17 依頼
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雪解けの水が小川を勢いよく流れ、下草が芽吹き、世界が色づき始めた頃、王都からの客がやって来た。温かな丁子色の髪と、澄んだ海を思わせる青い瞳をした、太陽のような笑顔で人好きのする青年だった。
「初めてお目にかかります、フェヴァン子爵家モーリスと申します。今回お願いがあって、こちらに参りました。…失礼ですが、貴女は?」
ルネは焦る気持ちを抑え、笑顔を貼り付けたまま冷静な対応を心掛ける。王都からの客人は、何故こうもルネの知った顔ばかりなのだろうか。幼い頃のモーリスは身体が弱く、夏の間を辺境で過ごした時期がある。年の近いルネとも良く遊んでおり、モーリスはルネを甚く気に入り、「大きくなったら僕のお嫁さんになって!」なんて可愛らしい求婚をしていた。それを見た大人達は、微笑ましく見守っていたと後に聞いた。
しかし最近では彼もジャクリーヌに入れあげていた一人であったし、ルネが関わる事は無かった。だからきっと、ルネの事など、覚えてはいないだろうが、気を付けるに越したことはない。用心深くレーヌを演じる。
「ご挨拶させて頂きます。ヴェルレーヌ伯爵より命を受け、現在こちらの運営を任されておりますレーヌ・レヴェイヨンでござます。私が、ご用件を伺いますわ」
ルネが挨拶をした後も、彼に変わった様子は無いようだ。心の中でホッと息を吐いた。
「早速ですが、本題に。現在、フェヴァン子爵領において流行り病が蔓延し始めており、その為の薬を300ほど用立てては頂けないだろうか?無理を承知で、お願いしたい、この通りだ」
頭を深々と下げて頼み込む姿に、先ほど悩んだ事が無用の心配だったと知り、自分を恥じた。
「勿論、用意させて頂きます。ただ、僅かな備蓄分しかありませんので、すべて用意するのに少々お時間を頂く事になります。出来るだけ早く致しますのが、二~三日の間、お待ち下さいませ」
「…そんなに早く出来るとは、助かるよ!此方で待たせて頂くとしよう」
粉末にした薬草を混ぜ合わせるのも、量が量だけに重労働だったが、モーリスが笑顔で手伝ってくれたお陰で予定より早くに準備が整った。
「フェヴァン様、大変お待たせ致しました。こちらが、ご依頼の薬となります」
モーリスの前には、薬の入った大きな袋が置いてある。これで任務完了だと、安心して笑顔が漏れる。
「…嫌だな、フェヴァン様なんて他人行儀な呼び方は止めてよ」
気付けばモーリスはルネの目の前に居り、いつの間に…と驚き身体が跳ねる。次の瞬間、腕に閉じ込められ、吐息が感じられる程の距離でモーリスは囁く。
「やっと手に入れた、ルネ」
次の瞬間、ルネの意識は途切れた。
良ければ次回も見て頂けると嬉しいです。




