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26 太陽

厚く黒い雲に太陽が隠れ、時折ゴロゴロと雷も鳴っている。昼にも関わらず、重苦しい空気が立ち込めていた。数日前までは初夏の日差しが燦々と照りつけ、植物の成長を促していたはずなのに、今はその名残すら感じられなかった。



只ならぬ様子に、普段は鷹揚なユーグも、僅かに焦った顔をこちらに向けた。その後ろには畑仕事を担っていた、辺境の人々も続いている。



「レーヌ様、あの空は何なんだ…。畑や森を守らねぇと」



「確かに、これで五日目だものね。この様な非常事態にと、伯爵から預かっている物があるの。今こそ使う時だわ」



ルネは一人で執務室へ入ると、静かに扉を閉め内側から鍵を掛けた。そして本棚の前へ進み、一冊の分厚い本を手に取る。本が収まっていた奥を指で押した。カチリという音と共に、家具が回転して隠し部屋への通路が口を開く。その途端、真っ暗な空間に幾つもの明かりが灯った。まるで部屋まで案内するかのように、奥へと続いていた。



そこを抜けると、小さな部屋に辿り着く。ガラス張りの引き戸が付いた陳列棚には、様々な魔導具が保管されていた。拳大程の翠玉が付いた榛摺色の棍棒、角が一切ない滑らかなリング状の水晶、宝石が彩る厚い革表紙の魔導書、文様が浮かび上がる宝刀…どれもが国宝級であり、非常に高い効果のある代物だった。


その棚の左下にひっそりと置いてある、掌に収まる球体の蒼玉を迷わず手に取った。触っただけで、柔らかく温かな魔力を感じる。しっかりと握り締め、踵を返した。



ルネの兄、ライアンの纏う魔力は恵まれた水で、土地を豊かにすることが出来る。その力を幾重にも込めた魔石が、ルネが手にした物だった。有事の際に魔道具を地脈へと入れる事で、効果を発揮する。先程来た時とは反対の路を進み、目の前に現れた階段を下へと降りて行った。


最後の一段を降りると、水路の様な大きな溝があり、その中を黒いうねりが流れていた。



「…やはりね。どれだけの穢れが大地に流れ込んだというの」



ルネは独り言ちながら、持っていた蒼玉の魔法具を、四角柱状の石碑にある丸い窪みにカチリと嵌め込んだ。



カッと青白い光が広がり、石碑から水路へと伝って行く。その光に触れた途端、真っ黒い霧のような流れが、くすんだ黄色へと変わっていった。



「流石に全て浄化は出来ないようね、少しは耐えられる事を願いましょう」





空模様に変化は無いものの、止まっていた植物の成長が動き出した。まだまだ例年より育ちが悪いものの、葉が茂り花が咲き出せば、人々の心に希望が戻って来る。




そんな中、ダンがルネの前に現れ、懐から魔道具を一つ取り出した。片手で持てる大きさで、繊細な針金細工で囲まれた月長石だった。



「外灯を持ってきた。使い方は、こうだ」



ルネの目の前で、ダンが振りかぶって、魔法具を上に向けて飛ばす。魔力を得て、はるか上空に行き見えなくなった。途端に日の光が輝き、十日ぶりに日差しが戻った。




「凄いわ、ダン。ありがとう。…とても貴重な物でしょう?」



「いや、礼には及ばない。レーヌ様の力になりたいだけだ。これは疑似的な太陽光なだけだ。夜もきちんと来るが、根本的な解決にはなっていない。だが、代わりにはなる。ただし、持って一ヶ月といったとこだろう」




そこからの、復活は早かった。辺境の皆は喜び、安心して農作業や、それぞれの仕事に精を出した。





次の日、ルネを呼び出し、ダンが声を潜める。




「いよいよアイツが辺境にやって来る。当然、狙いはレーヌ様だ。今度、捕まったら終わりだと思っておいた方がいい。…俺がレーヌ様を守るから、心配しないで欲しい」




「…でも、それではダンに危険が…」



ふわりと抱き締められ、ダンが耳元で囁く。



「レーヌ様は俺の全て。レーヌ様を守る事は、俺の人生で不可欠だから」



絞り出した声は、少し掠れていた。彼の気持ちが痛い程、伝わって来るようで。



「…だから、これが片付いたら求婚の返事をくれないか」



ルネは小さく頷いた。





次回も見て頂けると嬉しいです。

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