02 甦生
目に留めて下さり、ありがとうございます。
わなわなと震えたライアンに、小さく手を振り微笑み返すルネ。ゆっくりと近づいたライアンは、震える手でルネの頬に触れると、優しく撫でた。
「…ル…ネ、本当に…生き…てるのか…!おぉ、神よ…この奇跡に感謝します」
両膝を突き、指を組んで神に祈りを捧げ始めたかと思えば、ハッと何かに気づいた。
「早速、皆へ伝えに行かなければ…!」
喜び勇んだ兄を尻目に、静かな声が部屋に響く。
「待って…!私、覚えているの。死んだ時の事…そう、あれは殺されたのだわ」
節くれだった手が、ルネの両肩を掴み、強く揺さぶる。
「だ、誰だ!誰にやられたんだ!伯爵家の威信にかけて見つけ出し、制裁を加えてやる。さぁ、誰だか教えてくれ、ルネ!」
「その前に、お兄様にお願いがあります。…当分の間、このまま死んだ事にしておいて欲しいのですわ」
殊の外、冷静なルネとは対照的に、ライアンの上擦った声が僅かに反響する。
「…なぜだ!ルネ」
「私は毒で殺されたのよ、きっと。とーっても苦しくて、息をしようとしても喉の奥から、血が溢れて…まるで溺れているようだったもの。学園の東屋で本を読んでいたら、急に強い風が吹いて、その所為で酷く咳き込んでしまって。そこへ通りかかった方が、机にあったグラスの水を差し出してくれたわ。苦しさのあまり、慌てて受け取って飲み干してしまったの。そうしたら…この有様よ。恐らく水に何か混入して、渡したのでしょうね。但し…」
思考を巡らせ、纏め上げながら、ルネは丁寧に一言ずつ紡いでいく。答えを催促するかのように、ライアンが問いかける。
「但し…?」
「あの方が毒物など用意出来ると思えませんの。…とすると協力者、または後ろ盾が別にいるのでは…。ならば根源を突き止めるに、この状況を利用した方が得策かと」
「…確かに外部に漏らさないように、毒物を入手するとなると、相当な力が必要になるだろう。あぁ、彼の家は地位だけでなく、経済面でも無理だろう。…わかった、このまま明日の埋葬まで済ませるとしよう。その方が、ルネ自身も安全だろうから。だが、父上と母上には伝えるぞ。ルネは葬儀の後、こっそり領地に戻って生活すればいい。その様に調えておこう。あそこなら、何かと都合がいいだろう」
「えぇ、そう致します」
大きなフードの付いた、鉛色のローブをライアンから受け取ると頭から被り、邸にある隠し部屋へと消えていった。
ここまでお読み下さりありがとございます。
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