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30 告白

拘束されたモーリスが抵抗を試みる中、遠くから複数の足音が聞こえてくる。揃いの鎖帷子に身を包み、青いマントを翻した十人ほどの隊が、ルネ達の元へと駆け寄る。マントには、竜と獅子が向かい合い王冠を掲げている様子が描かれており、王立騎士団だと見て取れた。



「遅くなりました。ジョルダン王国より、加勢せよとの命で参上いたしました。戦況は……」




その言葉に、あのダニエルが、きちんと約束を果たしてくれたのだと分かった。




「丁度、首謀者を取り押えた所です。護送を、お任せできますでしょうか」



「お任せ下さい。…連れて行けっ」



「「「はっ」」」






その後、折角来たのだから何もせずに帰還する訳には…との厚意により、嵐で壊れた家屋や散乱した物の処理を請け負ってくれた。しかも辺境の食事を気に入り、一日また一日と滞在を最大限に引き延ばし、最後は泣く泣く王都へと戻って行った。必ずまた来る、という言葉を残して。



あの後、モーリスは王都に連行され、取り調べが行われた。結果として廃嫡された上に、伯爵家から籍を外された。彼は精神を病んでしまい、会話すらままならない状態だった。それだけでなく、魔力操作も出来ず、拘束具を外すと常に魔力を垂れ流し、すんでの所で暴発させる所だったと聞く。そこで、身柄は宮廷魔導師団の預かりとなり、溢れ出る魔力を国の為に提供していく事になったという。



モーリスが発生させた強風により、辺境の畑や森の作物は枝や葉の大半を失ったが、その後の急激な成長もあって、例年より著しく育っている。ユーグの見立てによれば、去年を軽く上回る収穫が見込めるとの事だ。




こうしてヴェルレーヌ領に、平穏が戻った。








ルネは今、庭園にてダンと向かい合っている。大きな木の下は夏の太陽を遮り、心地良い風がそよいでいた。




「秘密にしていた事があるわ」



「人間、誰しも隠し事の一つや二つ位あるだろう」



ダンは仕様が無いだろうと言わんばかりに、肩をすくめて冗談めかす。



「そうね、けれど私の場合は信用を裏切るようなものだわ。…気付いているんでしょう?彼の言葉で」



「…あの野郎がルネって呼んでた事か」



やはり察しが良すぎると、微笑みながら頷けば、心の奥がチクリと痛む。それでも、これ以上、ダンに嘘を重ねたくなかった。




「そう、お分かりの通り、ルネ・ヴェルレーヌが私の本当の名前。この辺境を治めるレヴェイヨン伯爵家の一人娘よ。とある事情で、髪と瞳の色を魔法で変えていたの」



そう言うと、自身に掛かっていた魔法を解いた。久しぶりに視界に入る青い髪の毛は、今まで以上に冷たく感じた。するとダンがポツリと呟いた。



「…ルネ・ヴェルレーヌ…」




「えぇ、レーヌ・レヴェイヨンなんて人物は存在しないの。…呆れたでしょう?」




ダンは静かにルネへ背を向けた。あぁ、やはり拒絶されてしまったようだ。他人を欺くような者に、幸せなど訪れないのだろう。ダンの温かな日溜りのような優しさに、もう少しだけ触れていたい。そう願ってしまった。でも…




それも、もう終わり。




黒いフードの後ろ姿が、滲んで影のように、ぼやけていった。






次回も見て下さい!


本日、もう1話短い話をアップします。

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