて、熟成させます。何日かに一度、中を確認して頂き乾いてるようであれば、しっとりする程度に水で調整をお願い致します」
「たったそれだけで、出来ちまうのか」
「いえいえ、まだまだ作業は続きます。この状態で三か月ほどしたら、掻き混ぜて同じように板を被せ、乾く様なら水を加え、15日置きに混ぜて下さい。そうして漸く春に堆肥が出来上がります」
話しながらも手を止めず、働き続ける人々に向かって、ルネは深い礼を一つする。
「ご協力お願い致します。さ、そろそろ休憩に致しましょう。先日収穫した林檎を使ってパイを用意しました」
「「「「やったー!」」」」
歓喜し声を上げた子ども達だけでなく、大人も笑いながら足早に休憩場所へと向かって行った。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
宜しければ次回もご覧ください。
植物の持つ効果、肥料の作成方法などに関しては、実際とは異なる場合があるかもしれません。
あくまでも物語の世界では、とお考え下さい。