11 珍客
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雪深くなった辺境は隔離され、どうしても外からやってくる者が激減する。そんな中、ルネの元へ手紙が舞い込んできた。魔力を使って送ったそれは、文字通り空からひらひらと旋回し、ハラリとルネの手の中で動きを止めた。
封蝋を見れば、竜と獅子が向かい合い王冠を掲げており、ジョルダンの国章だと理解した。
「勅令…、嫌な予感しかしないわ」
あまり進まない気持ちを何とか奮い立たせ、ナイフで丁寧に封を開け中身を取り出した。食い入るように手紙を読むルネに、ジゼルが紅茶を入れて、そっと差し出す。
「レーヌ様、眉間に皺が寄っておられますよ」
慌てて指で摩るルネを見たジゼルは、プッと小さく吹き出した。ルネはカップを手に取りながら、机に便箋を放る。呷るように紅茶を飲み干すと、気弱な声が小さく響く。
「…どうしましょう、ジゼル」
空になったカップに、お茶を注ぎながら、ジゼルは首を傾げる。
「王都から視察が来るわ。明日の朝には、到着する予定ですって」
「この雪の中をですか…?」
ジゼルは怪訝そうな顔で、ルネを見つめる。溜息を吐きながら、その視線に小さく頷く。
「だからこそ、だそうよ。人が少ない今ならば、お互い実りのある時間を、共有する事が出来ると期待している…なんて言われても困ってしまうわ。しかもその期間、案内人を一人付けろと仰るし…」
「案内人とは、その場所に連れて行くだけで、宜しいのでしょうか?でしたら、レーヌ様のお手を煩わせるまでもなく、私が」
うーんと腕を組み、ルネが頭を捻る。
「きっと色々な説明も必要になるでしょうね。けれど、こちらも全てを伝えるつもりは無いの。どこまで情報を開示するかの匙加減は、私がしたいから…案内は一人でするわ」
手に持つカップを見つめながら、更に続ける。
「何人も付ける訳にはいかないもの、此方の仕事もこなしつつ…となるとね。製薬の方はジゼルが居れば滞る事はないから。お願い出来るかしら?」
「勿論、お任せ下さい。…ですが、レーヌ様だけで案内とは…使者は何人なのでしょうか?」
「お1人なんですって、ですから私だけでも平気だと思うわ」
お盆に空のカップとポットを載せ、片付けに退室しようとしたジゼルが扉を開けた途端、ドタドタドタという荒々しい足音と共にユーグが走って来た。
「っレ、レーヌ様、賊が侵入したっ…!」
その日、雪に埋もれた辺境が、一気に慌ただしくなった。
作中の薬や食物の効能は物語の中の事とお考え下さい。
投稿が不定期になりそうです、何てこと…!




