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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
34/48

緊急暴発ワープ

 主人や大切な客人を、乱雑に見知らぬ地へ飛ばしてしまったにも関わらず、今のホームズにそれを気に懸けるほどの余裕は存在しなかった。

 少しでも気を緩めれば、一瞬にして持ってイカれる。凄絶(せいぜつ)なまでの気迫からなる、張り詰めた緊張感。


「チッ、…男」


 やがて【魔女】:プエル・プラ・プリンは、よく通るとても鋭利な声音でそう呟いた。その増量された殺意に、ホームズはまだ動けないでいる。


「選んで。今ここでアタシに殺されるか、目の前から姿を消すか」


 すると、生還への道を必死に模索していたホームズに、思ってもみない選択肢が出された。道すがらのゴミに一々反応していてはキリが無い。そのため(アマ)が男を()()()ケースは珍しくなく、ホームズからしたら願ってもないこと。考える余地なく後者を選択させてもらう。


「ありがとうございます」


「…話しかけんな」


 そう冷たく返すプリンを尻目に、ホームズは自身の胸元に手を添える。軽く一礼し、足早にその場を後にした。


   *****************************************


 鉄鉱山・メタルフロント|中心部。【ニーナ・ババラーニャ】。


「何がどうなっておる?ワープに失敗した。ホームズが?何か問題が起こった可能性が高いのう」


 あのしっかり者の執事が予定にないことを実行し、事の重大さにいち早く勘づく主人。その表情はまさに指揮官のようなキリっとした相好へと変わり、白檀(びゃくだん)の扇子を可憐に構える。

 鼻元を擽る、微かな甘い芳馨(ほうけい)。辺り一帯に意識を向ければ、そこにはニーナにしか感知することのできないモヤが存在する。

 ニーナは以上に鼻が良く、その能力はあらゆる『匂い』の選別。一個人の体臭からその部位まで、的確に当てることができる。さきほど口にしていた()とはこれのこと。メタルフロントに行けば、そこに居るであろう【魔女】の匂い。さらに敵陣営の匂いまで把握し、位置から行動まで全てを掌握できる。というシナリオだった。


「まあ、冒険にトラブルは付きものじゃ」


 そう1人執事のミスを免除し、ニーナは最大範囲まで嗅覚を研ぎ澄ませる。鉄や土、腐敗臭などを嗅ぎ分けて、敵の感知。そして最も自分に近い味方の匂いを嗅ぎ付ける。

 この能力は索敵には向いているが、個人での戦闘力は皆無。まずは味方との合流を目指し、ニーナは静かに歩き始めた。


   *****************************************


 鉄鉱山・メタルフロント稜線(りょうせん)。【ノーゼント・アイリス、ラル・フィリップ】。


「どういう、こと?」


 長い沈黙ののち、アイリスは隣にいる庭師に声を掛けた。その問いに男は、面倒くさそうな顔で後頭部を掻く。


「知らねえっすよ。俺、あんま話聞いてなかったから」


 こんな状況でも我を崩さず、フィリップは顔中に皺を浮き出させる心底嫌そうな表情をし、


「ただ、1つだけハッキリしてるのは、マジで面倒くさい事になったってことっす」


 ひん曲がった口でそう言った。

 現在地は鉱山の鞍部(コル)と呼ばれる、峠付近の開けた路だ。このペアが最もワープでの移動距離が短い。周りが囲まれてない分目的を見つけやすくはあるが、反対に敵に見つかる危険性も高くなる。


「どうする?」


 アイリスは再度、庭師へと問いた。


「まあ、他の味方との合流を最優先で良いんじゃないっすか。俺ら2人で【魔女】と当たっても、めんどいだけだと思うんで」


 その提案にアイリスが同意し、2人は前と後ろそれぞれこれからの進路を眺める。かなり急な傾斜+高く長いピークと、緩やかで短めな小ピーク。無論、極度のめんどくさがりなフィリップがピークを選ぶはずもなく、小ピークを伝い屋根の方面へと進路が決まった。


   *****************************************


 鉄鉱山・メタルフロント|鉱山内部の坑道。【サリ、ネモ・ロムナ】。


「大丈夫?お嬢ちゃん」


「大丈夫だよ!ネモ強いから」


 湿気た採掘道に飛ばされたのは、ドSとロリのペア。

 ここは1つ、適度なサディズムで自身への安定剤を投与しようとしたサリだが、近くにいるのは無垢な幼女1人。仕方なくまともに現状を思案する。


「まあこれは普通に考えて、あのホームズが予定を変更せざるを得ない事態が起こった。ってことで良いのよね」


 と、珍しくまじめモードでブツブツと考えるサリに、


「ねえ、これ何?」


 その思考を遮るネモの質問。それは採取した鉄鉱石などを大量に素早く運搬できる、坑道などによく見られる『トロッコ』だった。


「あーそれね、それ1台で「便利~」とか「快適~」とか言って、必死の形相で資源を運ぶ豚達の顔が見れなくなる、超ふざけた乗り物よ」


 サリの顔が、苦虫を嚙み潰した時のようにくしゃりと歪む。


「乗り物!?乗りたい!」


 そんなサリの憤りも露知らず、ネモは現在の非常事態などお構いなしに童心マックスの我儘(わがまま)。さすがのお姉さんも苛立ちを覚えそうになったその時、


「これなら早く、離れ離れになった人と会えるよ」


 5歳の幼女からそんな言葉が発せられる。幼稚な好奇心からなどではない、小さいながらにしっかりと理解し考えてた結果だ。

 伊達に今のこの時、この場所に立っていないとサリは不敵に笑った。


「そうね、その提案乗ったわ」


 正直、最善策とは言い難い。まともに動くかも、何処に繋がっているのかも分からぬトロッコ。もし接敵すればそれは突然、こちらも、おそらく相手ですら自分達のタイミングもクソもなく身動きの取りづらい箱の中で戦闘開始。かなりリスキーなドライブとなる。

 しかし、この広大な鉄鉱山。気を張り詰めさせながら無闇に歩き回っても、仲間と合流できるかは分からない。ならばと、そもそも頭脳派ではないSっ気の(アマ)はそれに乗った。

 問題は、それを動かす動力源。このトロッコがどうやったら動くのか、サリもネモも知らない。その傍らにソレらしいレバーなる物はあるが、


「コレ、かな?」


「ソレ、ぽいわね」


 試しにネモがそのレバーを引くと、何かの歯車が動き出しそれが巡り巡って1台分トロッコが前進。2人は顔を見合わせ急いで乗り込むと、せっせと漕ぎ始めるのだった。

 …しかし、この時は気づきもしない。この未開の鉱山で前と後ろ、どちらが進むべき道なのかを。ただただトロッコが動いたのが嬉しくて、それが進むレールに沿って行ってしまったことを…。


   *****************************************


 鉄鉱山・メタルフロント|北方谷沿いの削れた隧道(すいどう)。【ハクビ・アケミ、フローレン・アルティス】


 アイリス達がワープした稜線の遥か下方、鉱山全体の北側に位置する側道であり、少し(いびつ)な形をした道。

 前までそこは、鉱山内部に属する回りを岸壁に囲まれたトンネルのような道であったが、その区間において300メートル程何かに抉り取られたかのように片側サイドが丸見えの仕様になっている。

 よってそこから一望できる情景は、向こう側の大地とこの鉄鉱山を分かつ断崖絶壁の渓谷(けいこく)


「あ、安心してぇ。しっかりと足元を確認してし、慎重に歩いていけば、落ちたりはしないから」


 顔面蒼白、瞳孔の開いた瞳に脚を思いきりガクつかせながら、しかし俺の背中に付いてこいスタイルで巨人メイド:フローレンをカッコ良く先導しようとする高所恐怖症のハクビ。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 その明らかな強がりに、心配になったフローレンが声を掛ける。が、デカい身体のわりに極小の声量は、もはやパニック状態のハクビには届かない。

 格好よくエスコートしようとしたハクビは、逆に介護されるという何とも格好悪い形となってしまう。


 何とかフローレンに軌道修正されながら、ようやく道半ばまで到達その時___その手裏剣は薄暗い前方から突如として2人に牙を剝いた。

 片や体調不良と、それを介抱する(アマ)。完全に虚を突いた攻撃はヒットするかに思えた、しかしその直前。ターゲットを残り数センチにして、手裏剣の勢いは衰え、そして停止。

 風車型の鉄刃に絡まったのは、目を凝らせんば辛うじて視認できるほどの『糸』だ。


「まったく、今日はほんとうに付いてない日ですね」


 そう嘆くようにハクビ達とは反対方向、3人の男達が姿を現す。


「フローレンさん、ありがとう。もう平気」


 ハクビはいつの間にかその目に正気を取り戻し、高所への恐怖など吹き飛んでいた。敵を目の前にして、「高い所が怖い」など言っていられない。

 ハクビの(めい)によって糸の1本1本が意思があるかのように繊細にうねり出し、絡めた手裏剣を解いていく。やがて宙で止まっていた手裏剣は、その支えを失い重力に従って自由落下。地面にキンッと鈍い音をたてたのと同時、男陣営の1人オカッパメガネ脳筋の猛烈な驀進。

 そのキックとフローレンのパンチが相克し、戦いの火蓋は切って落とされた。


   *****************************************


 鉄鉱山・メタルフロント|第一高炉。【ウェリー・ランド、マリ、ミケラ・コルセット】


 そこは鉱山の内部でありながら、内部ではない。その一帯だけ天井がなく陽が射し込み、茂る木々と暗く冷めた鉱山内を忘れさせる明かりと暖。石造りでできた仮設の高炉だ。


「ったくホームズの奴、ニーナ様が危険な目にあってたらタダじゃ済まさないんだから」


 不機嫌極まりなく辺りを警戒しながら、失敗をやらかした執事に辛辣な言葉を投げるのは小さいメイドの方、ミケラだ。つりにつりまくった目尻は、苛立ちを隠せていない。


「苛立ってっるねえ~、ミケラちゃ~ん」


「すいません、マリさん。今私は相当気が立ってるので、近づかない方がいいですよ」


 その怒りをまるで餌かのように嬉々として接近するマリと、冗談じゃすまないとあしらうミケラ。そんな会話に第三の声が交える。


「で、これからどうします?」


 高炉を軽く拝見しながらランドが言った。


「そんなの決まってるでしょ、ニーナ様を探しに行くのよ」


 と言ったは良いものの、今のところ自分達の現在地すら把握できていないのに、特定の誰かの位置を探し出すなどそれこそニーナの能力の類でなければ不可能。

 しかしそんな事知る由もないランドは、合点がいったような顔を作る。


「メイドさん、探索系統の能力なんですか。あっ、てことはニーナさんが言ってた()ってもしかして…」


「………がうわよ」


「?」


 索敵ができるなら【魔女】の位置特定も問題ないと、安心に満ちてニーナが勿体ぶっていた秘策を当てようとしたランドに、そんなか細い声が鳴った。よく聞き取れず耳を凝らすと、


「私は探索なんてできる能力じゃないわよ!」


 いきなりの怒号。ランドはギョッとする。

 それはミケラ自身の発言に対しての瑕疵(かし)を、ランドに指摘されたことへの完全なる八つ当たりだ。


「はあ!?じゃあどうやって見つけるんですか?」


「そんなの隅から隅までよ。主人が危ない状況だってのに、従者が何もしないだなんてありえないでしょ!」


 すかさず疑問を投げ掛けるランドに、引けに引けなくなったミケラは勢いそのままに放つ。


「じゃあ此処で待機しましょう。行き違いになるかもしれないし、此処は開けてるし陽も入って光もあるから見つかりやすい」


「うるっさいわね!上から私に命令しないで。クッシャクシャに圧縮して、どこぞの動物の糞に埋もらせるわよ」


「…なにソレ、新種のプレイ」


 若干の邪魔が入る。


「意味分かんないっすよ。いいからそんなくだらないプライド捨てて、そのご主人様のために最善の行動をしようって言ってんです」


「プライドじゃない!ニーナ様に一刻も早く会いたいからよ。それにアンタにニーナ様の何が分かんの?名前出せば私が揺らぐとでも思った?ニーナ様と私くらいの関係だったら、自然と意思が通じ合ってどんなに離れていたって、たとえ大迷宮ベロニロスの中だって出会えるようになってんのよ」


「1度足を踏み入れた者を骨の髄まで逃さない、大迷宮:ベロニロス。…行ってみたい」


 またも、邪魔。


「そんな頭お花畑の話をしてんじゃねえよ!一刻を争う状況だから冷静に判断して、適切な対応が求められんだよ」


「じゃあアンタ1人で此処に残ればいいでしょ、私達だけで探してくるから。ニーナ様と再会しても此処には戻って来ないけどね」


「ああ、行けよ。ニーナさんが此処に来たら、お前らは死にましたって言っとくわ」


「死!!!」


 言い合いはどんどん激化し、互いに譲れぬ(せめぎ)ぎ合いが勃発する。口論(それ)が一番無駄だというのに。

 こんな敵地、危機的状況でどちらも折れる様子のない膠着(こうちゃく)状態の最中、


「何やっとるんじゃ、お主達」


 その声はさっきからちょくちょく茶々を入れ、『死』という単語に興奮し鼻血を出してぶっ倒れたマリではない。少し若いが貫禄のある、ロリ声の特徴的な口調。


「ニーナさん!?」「ニーナ様!?」


 漂う匂いを辿ってワープ地点が一番近かったランド達と、ニーナは無事合流した。

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