03 虚偽
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次の日、昼過ぎから埋葬が行われた。ヴェルレーヌ家に所縁のある者だけが参列した中、元婚約者のダニエルも居た。誰もが静かに見送る中で、不意に声が上がる。
「何故、最後の別れが出来ないのですか。私は婚約者だ、納得いく理由を、お聞かせ願いたい」
静かではあるものの、怒りが隠しきれていない様子のダニエルを前に、ヴェルレーヌ伯爵自らが頭を下げる。
「妻が、これ以上、娘の顔を見るのが辛いと泣き崩れましてな…ご容赦頂きたい」
横にいる腫れぼったい目をしたヴェルレーヌ伯爵夫人に、参列者は憐憫の眼差しで頷いた。実際、そんな理由で最後の別れを省く事も少なくない為、そこに居合わせた者は皆が受け入れた。そんな中、ライアンが静かにダニエルに近づき、そっと声を掛ける。
「ご理解頂き感謝いたします、エルランジェ様。黄泉の国へと旅立った妹に、温情あるお言葉を頂き感謝いたします。…ルネとは此処で道を違えますが、これから実り多き人生を送られますよう、陰ながらお祈り申し上げております。縁組は白紙に戻され、貴殿を縛るものは何も無いのですから」
最敬礼をするライアンに、ダニエルは開きかけた口を固く閉ざすしかなかった。舟形の棺には、ルネの頭文字を刺繍した白い布が掛けられている。ダニエルは、それがゆっくりと土の中に消えるのを、睨みつける様に見つめていた。
その日の夜更け頃、ヴェルレーヌ邸から1台の馬車が、辺境へ向けて人知れず駆け抜けていった。
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