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共生 3






 サルシャを発ったら、しばらくは野宿が続く。夕方になると決まって私たちは焚火を囲んで夕食を取り、ルーンの練習をした。師匠も言っていた通り、ある種の魔道具であるルーンは人々の耳に届きやすいように作られている。そのため街中で練習するときは防音の魔道具を使わないといけない。それを動かす魔石代も安くないので、自衛できるなら人のあまりいない街の外でやるのが一番効率的だ。結界用の魔石なら防音のやつより安いし。需要の違いだろうか。


 今日も私とリオはルーンを順番に弾く。それに師匠がアドバイスをする形で練習しているのだが、このアドバイスが非常に的確で、数日で確実に上達している。


「リオはこの音を弾くとき音が揺らぐから、ここだけもう一回やってみようか」


 今もリオが指導を受けているところだ。私は魔力操作の復習をしながらそれを眺める。私は最近まで魔力なんか使ったこともなかったので、細かい操作なんかが苦手なのだ。大雑把にならリオとの契約で何となく使えるようになったんだけど、無駄も多いらしくてそちらも特訓中。


「よし、とりあえずここまで。そしたらレオ、もう一回弾いてみてよ、今度は歌いながら」


 師匠に言われて私はルーンを構えなおした。指摘されていた歌の強弱を意識しながら、指先にまで気を配るのは結構きつい。歌い終わったときには疲れ果ててふらふらになっていた。


「今回はなかなかよかったぞ。一曲だけでバテるのはちょっと問題だが、慣れれば何曲も続けて歌えるようになるだろう。今日はこれくらいにしようか」


そう言って師匠は私の頭を撫でて、リオの音色を確認しに行った。私はルーンの汚れを拭き取ってケースにしまい、寝支度をした。といっても、清浄の魔法をかけて、寝袋を出しただけだけど。


「ねえ、なんか声がしない?」


 リオの指導も終わり、二人がルーンを片付けている時、何かの鳴き声が聞こえてきた。キュウキュウと甘えるような声は、だんだん近づいている気がする。


 リオたちが警戒する中、茂みを揺らして現れたのは、トカゲっぽい何かだった。なんというか、トカゲにしてはかわいらしい顔つきで、結構大きい気がする。しかもなんだか背中に羽根が生えているようだ。一言で言うなら、


「「ちっちゃいドラゴン?」」


つぶやいたのはリオと同時だった。なんだかうれしくなって笑ってしまう。にこにこしていると、ちっちゃいドラゴン、略してちびドラが抗議するように結界をひっかきながらふしゃーと鳴いた。……全然怖くない。むしろちょっとかわいいかもしれない。


 つい手を結界からのばしてちびドラの頭を撫でてしまうと、ちびドラは途端にうっとりして、甘えた声をあげて私の指に頭をこすりつけてきた。超かわいい。撫で続けると、空いている左手が持ち上げられて、ふわふわの何かの上に置かれる。ちらっと見ると、リオが私の手をつかんで自分の頭を撫でさせていた。


――ずるい……。


 契約のつながりから聞こえる声は不満げだ。普段はしないテレパシーを使うあたり、あざとかわいい。私がリオのほうに向きなおると、今度はちびドラが鳴き声と地団駄で不満を訴えてくる。ちびドラを見るとリオがちょっとだけ腕を引っ張ってくる。この状態は、師匠が止めてくれるまで続いた。


 師匠いわく、ちびドラは通称道楽竜と呼ばれる、芸術を愛するグレードラゴンの幼体で、私たちの演奏に惹かれてやってきたのだそうだ。私が奏者だと気づいて、もう一度聴きたくてねだっていたらしい。ちびドラ、も長いからもうちびでいいや。ちびも肯定するように頷いている。


「そうだったの?でもごめんね、今日はもうおしまいなんだ。明日の夕方にはもう少し南に進んで練習する予定なんだけど」


 ちびはしばらく考えた後、私の肩に乗って自分もついていく、というように鳴いた。すかさずリオが引きはがして、すでに寝袋に入っていた師匠の顔に乗せる。うがっと何とも言えない悲鳴を上げて師匠が飛び起きた。その拍子に振り落とされたちびが、一生懸命リオと師匠を威嚇している。


 リオはちびを無視して私の隣に持ってきた寝袋に入ろうとしたが、師匠に怒られていた。


「おい、リオ!寝ている師匠の顔にドラゴンを置く弟子があるか!」


「僕はただ、弟子が困っているのに知らんぷりして寝ようとする薄情な師匠に問題を解決してもらおうと思っただけですが」


師匠も自覚はあったのか、ちょっと気まずそうな顔をする。それでも師匠は何か言おうと口を開いたが、それに割り込んだのはちびだった。


「きゅう!きゅきゅー!」


突然何か叫んでこっちに向かってくる。しかしそのままリオに行く手を阻まれペイッと放り出された。ちびはぎゃうぎゃうまくし立てているが、それを無視してリオは私においでというように私の寝袋をポンポンとたたいて見せた。


 それからもケンカはしばらく続いたようだが、寝袋に入った途端眠ってしまった私は、どうなったのか知らない。

※羽根=蝙蝠っぽいの、羽=鳥の羽を一枚単位で言うとき、翼=鳥の羽全体、という設定で使い分けています。書き分けはカンペキではないので参考程度に。

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