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暖かな何かに包まれて、私は目を覚ました。柔らかな赤みを帯びた白いふかふかのものが、頭上を覆っている。手を伸ばしてそれに触れてみる。それはじんわりとあたたかくて、くすぐったがるように身じろぎした。
「ひゃっ」
びっくりして思わず手を引っ込めると、もふもふのそれが動き、できた隙間から鳥のような生き物が顔をのぞかせた。どうやらこのふかふかの物体は、この、鳥というにはかなり大きな生き物の翼だったらしい。私はその至福の手触りに、無意識に頬を摺り寄せた。すべすべでふかふかでいいにおいがして、大変すばらしい。鳥さんはなんだか戸惑っているようだったが、私が
「気持ちいい……」
とうっとりつぶやくと、まんざらでもなさそうに体の力を抜いた。どうやら触らせてくれるみたいだ。翼よりさらにもふもふの胴体に抱き着くようにして、散々堪能したのち、やっと手を止めると、「もう飽きちゃったの?」とでも言うような悲しげな眼差しで見つめてくる。そんな視線に後ろ髪をひかれつつも、重要なことを確認するべく、少しだけその魅惑のもふもふから距離を取った。
翼の陰から抜け出して周囲を見ると、そこは小さな洞窟だった。小さいといっても、二メートル近くあるであろう鳥さん(仮)が余裕で入るくらいの大きさはある。洞窟の外は一面の銀世界で、かなり寒そうだが全く寒さを感じない。地面はすり鉢状になっていて、そこには白いがさまざまな色味を帯びている羽毛が敷き詰められていた。さらに、地面から三十センチほどの高さまで木の枝が組まれていて、ふわふわの羽毛と相まって、鳥の巣を連想させるような見た目をしている。私はその巣(仮)で、巨大な鳥さん(仮)に温められていたようだ。
その鳥さん(仮)も、不思議な姿をしている。羽毛はほとんどが雪のように白く、顔立ちは猛禽類のような凛々しさを感じさせる。翼が二対あり、こちらから見て左上が黄色、右上が緑、左下が青、右下が赤の色味を帯びていて、神秘的な雰囲気を醸し出している。だが、寂しそうにこちらを見つめている冬の空のような色の瞳のせいで、なんだか甘えん坊に感じてしまうもふもふの生き物だった。
鳥さん(仮)は赤っぽい翼を自分の頭にやって、そこに生えている羽を一枚抜き取った。それをそのままこちらに差し出してくる。
「私にくれるの?」
そう問いかけるとまるでうなずくように首を振ったので、肯定されたものと考えてありがたく受け取る。
その羽は翼と同じかそれ以上の触り心地で、頬を摺り寄せると、溶けるように消えてしまった。慌ててあたりを見回すが、落とした様子もなく、きれいな羽をなくしてしまったと泣きそうになっていると、大きな喜びが伝わってきた。
「え?」
どうやらその感情は目の前の鳥さん(仮)のものらしく、翼を落ち着きなくわずかにはばたかせている。さらに続けて伝わってきたイメージのようなものによると、あの羽はこの鳥さん(仮)が意思疎通の手段として渡してくれたようで、消えてしまうのが正常らしかった。
さらに鳥さんは素敵な魔法を見せてくれた。甘くておいしい果物を埋めて、黄色がかった羽をそこに突き刺すと見る見るうちに葉が出て花が咲き、小さくてかわいい実をつけるし、赤っぽい羽では火を起こせて、青みがかった羽は水を出し、緑の羽はつむじ風を巻き起こして洞窟内のほこりを外へ追い出した。きれいだし、とても素敵な魔法だ。
すごいすごいと興奮する私に得意げな顔をして、こんなこともできるぞと外に雪崩を起こした時にはさすがにびっくりしたけど。
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その後、時々追加の羽をもらいながら集めた情報によると、鳥さん(仮)は雪のように白い鳥、みたいな名前で呼ばれているらしい。頭の羽は癒しの力もあるらしく、洞窟内をうろついていてすっころんだ私の擦り傷をあっさり治してしまった。それ以来、鳥さんはなかなか巣から出してくれなくなった。かなり過保護なようで、鳥さんが食料調達に出かけている間に私が抜け出していることがばれると、巣に引きずり込んでお叱りを受ける。ただし、もふもふの翼で頭を軽くはたくくらいなので、全くダメージはない。
そして、いつまでも鳥さんではなんだか嫌なので、鳥さんの呼び名を考えているところだ。鳥さんは男の子らしいので、かっこいい名前がいいだろうか。でも、甘えん坊でかわいいところもあるし、かわいい名前でもいいかも。
そのようにして過ごしていたある日、鳥さんにもふもふさせてもらっていると、鳥さんがいきなりびくっと何かに反応した。そのまま私を巣に押し込み、絶対にここにいるようにと普段以上に強く言いつける。そうして、鳥さんは外へと飛び立っていった。