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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
無限緑地(オールグリーン)
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母なる大地

 西暦2060年 某日。


 その林道はすでに、無限緑地(オールグリーン)の敷地に入っているというところか。

 魔女の研究があるとまたもや留守番のオリバンと極度の面倒くさがりなフィリップを除き、中性の館一行はそれ以外のメンツで出向いていた。

 自然豊かな土地ということもあり、そこにはこの過酷な世界(アマテラス)馴化(じゅんか)したモンスター達が蔓延っている。特に__、


「ああ、もうっ。なんかキショい体液飛んできた。神聖なメイド服に何してくれんのよ!」


「だ、大丈夫だよ、フローレンさん。僕の背中から離れないで」


 ダンディグラムとは似ても似つかないくらいに外見にインパクトを増し、忌避感を倍増させた【(むし)】達。

 その見た目はデカければ人間を優に上回るサイズで、形状すらも変異し、強さも計り知れない程となっている。殺した際大量に飛散する体液に苛立ちを見せるミケラと、虫嫌いだが頑張って男の立ち振る舞いを演じようとするハクビ。


「え、なにこれ、ちょっと待って動けない。うわぁ~蜘蛛の糸だ!」


「落ち着いてくださいハクビさん、それはご自身の糸です」


 そんな茶番を繰り広げている間に、ミケラと虫を潰す事に快感を覚えたサリを先頭に一行は林道を進んでいく。


「ていうか、今更ながらに思ったんですけど。こんな広大な森の中から1人の人物を見つけることなんてできるんですか?」


 それは本当に今更の疑問だが、ニーナやホームズのことだから一寸の無駄もないスケジュールが組まれているのだろうと勝手に踏んだランド。この際だからと軽い気持ちで聞いた事を、しかしランドは後悔する。


「ああ、そうじゃのう。一番は匂いで探すのが手っ取り早かったんじゃが、如何せん此処は木々や花や生き物達の匂いが蔓延っているからのう。ワシの鼻は使い物にならん。近くに来れば嗅ぎ取れるからそれまで気合で探すのと、あと奴はいつも”神王樹(しんおうじゅ)”と呼ばれている一番でっかい木の付近に大体いるから、それを見つければいずれ出会えるじゃろ」


 自分も結構な短絡的・楽観的な性格だと(うべな)っていたつもりだが、そのランドが軽く引くほどニーナの無計画さは飛び抜けていた。

 この無限緑地の範囲を知らない筈はなく、一番大きな木と言われてもそもそも1つ1つの木がデカく基準が分からない。探し出すのに何十年掛かるのかと、(アマ)の器のデカさに頭を抱えたくなる。

 助けを求めるようにホームズの方を振り向くと、彼は黙って瞼を下ろし顔を左右に振った。


(ったく、この執事も執事で…)


 とても強く気配りもでき家事全般などの仕事もこなせるというのに、どこか抜けているなとランドは溜息が漏れる。まあホームズが深く関与しないという事は今回は主人の好きにやらせるようで、いつも通りの自分らしくあまり深く考えないでニーナに任せることにした。


 それから代わり映えのない景色を数キロ歩いた頃だろうか、前方に今までとは明らかに違う不気味な影を全員が捉えた。

 2メートルはあろうかという道幅を丸々遮り、黒光りする胴部からは奇数対の歩脚が並ぶ。ダンディグラムで出会った時とはかなりの差異があり、はたしてそう称して良いのか定かではないが敢えて言うなら、()()()()()()()()()だ。


「うわぁ~~ムカデ、気持ち悪い!」


 あまりの異形さに悲鳴をあげるハクビだが、それも仕方がない。別段虫が嫌いでも好きでもないランドですら、そのいでたちには鳥肌が立った。

 そんな中、毅然とムカデへ近づいていく人影が1つ。怖い物なしのちびっ子メイド、ミケラだ。


「もうずっと歩きっぱなしで良い加減疲れてんのよ。そこどきなさいよ」


 何とも堂々とムカデ相手に申し立てるが、当然「そうですかじゃあ」と従うはずも、そもそも言語自体通じてはずもなく、「キシャァァァァーーーーー」と甲高い奇声で威嚇するムカデ。

 すると同起して、両サイドの雑木林に身を隠していた2匹のムカデ達が同時にミケラへと襲い掛かる。が、おそらく(アマ)達全員がその存在に気付いていただろう。その中で最も動き出すのが速かった2人によって、いとも容易く鎮圧させられる。


「ムカデを確実に倒すには、まず、冷却してからが良いって、どっかの本で見た」


「何言ってんの、一瞬で頭と胴体切り離した方が速いに決まってんでしょ」


 まさに【(アマ)】。屠られたムカデ達も名誉であろうかと思えるほどに、その殺生すら鮮麗され美しく思えた。別格の速さと強さを目の当たりにしたラストの一匹は、明らかに威勢を失くし怯み状態。ミケラによって圧縮されそうになったその時、


「もういいです。下がってください」


 ムカデの後方、姿形は見えないがはっきりとした人語がランド達の耳に入る。その一言でミケラの言葉には一切耳を貸さなかったムカデが、一気に戦意を失くしノソノソと道を開けた。

 巨体から顔を覗かせたのは、爽やかな純白のカトリーナワンピースに身を包んだ、薄緑色マッシュボブの少女。


「此処は自然と大地を愛する地『無限緑地(オールグリーン)』。外の人間達が何用でしょう?」


 柔らかい見た目とは裏腹に、そう問う視線はかなり鋭い。この無限緑地の門番といったところだろう。


「此処の領主に用があって来たのじゃ」


 代表してニーナが答える。


大聖樹(だいせいじゅ)様に?本日来客が来られるなどは聞いてませんが」


「まあ、アポなしの訪問じゃからの」


 先程の会話から察せられるように、居場所が分からない=連絡を取ってない。という事になる。

 無法地帯と言っても過言ではない女照とはいえ、此処は一国として扱っても遜色ない規模の大森林。形としてはその広大な土地を治め統括する存在が必要で、それを担っているのが今名を挙げられた『大聖樹』様なる者らしい。その私有地勝手に侵入するといのは、たとえ知人であろうと許可がなければ許されない。

 入るのに事前のアポがいるなど初耳で、何事もなく事が進むと思っていた中性の館一同は揃って主人であるニーナを見る。

 そんな事一切聞いてないし、知ってたんなら連絡とっておけよ。と、まるで取引先との会議を粋って全部進行しようとした上司が、当日アポなしの打ち合わせなしで相手に一切伝わっておらず受付に追い返された後の空気感だ。


「だってだって、アイツ此処に引き籠って滅多に外出ようとせんし、ワシ携帯とかも持ってないから連絡とかもできんもん」


 短絡的なご主人様もさすがに責任や罪悪を感じたのか、無言の圧に語尾がおかしくなり目を泳がせつつも弁解する。しかし、ニーナの言い分にも一理あった。

 『携帯電話』

 ひと昔前では、持ってなくては生きていけないとまで言われた超重要アイテムも、こと女照では暇つぶしにすらならないただのガラクタと化した。

 ダンディグラム内では主に連絡手段、コンテンツアアプリの使用や、写真撮影などでまだ需要があるものの、そもそも(アマ)の間でコミュニティというものは存在せず、一番の使用目的である「連絡」が行われないことから未だに所持している(アマ)はゼロではないにしろ、皆無と言っていい。

 今回のニーナと大聖樹と呼ばれていた無限緑地の主のように交友関係が築かれている方がレアなケースで、よって連絡なしの突然の訪問でも仕方なし。というのがニーナの言い訳だ。

 たしかに現在で携帯ショップなどはもう存在せず、やろうと思えば(アマ)なら念話やテレパシーくらい簡単やってのけそうだが、それでもこの取り越し苦労感の不満を一同隠しきれない。

 門番であるボブ少女もどうすれば良いか判断が付かず立ち尽くす中、


「ええい、今無限緑地が大変な事になっていると風の噂で聞いたから大親友であるこの《ニーナ・ババラーニャ》が直々に、わざわざ出向いて様子を見に来てやったとお主が《メアリー・マーケット》に直接確認しに行けば分かる事じゃろ。それでどうじゃ?」


 業を煮やし叫ぶように提案するニーナ。ポンッと手を打ち「なるほど」というような表情を作ったボブ少女は、くるりと方向を変えるとランド達に背中を向け付いて来るように促す。


「この先に関所があるので、確認が取れるまではそこで待機していてもらいます」


 大聖樹から確認が取れるまでは疑いが晴れないのか、一旦関所なる所に行かされることとなる。知り合いの元へ尋ねに来て不法侵入者扱いというのもなんだか居心地の悪い話だが、調べればすぐ分かる事なんので皆黙って付いていく。

 その案内道中、先程のムカデを従わせた芸当に興味を示した者達が少女へと詰め寄った。


「なあなあ、アンタ名前は?さっきのどうやったのだ。ミケラなんかガン無視されてたのに、虫だけに」


「お前初対面の人間にそのダジャレは死んだほうがいいぞ。それにさっきのは無視されていたんじゃない、この御方の従虫(じゅうちゅう)なら私の事を食い止めようとするのは当たり前だ。

 そんな事より、私もどうやったのか物凄く気になるな。是非ご教示を」


「お姉ちゃんすごいね!ムカデ語が話せるの?」


 3方向から詰められ、さすがに困惑を隠せないボブ少女。無垢な幼女から質問されてはいよいよ無下にもできず、ネモにだけ答えるように口を開いた。


「私はメグミ。さっきのはムカデ語って訳ではないのですが、私は人じゃない生物達ともお話できるんですよ。他にもいろんな虫や鳥、植物と会話できます」


 それを聞き「すごーい」と目を輝かせるネモを尻目に、ランドとミケラはソレがこのメグミという少女の能力だと察する。聞けばこれまでの蟲や獣達は、すべてこのメグミからの差し金だったらしい。

 それからは特に興味を失くした2人を置いて、ネモとメグミの1対1での会話が関所に着くまで続いた。

 メグミから案内され約10分ほどで辿り着いた関所なる場所は、建築材料すべて(つた)でできているのかというほど緑に覆い取り巻かれた、離れほどの広さの通行規制所。

 こんな物が設置されているなら、わざわざあのような刺客達を送る必要もないんじゃ…。とランドは思ったが、わざわざ口に出すことはしない。


「さっさと済ませるんじゃぞ、こっちも暇じゃないんでな」


 いつも大体暇なくせに、従者達から無言で責められ少し憤懣(ふんまん)な様子のニーナは、(しゅうとめ)のような横柄(おうへい)な態度で関所のドアを力任せに開いたその時、


「その必要はありませんよ」


 その声は、鼓膜を揺らした者の心・身体を安らぎの彼方に(いざな)うような、まさに大自然の憩いのある声音をしていた。

 ドア付近にいたランド、ミケラ、プリン辺りは完全に耳がとろけ、一生聞き入ってしまいそうな声に導かれるように中へ入れば一目散に声主を拝む。

 その第一印象は、もはや風情から見て取れる絵に描いたような清楚で、この恵み豊かな無限緑地(オールグリーン)にこれ以上ないほど見合った、

 【母なる大地】

 その具現化だと、畏敬し崇拝せざるを得なかった。


「な、何故こんなところに?」


 メグミが目に見えて狼狽(うろた)えるのが分かる。


「それは久しぶりにお友達が来たもんですから、待ちきれずに迎えに来ちゃいました」


 ウフフッといたずらした子供のように無邪気に笑う目の前の母性の塊に、不思議と異性だけではなく同性までもが見惚れてしまう。彼女の胸は大きからずとも小さからず、攻撃対象に入るはずがしかし、乳のある女を嫌うプリンまでもがその例外ではなかった。


「ご友人というのは___」


「もちろん、ワシのことじゃ。久しぶりじゃのう、メアリー」


 唯一聞き慣れたせいか飄々としているニーナが、メグミの疑問に答え合わせをした。


「お久しぶり、ニーナちゃん」


 そうして大聖樹こと、この大地の裏側にまで根を広げると言われる超広範囲領域:【無限緑地(オールグリーン)】の管理者(リーダー)、《メアリー・マーケット》が中性の館一同を出迎えた。

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