相性
それは、確かに因縁めいた運命かもしれない。
バルガとフィリップがこうしてまた再会したのもそうだが、この2人がバルガ班にいたのもまた…。
〈ランクS〉。【四姫災】。そんな女の中でも頭一つ抜けて強いアイリスを前に、テッコツとフォルカスは臆せず相対する。
不意を突かれ重力に潰された3人は、前戦で良いとこなし。
「このままカッコ悪いままで、終われねえんだよ」
先の失態を取り返すべく意気軒昂なテッコツは、腕に装着した女滅器に、先端が尖ったスタイラス状の鉄を3本装填。
すると駆動音と共に鉄を焼くような熱と、電磁場内における電磁気力が発生。まるでパンを焼くトースターのように「チンッ」という音を鳴らし、電磁砲の方式に伴って鉄が発射される。
超加速で迫り来る鉄砲を、アイリスは氷の壁をもってして防ごうとする。が、それは女を滅する武器。
接触した鉄はもの凄いほどの回転数を誇り、その犀利な穂先が分厚い氷層を抉り取らんとする。ただそれだけなら、四姫災とまで謳われたアイリスの氷は破れない。
そう、それだけなら。
否、その鉄に込められているのは超加速と回転による貫通力と、膨大なまでの熱。ストーブや焚火などからなる熱量とは比較にもならない。マグマをも凌駕する女産の熱は、そのままアイリスの氷壁を穿通。
「ッ!!」
完全なる油断により反応が遅れ、2本は何とか避けたが残りの1本。真っ白な右腕が抉られ、黒と赤に染まる。すぐさま凍らせて応急処置をするが、HPは幾分か削られ機先を制されるアイリス。
なら先に潰すと、簡易的な氷の礫で応戦。装填される前に数で押し切ろうと考えたが、その無数の礫達は横からの『水の奔流』により一蹴された。
見やれば、ロマン溢れるメタリックな表装も、重々しくしっくりとくる質感も無いような単なるプラスチック、《水鉄砲》ならぬ《水大砲》がそこに仰々しく顔を出していた。
寸暇の間もなく、フォルカスはランチャー最尾の貯水タンクから砲身へと水の補充。満遍なくチャージされていき、早くも2発目がぶち込まれようとしている。
炎や熱気などに限らず、液体を掛けられても氷は格段に溶けやすくなる。それが大砲級となれば言わずもがな。
「【水艦大砲】!」
反動で少し後退するほどの特大エネルギーの水の波動が、アイリスに一直線へ伸びる。
「【氷宝の盾】」
それを正面から迎え撃つ。が、それはいつしかの大老婆の時よりも短く、速く、まさに瞬溶け。呼吸をする間すら与えず溶かされ、アイリスは危機一髪。事前に展開していたフィールドのおかげで何とか回避した。
「危な、かった」
これは、運命か。
アイリスは今、糸重層の烏で相性の悪い『弱点』の2人と当たってしまい、明確なピンチに陥っている。
だが、アンデールの時のような絶望も、死もそんな身近に感じない。アイリスは極僅かな希少な時間を、必死に脳をフル回転させて思考した。
まず【熱】の方は、威力と数の中間くらいの攻撃。発射してから次の発射までのインターバルは短く、最低3~5秒。追尾・拡散等はまだ分からないが、あの回転と熱は諸に喰らえばそれなりの傷となる。
それから【水】の方は、威力特化の砲撃。インターバルは普通で、10秒かそこら。前者同様に追尾・拡散は不明。しかしあの【水艦大砲】、おそらくダメージそれほどない。アイリスはそう睨んだ。
そして、そのアイリスの見解は的中。水圧によるノックバック効果は強いが、アイリスのような強者にダメージは皆無。
ならその役目はというと、さっきのような氷雪攻撃からの防御と、アイリスの周囲を瞬溶けして丸裸にすることだ。
アイリスが早い段階で威力がないに勘づいたのは僥倖。さらに、幸いにもこの2人、どちらも飛び道具で中・遠距離を好むであろう相手。
さすれば、近距離を選ばない手はない。アイリスは二刀の【氷妖の刺突刀】を顕現し、【凍旋・虎徹】の構え。
目にも止まらぬ超スピードで、狙うは小回りの利かなそうなフォルカスだ。
二刀のレイピアが肉薄するが、しかしそれを予測していたとばかりのテッコツの横やり。氷で防げないのは、残念ながら先程で証明済み。仕方なく3本とも避けるが、そうなれば今度はその一瞬の隙をフォルカスが見逃さない。
回避した先にキャノン砲が放たれ、アイリスの右半身にだけ命中。その水圧は凄まじく、肉薄してきた距離を瞬く間に逆戻りするほどだ。
何とか態勢を立て直し再度攻撃を仕掛けようとして、アイリスは停止する。このままでは互いに互いをカバーされて、いずれヤラれるのはこちら。
(だったら)
【アイシクル・ウェーブ】。氷の波濤で牽制するが、テッコツとフォルカス2人の前では全く意味をなさない。
案の定ハイドロバスターで溶かされ、ガラ空きになった本体に熱鉄砲が直撃。
すると到底あり得ぬ、通常赤い血液を流し傷を負うはずの人間が、ドロッと形を崩し溶解した。
「「!!?」」
決まったと追い打ちを掛けようとしていた2人も、たまらず瞠目。そして数瞬、何が起こったかを理解する。
彼らの前に佇むは、無数のノーゼント・アイリス。氷でできたアイリスの分身達、【氷人形】だ。これなら狙いを絞れず、無闇に発砲はできない。
「さっきのはカモフラージュかよ」
アイシクル・ウェーブの本当の狙いは、それによる一瞬の猶予で位置を目くらます多重氷分身を発動させること。
気を立てながらテッコツは熱鉄砲を装填、発射。しかし分身も単純な回避行動ならできる。腕や脚などの、芯でない部分に標準をずらして避け何とか延命。
「キリが無いよ」
フォルカスも広範囲のキャノン砲で何体か溶かすが、ドールは無限に製氷される。さらにその真価は、撹乱のみに非ず。
まるで特攻隊のような一斉突撃に、フォルカスは全方位から包囲された。水艦大砲は一方向への放射しかできなく、すべてを対処するのは不可能。
正面一帯にお見舞いするが、その隙に別方向からのドールが水大砲の砲身へとへばり付き、自ら溶けだしたと思えばそのまま凍結。大砲を氷漬けにして固定し、動けなくさせたのだ。
自我もない単なる一人形だが、さながら無慈悲な自爆特攻。
それに続いて次々と、フォルカスにへばり付かんとする人形達。そして、その中に潜む本体。
「これで、終わり」
逃げ場はなく、頼みの滅女器も使えない。アイリスの静かなる終戦のお告げが鳴った。かのように思えたが、それはダンディグラムを代表するチームであり、大敵である【魔女】を仕留めるために選ばれた精鋭。
前の戦いも良いとこなし、ここでも呆気なく敗北なんてしたらメンバーに立つ瀬がない。
フォルカスは大衆に囲まれ、危機迫る状況で尚冷静に水大砲に取り付けてあった貯水タンクを外すと、その水を直接砲身にぶっ掛けた。
逼迫した中で、どのくらいの量で氷が溶けるかなど一々精査してられない。ありったけを全て注ぎ込み、水のストックはこれで完全にゼロ。だが滅女器は返ってきた。
振り返れば、もうすぐ目の前に迫る人形達。フォルカスが流れるようにその標準を一つに定めたのと、氷人形第一陣がすぐ隣に肉薄したのはほぼ同時だった。
接触まで残りほんの数ミリのところ、背後から人形の芯を貫いたのはテッコツ。
「ぶちかませ。フォルカス!」
冷や汗だらだらに、最高の仲間に内心でありったけの感謝を送り、フォルカスは引き金に添える手に力を込める。
「近くで見たら何て事ない。アンタだけ、左目の下に黒子があるよ」
それは直前、1回分だけ補充されていた最後の1発。
水艦大砲迸発。
黒子の有無で見分けられてしまったアイリスにクリティカルヒットする。痛みは無い。だが先程の半身だけでもかなりの飛びようだったのに、それが諸に全身となればそのノックバック力は以上。
大波に流されるように身体の全権限を奪われ、息苦しさと歪むような気持ち悪さ。徐々に凋落しやっと解放されたアイリスはしかし、敵2人と遥かに離れ下には自分の庭である氷庭はなく、かわりに大きな大きな溝。山頂から谷に大きく吹き飛ばされ、アイリスは山という大地のレールから外されていた。
数秒、水圧の慣性が和らぎ、次いで重力によって落下する。
すぐさま氷を山の側面に貼り付け落下を阻止しようとするアイリスだが、山との距離は遠く氷の橋が繋がる前に、チンッと焼き上がった熱鉄砲がそれを邪魔する。
「アイリス様ッ!」
劣勢を悟ったホームズは、戦闘も途中で投げ出しワープで助太刀。
「させるか。フォルカス、お前はここに残って班長の補助だ。ポム、行くぞ!」
「分かってんデイッ」
ワープを使われたら熱鉄砲で阻止できず、先の苦労も水の泡で一瞬にして帰って来させられてしまう。仕方なしともう戦力にならないフォルカスは此処に待機させ、ホームズと対峙していたもう1人、ポムラットとテッコツ自らも落下。
案の定、秒と掛からずアイリスのすぐ傍までワープしたホームズ。その手によってゲートが出現すれば、何事も無かったようにさっきまでいた屋根まで元通りだ。
だから、わざわざテッコツ達も谷に身を投じた。
落下中、ポムラットが懐からソレを取り出し投擲。ホームズがアイリスに手を伸ばそうとした、その2人の間。
「クッショック!」
ソレを中心にバイーンという衝撃が発生し、ワープ叶わずそれぞれ真反対に飛ばされた。
「勝負は、こっからだろ!」
陽も届かぬ闇夜へと宙を切り裂いていき、4人は第二ラウンド・『空中落下戦』へとステージを移行した。




