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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
42/48

愛されなければ、それは死と同じ

 その少女は遥か大昔な時代の『あの時』から、身も心も()()()()()


 少女の家族は父・母・少女を入れた核家族だった。

 父は仕事など(ろく)にしない、酒に女にギャンブル。月に数回しか帰ってこず、たまに帰ってきたと思えば妻・子供にストレスを発散するだけのまさに絵に描いたようなクズ野郎。

 母の方はそんな父に嫌気を抱えつつも放っとけず、父の分も働き貢ぎ訳の分からぬ自己満足に浸る絵に描いたような弱い人間。あと、1万人に1人ではないかと言うほどの、巷では類を見ない()()だった。

 張りとツヤのあった長い黒髪と、戦車も顔負けのその(兵器)。OL時代の母の美しさと、それに比例した人気は引く手あまただった。しかし、父への貢ぎに加えて1人娘もどんどん大きくなっていく。会社員としての稼ぎでは足りなくなり、夜も多く出かけるようになった母はその美しさを日に日に失っていった。


 そんな透き通った黒髪は受け継いだが、()()()()()()()()()()()()()()()少女:プエル・プラ・プリンは1人、寂しく(すさ)んだ家庭で育った。


 *****


 他に住人がいるのかというほどのおんぼろアパート。

 母は朝6時に起床し家事や仕事やらの準備を済ませると、7時半過ぎに出かける。18時あたりまで仕事を終えると、そこからは後半戦。家に帰宅することなく夜の街へ消えていく。帰りは深夜2時頃だろうか、娘が作ってくれた食事を取り風呂から上がればもうすでに3時近い。仕事の書類の整理を済ませ吸い込まれるように眠りに着けば、また同じ朝が訪れる。

 父が帰ってきた日は最悪だ。帰ってくるのは決まって21時を過ぎてから。その時間は母がまだ帰ってきていないので、出くわすのは決まってプリン。出会い頭には娘とは思えないほど興味のない視線と、強烈な舌打ちをかます。酒が回らずとも暴言と、酷い時は暴力が飛んでくる。そのまましばし2人での地獄の時間が続き、

 母が帰ってくれば状況は一変する。まず、完全にデキ上がった父が現金をせびるのは確定演出。そこから2つのルートに分岐する。

 1.現金が目標額に達していれば、機嫌が良いまま母はベットに連れてかれる。

 2.現金が目標額に達していなければ、はち切れんばかりの激昂で暴れ回り鬼畜の限りを尽くす。そうした一連の所業ののち、最終的には母をベットに連れていく。

 父は大の女好きだ。しかし同時に、超のつくほどの乳好きだった。だから幸か不幸か、生粋の貧乳であるプリンは今まで近親相姦を受けずに来られたが、逆に心から愛された事も皆無だった。

 それでもプリンと母は互いに互いを愛し気遣い、唯一の心の支えとして生き抜いていた。

 父が出かけるのは朝方5時頃、まだ日の出も曖昧な早朝に家を後にする。家族揃ってその日は一睡もしていないのは言うまでもない。そしてまた数日か数週間かはたまた数ヶ月後か、思い出したかのように都合良く帰ってくる。

 「一生帰ってこなければいいのに」

 プリンはいつも、そんな事を一心に願っていた。

 やがてプリンは中学を卒業し高校生となる。合法的に働ける歳となり、やっと母への負担が減らせると思った矢先、事故は起こった。


 母が死んだ。_____過労で。

 【絶望】というものを生で感じたのを、200年経った今でも忘れていない。

 小・中学時代のプリンは父から受けた隠しきれない傷の所為で、クラスから浮いていた。軽い虐めのようなことは何度かあったが、幸い担任はやる気のあるタイプの教師であったし、母の事を思うだけで生きる事が頑張れた。

 しかしその唯一の希望を失い彼女からは生力が消え、残ったのは傷に加え死んだような表情と充溢(じゅういつ)する不のオーラ。とうとう誰も近づく者はいなくなった。

 母が亡くなった事により、元々プリンに興味がない父はもう二度と帰ってこないと思われたが、奴はあっさりと顔を出した。その事実を知っているであろうに、ぬけ抜けと飄々(ひょうひょう)と何食わぬ顔で。

 おそらく家に帰ってきてたのは、単なる箸休めの暇つぶし。脂の乗った寿司(女達)の後にガリ()で口直しするような感覚だったのだろうと、プリンはその時思った。

 そこに丁度大好きな乳があるから。

 ずっと父の為に頑張ってきた母だが、父から見た母の存在意義は結局その程度だった。

 と思いきや、母亡失(ぼうしつ)の後遺症は以外にも顕著に表れる。前にも増して一層酒癖が悪くなり、罵詈雑言・打擲(ちょうちゃく)の雨嵐。決まって性交に走る事は無かったが、母で補われていたストレスがその分暴力・暴言となってプリンを襲った。どちらの方がマシだったかは、あの時のプリンの精神状態では判別できなかった。

 そんな事まで一々気に留められないくらい、本人にも後遺症が出ていたからである。

 すべてがどうでも良くなり、いっそ死のうかと考えだした頃、ソイツはいきなり現れた。

 学校のクラスで人気者だったソイツは、皆が距離を置くプリンに気兼ねなく話し掛けてきた。


「大丈夫?」


 日に日にやさぐれていくプリンを見ていられなくなったのか、心配そうにクラスの窓際まで歩み寄ってくる。


「ほっといて」


 かなり冷たく、取り付く島もないほど淡泊に突き放したつもりが、


「そんな訳にはいかないよ。体調悪そうだし」


 人気者は食い下がった。

 どんなもの好きだと、プリンは一瞥。凍えるほど冷めた睥睨を見せると、対照的に人気者は全てを溶かし包み込む太陽のような笑顔で対抗した。

 それから人気者は、事あるごとにプリンへと絡んでくるようになった。クラスの視線(主に女子からの)は痛がったが、プリンは努めて無視するようにしていた。逆に言えば、以前の彼女なら他人の視線を気にするなんて心理状態には至っていない。

 絶望の渦に飲まれ、周りに気を配っている余裕など皆無。人間など動く物体としか意識しておらず、居るのはただ天使(はは)悪魔(ちち)

 天使がいなくなりいよいよ悪魔に侵食されかけていたプリンを救ったのが、あの日声を掛けてきた人気者(ナイト)というわけだ。

 クラスどころか学校中の人気者で、いつも会話の中心にいてリーダー的存在。明るく気さくで話しやすく、ノリが良くて適度に面白い。ボケもツッコミもどちらも使いこなし、勉強も運動もできる二刀流。極めつけは『イケメン』という、まさに成るべくして成った人気者。


 幸せな人生なんだろうなあ。


 プリンは話していくうちに、そんな(そね)みや劣等感に襲われる事が多々あった。しかしそんなのよりもさらに多く、そこには充実感や嬉しさ、《楽しい》が詰まっていた。

 昼下がりの中庭で何気ない会話を交わしたり、本当にくだらない事でクスッと笑ってしまう。そんな時間がたまらなく好きで、「死ななくても良いんだよ」とそう言ってもらえてる気がした。

 相変わらず父の暴れ具合には手が付けられなかったが、いつの間にか形勢は逆転しており、数々の暴挙にも余裕の持った心で対処できるようになっていた。

 母の時とは少し違う、この心の奥底にあるもどかしくも温かい【恋】という恋愛感情。人気者への【愛】が、一緒に居たいという思いがその時のプリンの悪魔に対抗しうる最強の動力源だった。


 生きがいを見失い自殺という精神状態まで追い込まれたあの時から、心臓はまだ重労働に勤しんだまま長い月日が流れた。

 家での父の動向は変わらず、学校でも人気者との会話が日常となり周りからの怨みも薄れていた、高校生活初年の秋頃。


「俺と、付き合ってほしい…」


 いつもの中庭。いつもの会話の最中、人気者が突然そう口にした。

 『付き合う』と一概に言っても、その言葉自体複数の意味を持ち人それぞれによってすれ違いが生じることもある。声のトーンなどから今プリンが意識してる意図で間違いないとは思うが、片や学校でのカーストトップに対し、こちらはワーストペケと言っても過言ではない。

 素直にその言葉を受け止めきれないほどの、残念なまでの格差がその間にはあった。

 しかし、次いでのリンゴのように赤くなった人気者の顔面を見て、プリンの脳は刹那弾け飛ぶ。


「……………はい」


 実際には数秒か、はたまた数十秒か、体感的にはかなり長い間を空けてプリンは短く返事した。次第に彼女の方も、蒸発して消えるんじゃないかと思うほど顔に熱を帯びてくる。

 こうして、2人の交際が始まった。


 2人で言葉を交わしていた時が人生最大のピークだと感じていたプリンは、それが勘違いだった事をすぐに思い知らされる。

 付き合い始めてからはまさに天国かのように毎日が充実し、今度こそこれこそが『幸福』だと確信した。

 開いてしまった()()が入らないように、プリンは【愛】という名の薬で蓋をした。

 そんな幸せな日常が続くと、相変わらず人気者の彼氏以外話す相手がいないボッチのプリンに反し、人気者はどんどん忙しくなっていく。部活動もそうだが、彼は生徒会にも入席していたらしい。

 中庭で2人で昼食を取ることも減り、それを見越した他のカップルが来るのを節目にプリンも1人で足を運ぶは止めた。だがそうなると、ボッチに残された食事スペースは居心地の悪い教室か、臭いトイレか…、

 そこまで考えたとき、プリンは階段を上った。上の階に行くたび、生徒や教師達の喧噪は薄れていき、ヒンヤリとした静寂が浸透していく。

 プリンが思い至った場所は、最上階の屋上に繋がる前の小さなスペース。あそこなら人気もなく、落ち着いて食事ができると思った。

 ___が、そこに近づくにつれ複数名の、しかも男女の声がプリンの耳に響いた。小スペースはすでに、他の人達に抑えられていたらしい。諦めて登ってきた階段を引き返そうとしたその時、プリンは自分が愛してやまない男の声音が鳴った事に気づいた。___気づいてしまった。

 確か今日は、生徒会の集まりがあると言っていた。邪魔するのも悪いと思ったが、一目だけでも拝んでおきたいという愛おしさが、この事態を招いてしまった。


「ちょっとハル、アンタ彼女いんのにこんな事していいの?」


「お前まだそのネタ引きずんのかよ。まあ俺の天才すぎる演技見たら心配になんのも分かるけど、俺はお前一筋だから安心しろって」


 段数残り半分の折り返し地点まで来たところで、そんな会話がプリンの耳に入ってきた。


「ならさっさと別れてよ」


「半年まで。そしたら当たり障りない感じで振って、適当に友達ごっこ続けるって約束だったろう」


「なんであんな【死神女】のために」


「仕方ねえだろ、アイツマジで死にそうだったし。クラスで故人でも出たら、あんな奴でも空気悪くなるって。これから学祭とか体育祭とか楽しい事色々あんのに、俺のモテモテでキラキラな青春をアイツの所為で潰されたら堪んねえよ」


 死神女。死にそうな奴。そんな単語だけで、プリンは自分が話題にされていることが分かった。ならしかし、今彼氏が口にした言葉の羅列は何だ?

 ネタ?演技?お前一筋?半年まで?友達ごっこ?………あんな奴?

 知っている言葉のはずが全然理解できず、何回も頭の中で反芻(はんすう)する。聞き耳を立てるのに全神経を集中させ、いつの間にかプリンの歩みは止まっていた。


「え~、ホントかな~。よくあるじゃん、話してるうちに好きになっちゃうとかあ」


「もしかして妬いてる?あり得ないって。たしかに見た目ほどやばい奴じゃないけど、話しててもつまんねえし、一緒に歩いてると傷の所為(せい)か周りかチラチラ見られるし、それにアイツ………」


 ハルはここが重要とばかりに目一杯息を溜め、大仰に言い放つ。


「あり得ないくらい、胸がねえんだよ!!!」


 瞬間、一拍おいて湧き上がる大爆笑。

 「なんだよそれっ」とハル以外の全員が笑い転げる。


「大問題だぜ。アイツマジで、小学生のガキの方がまだあるんじゃねえかってくらい救えねえ!」


 と、かつて聞いた事のないような怒鳴り声で叫ぶハル。詰まるところ学校の人気者も、あの悪魔(ちち)同様に女を胸でしか見ていなかった。

 否、違う。

 ハルや父に限った話ではない、()()()()()()()()が柔らかくて優しい豊満(ほうまん)な乳を欲しており、女にしてそれを持たぬ貧乳(負け組)は誰からも愛されず、見向きもされず、このように弄ばれるだけの暇つぶしの道具に過ぎないのだと。

 「そうだよな」とか、「胸が一番大事よな」とか男性陣がヒートアップしたハルを宥める中、プリンは俯いたまま動かなくなる。

 視線を下に落としても確かに膨らんだ胸は見えず、ただただガクガクと震えた自分の脚があるだけ。

 貧乳だからいけないのか。貧乳だから辛いのか。貧乳だから誰からも愛されないのか。貧乳だから………。

 とプリンの頭の中では、父に愛されなかったことや偽りの愛で満たされていたこと。こんなにも人生が苦痛なのはすべて【貧乳】の所為なんかと、真っ黒な(もや)が渦巻いていた。

 そうして、プリンの生きる意味は崩壊するように(つい)える。

 収まる様子なく身震いする脚に鞭打ち、何とかプリンはその場を後にした。うっかり持っていた弁当箱を落として気づかれるなどという愚行をしなかったのを、褒め称えたいくらいだった。


 何かものやる気も活力も失せそのまま家に帰ると、その日は厄日だったのかもしれない。普段なら居るはずのない昼間の時間帯に、なんと奴が帰ってきていた。

 リビングで飲んだくれている奴を横切ると随分ご立腹の様子で、男とは思えぬほど甲高い声でピーピー喚いていたが、プリンもそれどころでは無かった為無視して居間に入る。


 今日は、かなり疲れた。


 とりあえず横になって休もうとした途端、いきなり(ふすま)が奇怪な音を立てて蹴破られ、そこから鬼のような形相をした悪魔が侵入してきた。

 その手には、右に包丁と左に酒の空きビンという、仮にもし突然警察がここに来ても言い訳のしようもない完璧な装備。


「お前は本当に鬱陶(うっとう)しいんだよっ!!!」


 今にも目玉が飛び出しそうに、唾を撒き散らしながら吐き捨てる父。プリンの返答など待つ気もなく、まずは牽制とばかりに左手に持っていたビンを投げつける。

 咄嗟に腕でガードしたものの、その衝撃でビンは高音を奏でて周囲に霧散。プリンの腕も切れ、怯み動揺する我が娘にしかし父は容赦なくトドメの一撃をお見舞いしようと肉薄。

 だが酔い+興奮のせいか、足取りは覚束ず視野も狭くなっている。ふら付きながら進むと、先程散ったビンの破片がその足の表皮に突き刺さった。


「ひぐっ!」


 かなり大きいものが深々と刺さり、悲鳴と共に後ろに尻もちを突く。その隙にさらに追い打ちのスクールバックが顔面を強打し、悪魔は勢いよく吹き飛んだ。教科書がそこそこ入ったバックなら、女性が扱ってもそれなりの鈍器になる。角を狙うのがコツだ。


 そして、包丁はプリンの手に。


 その柄を握り刃先を正眼(せいがん)した途端、今までの辛く苦しかった艱難(かんなん)の日々が走馬灯のように蘇る。

 コイツに受けてきた数々の仕打ち。コイツさえいなければ母は死なずにすみ、アイツに声を掛けられる事もなく、こんな哀切(あいせつ)に満ちることも無かった。

 全て、コイツが悪い。

 ___そうだ、何故アタシがコイツやアイツの所為で苦しみ、命を落とさなければならないのか。コイツ等が死ねば良いじゃないか。

 と、この窮地を介してプリンは、ある種プラス思考の心境へと到達する。

 悩んでいたのが馬鹿らしく、いつもいつも受け身だったのがもどかしい。気に入らなければ自ら手を下し、自分好みすれば良い。


(そうだ…、まずはコイツからだ)


 そこで初めて、プリンの中に自分以外への明確な殺意が芽生えた。柄を握る手は力を宿し、目は完全にキマッテいる。その頃には父も痛みに慣れつつあり態勢を立て直していた。

 次いで繰り広げられるのは、格闘経験ゼロ。何もして来なかった両者の何とも見るに堪えない不恰好な一騎打ち。

 間合いや戦略、駆け引きなど一切なくひたすら攻め・攻められるのみの戦い。そうなってくれば凶器を所持しているものの、かなり大柄な父と高校生にしては幾分か小軀(しょうく)な娘では単純な膂力(りょりょく)の差が勝負を分かち、プリンは包丁を落とされるといとも容易く馬乗りに覆い被さられた。


「へへっ、終わりだクソ女」


 その毛深く野太い手が、プリンの細い首を掴んでホールド。


「う………、ぐ………」


 力一杯に頸動脈を圧迫され、脳へと流れる血液は激減。文字通り全力で娘を殺しにかかる父に、プリンの意識は消えかかる。それでも本能的に最後の力を振り絞って、その手を引き剝がそうとした。

 刹那、父の手の甲とプリンの手の平が重なった瞬間、不愉快だった圧迫感が消え失せ、血液が再度循環するのを感じるのと同起して、意識も鮮明に戻っていく。

 しかし、体に感じる重みは拭われてない。それどころかさっきより重いくらいだ。なら何故と憎き男を直視すれば、それはまるで死人のように脱力したまま動く気配のない父。急いでどかしても抵抗する素振りすらなく、扱いは少し大きめのぬいぐるみに似ている。

 ___否、()()()では無かった。

 このろくでなしで何の生産性もない無価値な父親は、あろう事かすでにこの世から息を引き取っていたのだ。

 辺りを見回したが包丁は無造作に畳に放られており、流血も目立った外傷もなく刺さった痕跡はない。なら突発性の持病が発症したかと考えたが、苦しみ悶えずスッと息絶えたことからその線も薄いと思った。

 おかしくなったのは、意識が朦朧とした中で手が触れたところか。

 プリンは自身の両の手をマジマジと見つめる。なんて事はない少し傷ついた普通の女の子も手だった。


 次の日、プリンはもう二度と行く気のなかった学校へ行った。

 あんな状態の父と一日中一緒など、それはそれで別種の地獄だ。あと、確かめなければならない事があった。

 正直、9割信じていない。触れただけで人が死ぬなど絶対あり得ないし、あんな奴の死因などぶっちゃけどうでもいい。

 しかしもしこれが真実なら、プリンにはどうしてもあと1人(ほふ)らなければならない人物がいた。

 昨日の事は隠したまま、運よく予定が空いていたので2人仲良く中庭に行く。いつもと変わらず優しく面白くカッコいい人気者だったはずが、意識すればどうという事はない。時折自分の胸元に向ける彼の視線から虚しさや悲しさ、果ては嫌悪などがヒシヒシと伝わってきた。


(嗚呼、本当に、、、)


 プリンは心の中で泣いた。


「もうすぐ付き合って半年だな…」


 そんな荒れ果てた台風のような心情とは裏腹に、傍らのペテン師は空を仰ぎながらすまし顔で呑気に浸る。


「キス、しよ」


 続いて何かを語ろうとしていたが、聞いてはいないし聞く気もない。それを遮るようにプリンが申し出た。少し面食らった表情ののち、拒否したいという本当の顔と、立場上仕方ないという嘘の仮面が必死に鬩ぎ合う。ほどなくして、


「目、瞑って」


 どうやら仮面に覆われたらしく、プリンに1歩寄り添った。まだ僅かな未練でも残っていると期待したが、昨日までなら死にそうなくらいドキドキであろう純情は完全に消失し、今はもう何も感じない。ただただ一刻も早くコイツに触れたかった。

 真っ暗闇の中、じらすようにゆっくりとその唇に触れるもの。

 だがそれは、()()()()()()()()()

 瞼を開けるとそれは、男の人差し指。その奥、人気者ペテン師:ハル(彼氏)はウインクを乗せたキメ顔で、


「それは半年記念の………」


 そのまま死んだ。

 もはや、喜びでも悲しみも感じない。最高潮の呆れでプリンは、聞けもしない死人に言葉を並べる。


「アタシ達、別れましょ」


 確定だ。この身体には、触れただけで生命を殺める力があった。

 それから程なくして、プリンだけでなく全世界の女に異変が見られ始め騒々しくなったのは、学年が2年生に上がるか上がらないかくらいの時期だった。

 あれからプリンは、この身体自体で人を殺めてはいない。何か特別な事があるわけではないが、衰亡期(すいぼうき)だったあの頃と【けじめ】をつける為のようなものだ。


 そして数えきれぬほどの年月が経ったが、未だにあの時代の容姿のまま《死》と隣り合わせで歩く【死怨(しえん)の魔女:プエル・プラ・プリン】。

 その(アマ)は『あの時』から………、


                        ()()()()()()()()()()()()()()

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