14 視察
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その日の午後からダニエルは、視察を開始した。まず向かったのは、薬局も兼ねた薬師受付けだった。受付けの脇には棚があり、袋や小さな容器に入った薬が何種類か置かれている。その横には大きなガラス瓶が二つ、並んでいた。
「これ…は、何だろうか?」
ダニエルは紙袋を、ひょいと持ち上げ隅から隅まで見回している。
「そちらは感冒薬です。ライアン様が王都へお持ちになったのと同じ物になります。その隣は胃腸薬と整腸剤。あまり厚みの無い袋は湿布です。薬剤を染み込ませた布を乾燥させてあり、使う時は水で湿らせ患部に貼る…というものになります。小さな丸い容器には、傷薬となる軟膏が、大きい方には毎日使える保湿成分のあるクリームが入っています」
「…この薬が王都を、いやジョルダン王国を救ったと言っても過言ではない。とても飲みやすかったと聞いている。改めて国を代表して礼を、感謝している」
ダニエルはルネの手を取り、頭を下げ礼をする。その顔に微笑みを浮かべて。愛しい者へ向けるような視線でルネを見る。何故か胸が締め付けられるような、切なさを感じた自分に苛立ちを覚える。彼が優しかったのは、婚約したばかりの頃だけで、公爵夫人となる為の厳しい教育を受けているルネを横目に、毎回異なる令嬢を隣に据えていたのだから。
今ルネは、その令嬢達と同じ笑顔を向けられているだけ。
(何を勘違いしているのかしら、傷つくのは自分自身なのに)
「そのように上に立つ者が、簡単に頭を下げるものではありませんわ。お気持ちだけ頂いておきます」
静かに、けれど拒絶するように手を離す。ダニエルの瞳が揺れ、僅かに沈鬱な面持ちが見て取れた。だが、それに気付かない振りをして痛む心に蓋をする。
「横にある大きなガラス瓶に入っているのは、免疫力を上げる胡桃のクッキーに、此方が冷え防止が期待出来る蜂蜜と生姜の飴になります。後ほど、お茶の時間に、お出し致しますわ」
「…あぁ、楽しみにしておこう」
笑顔で頷くと、お茶の準備を客室にしておくよう、指示をした。
重い空気の中、事務的な会話が続いていった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
週4以上は投稿していきたいと思っています。
(毎日とか言ってた奴、誰…)




