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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
43/48

脳筋達磨

『クソッ!【魔女】を見失った。オウマ、探知できるか?』


「悪りいがそんな余裕は、…ねえなっ!」


 そう吐き捨てながら、キラは蒼き電波の弾丸達を放擲(ほうてき)。向かい合うホームズはワープでそれらをいとも簡単に躱すと、


「こっちですよ」


「ちっ!!!」


 突如の背後からの(ささや)きに素早い裏拳をお見舞いするが、もうすでにそこにも居ない。


「煮え切らねえなあ」


 異空間でイモリながら、コソコソとヒット&アウェイのホームズ。攻撃のチャンスは幾らでもあったはずが、それをせずおちょくるような立ち回りに痺れを切らしてキラが問う。


「俺のことを試してんのか?まだ師匠気取りで」


「いえ、違いますよ」


 するとちょうど元弟子と会話の花を咲かせたかったのか、頑なに出なかった異空間から姿を現した。


「ワタシ達の目的はあくまで時間稼ぎなので、わざわざリスクを負って攻めはしないだけです」


「ソイツはつまり、どっかに飛ばしたあの2人と繋がってるって事で解釈していいんだよな?」


「さあ。それは、アナタのその何でも分かる便利なインターネットで調べてみてください」


 一貫して、ホームズのスタイルは後手に回っての時間稼ぎ。だがそうなると言わずもがな、(アマ)達と共闘しているこの集団と、ウェリー・ランドが協力関係にあるのは疑いようのないものになる(脅されているという可能性もなくはないが)。

 しかしどっちにしろ、今はそんな事に考えを割いている余裕はないし、同時にキラはこうも思う。

 ホームズ達の狙いが先程ワープさせたランド達を邪魔させない為の時間稼ぎなら、奴らの目標も糸重層の烏(しじゅうそうのカラス)と同じ【魔女】という事になる。

 奴らが【魔女】の討伐もしくはこの地からの撃退を試みているなら、この場はわざわざ追う必要はなく、そちらに任せておけば色々とこちらにとっても都合が良いと。

 だがしかし、逆に最悪のパターンが1つ。

 それを危惧してか、さっきからもう1人のリーダーの声が耳元から鳴り止まない。


「どの班かここを離脱して、奴らの捜索に向かってくれ。このままじゃマズい」


 どこの班も現時点で手一杯であるし、もしどこかが抜ければその穴を埋めるために他に更なる重負担が掛かる。そんな無理難題な命令にもしかし、それを黙って受け入れるしかないほどの理由があった。

 メンバー誰しもが想像するのも忌避(きひ)する、最悪のパターン。それは、【魔女】が相手側に付き糸重層の烏と中性の館が()()()になることだ。

 糸重層の烏エースのキラと、相性がめっぽう良いホームズ。さらにそれと匹敵するほどの強さを持つプリンが加われば、ピーは瀕死状態なうえにメラルタスは片腕負傷。勝率は僅か0.1もない圧倒的なまでの0だ。

 そうなってしまえば、男星(だんせい):オウマ・キラの伝説も確実に此処で終わる。


「仕方ありませんね。アノルト班、行きますよ」


 ここで【魔女】、およびウェリー・ランドの捜索に向かうという事は迅速な発見が求められるわけで、すなわち糸重層の烏メンバー全員の命を預かったも同然である。

 そんなハズレくじを一番に買って出たのが、まったくもって理不尽だが班員が不祥事を起こしたアノルト班。

 その償いという訳では無いが、元々使命感の強いアノルトが名乗りを上げたのである。


「付いていきますよ」


 大剣を振るいながら、やる気に満ちた顔でリックが言う。しかし、もう1人の班員からはその返事が返ってこなかった。


「行ってください」


 視線を向けると、逆三角形の頼もしい背中がそう語っている。


「はあ、お前自分だけ楽な………」


「違げえよ」


 リックの文句を遮って、珍しくいつもの口喧嘩に構うことなくその意図を続ける。


「捜索は2人いれば十分。アノルトさんが【魔女】を見つけた時すぐ駆け付けられるように、ここで俺らがコイツらを片付けておかなきゃいけねえだろ」


 脳筋で形振り構わず突っ込んでいくようなセバスチャンらしからぬ、自分なりに考え決めた答え。大して戦略的でも頭脳的でもないが、あのセバスチャン(脳筋達磨)が一歩引いて冷静に下した決断だと、キラにパッチ、アノルトや他のメンバーに加えさすがのリックも感心した。

 これ以上何かを言うのは無粋であり、黙ってお互い背を向ける。


「いがみ合って犬猿するのも一見、管鮑(かんぽう)の交わり。じゃな」


 互いに理解し合った、信頼できる関係。それは対峙していたニーナですら、称賛に言葉が漏れた。

 しかしそれでも、向かい合うならば敵同士。今まで3人でも苦戦を強いられていたニーナ、それとマリ相手にセバスチャン1人がどう出るか注目が集まる。

 すると脳筋はすでに投与されている2本の身体強化剤に加えて、さらに2本の試験官状のビンをその手に収めた。


 4本。

 到達すればその反動に身体が耐え切れず死に至るという最大5本目の、1段階手前の男が強化可能であろう最後のライン。

 もちろん最悪死に至るであって確率は低くはあるが、4本でもその可能性は視野に入れといて損はない。たとえ死ななくとも、身体の致命傷成りうる重症は必至。(アマ)ならまだしも、男では避けようもない副作用。

 だからこそか、セバスチャンのその決意と覚悟がヒシヒシと伝わってくる。冗談で「5本でやれ」と(のたま)っていたリックも、そんな軽口が叩けなくなる程に。

 セバスチャンはもう何も語らず、静かに赤き液体を服した。

 刹那、【魔女】の時にも似た明らかな空気の異変。

 活性化した全身は真っ赤に発光し、その血管にはラメが照りだし、沸々と湯気が湧き上がる。丸メガネの奥は蒸気により見えなくなり、オカッパだった髪が静電気に侵されたように蕩揺(とうよう)するのがただただ不気味だ。


「これは、これは…」


「すっごいタイプだけど、さすがに諸に受けたらタダじゃ済まないかなあ」


 その異気(いき)は、行き過ぎたマリの性癖をも自粛させる程だった。


「プシューッ」


 やがてセバスチャンは、まるで無感情で無機質な殺戮マシーンのように、大仰に白く立ち昇る息を吐きながらゆっくりと1歩前に出る。


「こうなったら、こっちも出し惜しみはしてられないわね」


 不甲斐ない事に目の前のアレは、そこそこ手練れの(アマ)2人が対峙しても倒すのにかなり骨が折れる。そう直感したマリは、眉を曲げながらそう口にした。


「何か策があるのか?」


「え、あぁ、まあ」


 半ば独り言のように呟かれたその奥の手とは、しかしいつもと少し状況が違うせいですぐには実行できなかった。

 その『違う状況』というのが__、


『サリ姉、今どこで何してるわけ?』


 いつも決まって隣で肩を並べる、姉がいないということだ。


『ああ、マリ。ごめん、ちょっと路に迷っちゃって』


 すると頭の中に直接流れるように、姉の声が響く。

 今2人が行っているのは、テレパシーのようなものだ。深い血縁関係にある姉妹だからこその、遠く離れた距離からまるで電話のように飛ばす事のできる念話。


『こっちはとっくに戦火の真っただ中だっつうの』


 その念話中も、セバスチャンはゆっくりと着実にこちらに近づいてきている。マリは口早に続ける。


『もう時間が無い!こっちで引っ張っちゃうから、マリみたいに舌噛まないでね』


『アンタは故意でしょ…』


 姉の呆れた様子の捨て台詞を最後に念話は終了。同起して浮遊感のようなものが、サリの全身を包み込む。


「てことだからおチビちゃん、さっきのトロッコよりもっと速いアトラクションに乗るから、私に引っ付いて離れない方がいいよ」


「分かった!」


 そんな可愛く緊張した顔に、「やっぱ置いていく」と絶望を与えたいのをサリは必至に我慢した。

 突如、ジェットコースターの発射時にも似た衝撃に促され、次の瞬間マッハレベルのスピードで2人は鉱山内を滑空した。

 SとM。さきの念話同様、2人の間にあるパスに干渉することによって可能な特殊能力。それはまるで磁石のように、離れ離れになったお互いを引き付ける。

 さすがの速さにサリはネモの体をしっかりと抱き抱えながら進むと、時間にして僅か数十秒も掛かっていないだろう、人気の多い場所へ到着した。___が、

 刹那、見た事も無いような猛獣を彷彿させる一撃が、轟音を唸らせて接近。


「サリ姉えぇぇ!!!」


 次いで隣から放たれた、うんざりする程聞き飽きたが世界で一番落ち着く声に、サリの脳はフリーズを回避。

 即座にネモを引っぺがし、右隣りの妹に手を差し伸べる。

 それは、まさに紙一重の神回避。___否、なんと称するべきか。セバスチャンのパンチは地面に叩き込まれ、大量の土煙が周囲に飛散。それらが晴れ視界が見え掛けた時、回避したサリの姿はなく、同時に回避させたマリの姿も見受けられなかった。

 そこに居るのはニーナ、ネモ、セバスチャンと、両側頭部に2本、後頭部辺りに1本、『トライテール』とでも呼べばいいのか藤紫色の髪をたなびかせた、見覚えのない端整な顔立ちをした(アマ)


「状況は、大体理解しました」


 名を、サリ・マリ。

 双子であるサリとマリが融合して生み出される、SでもMでもない至ってまともな性格・性癖をしたもう一つの人格。

 単体では重力の【加】・【減】をそれぞれ扱っていた2人だが、サリマリとなれば能力は重力【加減】となる。

 そんな中容姿や性格、性癖までもが激変しようとも、目の前の敵を殲滅し尽くさんとするセバスチャンは止まらない。

 勢いよく地を蹴った脚はしかし、数瞬で再度地にめり込まされる。セバスチャンの体中に満遍なく()し掛かる重力だ。


「!?」


 全力でないにしろ、敵1人を鎮圧させるには十分すぎる重圧。だが、身体強化剤4本を投与したセバスチャンの怪力はもはや桁外れになっており、多大な重みを背負ってなお歩みを進める。


「なら…」


 然すれば、逆に重力【減】にし無重力で身体を浮かせる。これならどんな怪力だろうと、力を踏ん張ることが適わない。 

 無重力に囚われ浮遊する怪物を睨みながら、サリマリは両サイドのロリに言う。


「ここがおそらく正念場です。行きますよ」


 突如現れた見知らぬ人物に呆けていた両者だが、声を掛けられネモは深く頷き、ニーナはその手に持っていた白檀(びゃくだん)の扇子を大仰に構えた。




 わざわざ直視せずとも、電波の網の中なら手に取る様に分かる。


「いいの、行かせちゃって」


 リックとアノルト、去り行く2つの影を尻目にキラは、ランド達の元へ行かせない為の時間稼ぎが目的の元師匠に、茶化すように投げ掛ける。


「【魔女】と対等に戦えそうなのは見たところアナタだけですから、アナタさえ行かせなければそれでクリアです」


 対してホームズは我らが男最強の男星に向かって、そう簡素に言い放った。


「ハッ、その表面に出してる謙虚さとは裏腹に内に隠した傲慢(ごうまん)さ、あの頃からまったく変わってねえなあ。

 俺はあの時から見る影もなく変わりまくってるぜ。…やれるもんならやってみろよ」


「いいえ。昔から戦場では仲間をまず第一に考え、誰1人として死なせない事をモットーに戦うほど仲間思い。そのおかげか強くなり信頼を得て、相応の地位まで辿り着いた。

 しかしその情は、同じ釜の飯を食い元師匠の裏切り者にも未だに湧いて出ており、戦闘力では勝っているはずがイマイチ押し切れず苦戦している。

 アナタも大概、あの頃から変わってない様子ですよ」


 まつ毛が際立ったスラっと細長い眼付きからは、黒曜石のような深淵(しんえん)に黒光りする瞳。その眼は全てを見透かしているようで、悟っているようで、キラは同族嫌悪か珍しく無性に腹が立った。


「うるせえなあ、言われなくても言い訳のしようもないくらいボコしてやるよ」


 両の蒼眼(そうがん)が白色のオーバーレイで一際発光し、周囲に燐光(りんこう)が浮かび上がる。


「UP・DOWN測定。BPS、アクセル。

 【ELECTRONIC・(ブレイク)(オーバー)(マルウェア)(エレクトロニック・ボム)】!!!」


 叫ぶと同時キラを中心にスパークが弾け、ジグザグな電波を帯びた電磁球が生成される。


「受けて立ちます」


 その口角を仄かに緩ませバチっという火花の合図と共に、エレクトロニック・ボムはホームズに放射された。


「【暗朧(あんろう)への(みち)琉渦奮栓(りゅうかふんせん)】!」


 昨今類を見ない程の逼迫(ひっぱく)した戦火。すでに両陣営作戦など形を成しておらず、場は完全なる力比べ。

 キラも今回ばかりは、メンバーの死を覚悟せざる負えない戦況の中、一際大きな衝撃波がメタルフロント・第一高炉を包み込んだのだった。

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