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最後の方に挿絵があります。苦手な方は空白のところで戻るか、挿絵を非表示にしてください。
崖の上で、私は必死に鳥さんに縋りついた。投げられた剣は鳥さんの左上の翼の付け根に刺さっており、右下の翼も負傷している今、飛べないであろうことは明らかだ。敵もあんなに鳥さんを逃がさないようにしていたのだから、簡単にあきらめるはずはない。崖を登ってくるのも時間の問題だろう。こんな大けがをしている鳥さんを助けられる方法を私は一つしか知らなかった。
「鳥さんお願い!あの羽を使って!」
私は懇願していた。しかし、鳥さんは首を横に振るばかりでもう三枚ほどしかない傷を癒せる頭の羽を、あろうことか私に押し付けようとしてくる。鳥さんが拒否する私の手に強引に羽をねじ込むと、持ち主の意思を反映してか羽はとけるように消えてしまった。
その瞬間、私の中に不思議な衝動のようなものが起こった。本能とでもいうのだろうか。謎の使命感に突き動かされ、私は耳の上あたりに生えてきた羽を引きちぎった。それをそのまま鳥さんの緑がかった翼にかざすと、羽はとけて消え、傷をふさいだ。次いで青みを帯びた翼にも同じようにして癒す。
傷が治ったからか、鳥さんがうっすらと目を開いた。私は不思議に高揚した気分のままに、鳥さんに語り掛ける。
「ずっとね、鳥さんの名前を考えてたの。エマリオっていうのはどう?私とおそろいなんだ」
鳥さん、エマリオはぱちぱちと瞬きをした後、ゆっくりとうなずく。
そんなリオに、私はそっと口づけをした。
ーーーーー
それから半年後。
「ねえねえリオ見て!あっちに目玉が売ってるよ!何あれ、本物!?」
「落ち着いてレオ、あれは魔物の目玉だよ。呪われてることもあるから近づいちゃだめだからね」
イザルタ王国で二番目に大きな都市、サルシャに、二人の子供の姿があった。おそろいのフードをかぶっているので顔はわからないが、二人仲良く手をつないで歩く姿は大変ほほえましかった。そう、私こと通称レオと、鳥さん改め通称リオのことである。
現在私たちは、そこそこ大きな国で、そこそこ有名な吟遊詩人の弟子として旅をしていた。師匠は夜中まで酒場なんかで歌っているので朝が遅い。その間暇な私たちは、こうして街を散策しているのであった。
なんでそんなことになっているかって?長くなるからまとめると、あの時私はリオと「全てを共有する」という契約を結んでいたらしい。後悔はしていないんだけど、その結果、リオの背中に残ってしまった傷跡も半分私の背中に移り、それを見るたびにリオに悲しそうな顔をされる。
契約の際、お互いの知識も共有されたようで、それによると、鳥さんは種族的には雪白鳥と呼ばれていて、かなり魅力的な存在だったらしい。なんでも羽はさまざまな属性を宿していて、簡単な魔法の触媒になるし、歌声は世界すら動かしてしまうほど、そして、頭の羽には雪白鳥の生命力みたいなものが約一年分詰まっていて、その力でどんな病気やケガもたちどころに治してしまうそうだ。
ただ、当初雪白鳥はあまり強くなく、その歌声に夢中になったドラゴンや神獣のような圧倒的強者に連れ去られてしまい、その庇護のもとで安全は確保されたが、代わりに異性との出会いがなくなってしまった。どんどん数を減らした雪白鳥は、子孫を残すために、自分の生命力の詰まった羽を使って、周りにいた相性のいい異性の他種族を、自分たちと同じ雪白鳥に変える方法を編み出した。そうして庇護者の血族などと婚姻していった結果、ドラゴンなどには及ばないものの、自分の身を守ることはできるくらいの強さを手に入れて雪山などで暮らすものも現れるようになったらしい。
リオも一人で暮らしていたし、そこそこ強かったみたいだ。羽を狙ってきたやつらが、かなりの人数だったせいで後れを取ってしまったけれど。
そして私もほとんど雪白鳥の状態らしい。リオが傷ついたときに、まだ人間の要素が残っている私が羽を渡したから、完全に変わるにはもう少し時間がかかりそうだ。ただ、雪白鳥の特徴の一つである歌はなんだかすごく上手になっていたので、師匠に拾われた際にリオと二人で話し合って、吟遊詩人として正体をごまかしながら旅をすることにしたのだ。
まあそれはともかく、気が付いたら魔法もある異世界に来てたみたいだけど、夜中に宿屋でこっそり触らせてもらうもふもふも素晴らしいし、何も問題ないよね!
レオがあっさりしすぎてるのは......ゴニョゴニョ