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05 収穫

ご覧頂き、ありがとうございます。

「レーヌ様、この収穫した生姜は、どのように致しやしょう」



ヴェルレーヌ領の荘園で働く人々が、生姜が山盛りになった大きな籠を五つも並べていた。風邪の予防にも効果を発揮するそれは、冬を迎えるこの時期には欠かせない食材であり、生薬としても大変役に立つ。来年の旬が来るまでは、この量でやりくりしなければならない。


「籠一つ分は、水に入れて保管して下さい。こちらは直ぐに使う分ですが、こうしておくと一ヶ月くらいは鮮度が保てます。残りは五つに分けて、畑に作った穴に入れて土を掛けておいて下さい。生姜が外に出ていると霜が降った時、そこから痛みますので、丁寧に覆うのと埋めた場所が分かるように目印をお忘れなく」



「分かりやした。しっかし今年の生姜の立派な事よ、なぁみんな~?」



その問いかけに人々は「本当にな」「まったくだぜ」とか、「ここまで凄いのは初めて見た」だの口々に言いながら、ずっしりとした籠を運んで行った。その後ろ姿を見ながら、ルネは明日にでも生姜を使った何かを皆に振る舞おうと、密かに決めたのだった。



ルネは此方にやってくると、薬草や香草、生薬になる植物の栽培に携わり始めた。得意な薬学の知識を生かして、肥料や世話の仕方を改良していった。すると、見る見るうちに植物に変化が表れ始めた。漲る生命力を帯び、その身は太く大きく成長し、味や香りも力強いものへとなっていった。


領主様の紹介で来たという少女に対し、始めは自分たちの知るやり方を否定され、やや距離を置いていた農夫連中も、成果が手に取るように分かり始めると、徐々にルネを頼るようになった。収穫前の僅かな期間であったにも関わらず、今年の実りは総量にして例年の倍近かった。



更に、ルネの作る料理の虜になる者も増えていた。彼女曰く、全ての食材には何かしら効果や効能があり、それを最大限に引き出すように料理をすれば、素晴らしい作用が期待できる上に、味も抜群になると言う。それを実証するように、彼女が指示した通りに調理した物は大変美味で皆が群がった。食事をした後は、力が湧き上がり普段の倍は動ける程だった。



気付けば風邪のような、身近に潜む病気を患う者が消え、身体能力が上昇したお陰か怪我をする事も減っていった。




「明日、果樹園の林檎と梨で今年の収穫が終わります。その後は本格的に寒くなる前に保存食、主に乾物や塩漬け、ジャムとシロップを作りましょう。冬の農閑期には、肥料作りと製薬に掛かるのですが、また、ご尽力頂ける方は、お声がけ下さいね」


ルネが頭を下げれば、あちこちから声が上がる。



「今度は、どんな事をするんだい?」

「勿論、参加させておくれよ!」

「後れを取る訳には、いかねえな」



領民の声に、ルネは微笑みを返す。



「ありがとうございます、予定が決まり次第、またお知らせ致しますわ。さぁ、こちらは生姜シロップのお湯割りです。冷めないうちに、どうぞ。身体が温まりますわ。今日は、お疲れ様でした」



湯気を立てた琥珀色の液体が入ったカップを、手渡された者はフウフウと冷ましながらコクリと飲み込んだ。生姜独特のピリリとした辛みが蜂蜜の優しい甘さと合わさり、爽やかに鼻へと抜けていく。一日中、働いた後の疲れにジンワリ染み渡る。全てを飲み終わる頃には、身体の芯からポカポカと温まり、頬を薄紅色に染めていた。



「外は秋の空っ風が吹いているってのに、腹の中が温かいのは何とも愉快だな」


「そうなんだよ、だが汗をかくような暑さじゃぁないんだよな。心地いいもんだ」



空になったカップを戻し終えた二人の男が、「ちがいない」と言いながらルネを見つけると手を振った。



「レーヌ様、今日も美味かった。ありがとなー」「また明日がんばるぜー」



ルネは微笑みながら、小さく手を振り見送った。明日は林檎のパイを焼こう、乾燥が終わって粉末状にした肉桂で、香り付けも忘れてはいけないと考えながら。



帰路に就く人々の後ろ姿を見ながら、ルネは温くなった生姜湯を、ゆっくり味わった。






お読み頂き、ありがとうございます。

宜しければ次回もご覧ください!


植物の持つ効果などに関しては、実際とは異なる場合があるかもしれません。

あくまでも物語の世界では、とお考え下さい。

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