29 決戦
大砲から飛び出た砲弾のように、ダン目掛けて白い光が一直線に貫いていく。にも拘らず、その場から動かないダンに、ルネは平静さを失う。もう避けられない…、その瞬間をルネは直視出来なかった。
だが、一向に何も起こらない。
ルネが恐る恐る視線を向けようとした時、先ほどとは打って変わり、焦り上擦った声でモーリスが絶叫した。
「なっ、何故、光魔法を操れるんだっ。お、お前は何者だ…!」
ダンの上に向けた掌には、モーリスが放った光魔法がフワフワと浮かんでいた。フードから僅かに見える口が、ニィっと笑った。
「もう忘れたのか、万事屋だ。…この程度で、レーヌ様を奪おうとしたのか?」
浮遊していた光が十数個に分かれ、それぞれ別の方角へと飛び去り霧散した。その途端、身構えていたモーリスの、狂喜じみた笑い声が響く。
「ふふふ…、ははっ!消し去る事しか、出来ないとはね。それじゃぁ僕は倒せないよ」
ダンを睨みつけ、肩を竦めた。
「…けれど分が悪いから、日を改めるとするよ。ルネ、必ず迎えに来るからね。それじゃぁ……」
立ち去ろうとしたモーリス目掛けて、四方から光の筋が飛んできた。まるで鋭い矢のように、モーリスに吸い込まれていく。言葉にならない呻き声を上げ、地面に蹲る。よく見ると、四肢には枷が付き、首には鎖が巻き付けられていた。枷も鎖も虹色に輝いており、魔力が拘束されていると分かる。いつ、誰が、一瞬でモーリスを捕えるだなんて、何が起こったか理解できないルネは、不思議そうにダンを見る。
「たくさん仕掛けておいたろ、魔法具」
「…あ」
「俺は優れ物しか仕入れないからな」
二人同時に噴き出す。なるほど、あの魔法具は、モーリスの魔力にしか反応しない。発動させるには、十分過ぎる魔力量だったろう。
気づけば厚い雲が消え、青空が広がっていた。周りの植物が、見る見るうちに成長していく。これまで抑えつけられていた分を取り戻すかのように。
次回も見て下さい!




