33 出会
その日、私は恋に落ちた。所謂、初恋というやつだ。
ルネと出会ったのは、12年も前の事。けれど、今でも鮮烈に覚えている、私の大切な想い出だ。用事で王都に出向いた時だった。その日は日差しがあるにも関わらず、嵐のように風が吹き荒れていた。
その強風が、私に運命を運んできた。
狙ったと思えるほど、吸い寄せられるように両手で捕えた物。小さなリボンが付いた、白い帽子だった。少し離れた所から、パタパタと駆け寄る足音が一つ。目を向けた途端、全てが止まった。
海の精霊かと、見間違うような少女だった。緩く編みこまれた勿忘草色の髪が風で舞い、涼し気な黄金の瞳が柔らかく輝く。思わず見惚れていた私は、彼女の一言で現実に戻った。
「ありがとうございます。帽子を捕まえてくれて」
「あぁ、これは君のか」
彼女を見つめたまま、そっと帽子を被せた。すると少し驚きそして、見る見る笑顔に変わった。まるで碧く澄んだ海と、空に浮かぶ真っ白な雲のように見えた。
「お気に入りの帽子に、素敵な想い出が出来ました」
身体に小さな電流が走った様に、ピリリとした衝撃を感じた。初めての感覚に、当時は戸惑いを覚えたが、それがどういった
ものなのか分からなかった。勿論、今なら理解している。
「君と出会えて良かった、素敵なお嬢さん」
「ヴェルレーヌ伯爵が娘のルネです。本当にありがとうございます」
「エルランジェ公爵家のダニエルだ。また会える事を願っているよ」
可愛らしい淑女の礼をして、去って行った。もう少し一緒に居たい…無意識にルネの後を付いて行っていた。念のため、人や物陰に隠れた。
「どうしたのですか?」
そう言って、ルネは茶色い髪の少年に話し掛けた。妹が居なくなった、心配だなんて言っているが、あの男の瞳に宿る熱を見逃さなかった。ジリリと胸が焼かれるようだ。
少年とルネが、手分して二人が探している時、ルネの帽子が風で飛ばされた。先を歩く少年は、その事に気付かない。ルネもアッと手を伸ばしたが、既に届かぬ所へいってしまっていた。すぐに諦めたようで、居なくなった少女を探し始めた。
帽子の飛んだ先は、またもや僕の腕の中。こんな事って、最早これは運命。
広場の噴水で、迷子の妹が見つかったようだ。ルネが見つけて声を掛けたというのに、無礼にも少女はルネを睨み少年の手を引き、さっさと待たせていた馬車に乗ってしまった。彼らに笑顔で、手を振る彼女へと駆け寄った。
「こんなに早くまた会えてうれしいよ。ルネ嬢、これを」
「ダニエル様、ありがとうございます。もう諦めていたのに…よかった…」
花が綻ぶ様に、ふわりと笑った。
この笑顔を自分だけのものにしたい。そんな風に考えていたら、兄妹が乗り込んだ馬車が走り出した。ルネは帽子を被り直し、馬車に向かって手を振った。馬車の窓から覗いた眼は、名残惜しそうにルネを見た後、こちらをギロリと睨みつけた。馬車の家紋を見て、彼が何者か理解する。
「ルネ嬢、それではまた」
「ダニエル様、その時を楽しみにしてますわ」
その日から、私は初恋を拗らせている。あぁ、自分でも痛い程、分かっている。それでも諦めきれないのだから、厄介なものだ。それでいて、とても優しく温かで、離れがたい。
誰かが、初恋は成就しないと言った。私は全てをかけて、実らせてみせる。ダニエルは夜空の星を見つめながら、固く心に誓った。
次回も見て下さい!
次で最後です。(多分




