腹が減っては、何とやら
女照、男国家ダンディグラムから北西に聳え立つ鉄鉱山:《メタルフロント》。
今回の標的である【死怨の魔女】プエル・プラ・プリンを、現在糸重層の烏が3班に分かれ捜索中。
ピー班、アノルト班の2班が鉱山内部を、バルガ班は峠へと繋がる屋根をパッチと連携を取りながら慎重に進んでいく。ランドが欠けたアノルト班は、3人だけでの出動だ。
ツルハシ・スコップなどの散乱した採掘具を避け、トロッコ用のレールに沿って寂れた坑道を探索していくアノルト班。以前は頻繁に使われていた道具達も、【魔女】が住み着いた昨今はめっきり放置状態だ。
「ここで、終わりですか」
入口から数十メートル、道標となるレールが終点となり、ここから先は未知の世界となる。
そんな前方に、のっそりと姿を現す影。
「おと…こ」
ひどく痩せこけ、今にも干からびそうな女だ。
「こちらアノルト班、女と遭遇。戦闘に移ります。
はあ、今日はついてない日ですね」
アノルトの嘆きと同時に、3人は臨戦態勢。女との戦闘が始まった。
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「【魔女】の救出、童達中性の館一同も協力してやろう!」
ニーナが高らかと宣言した共闘に、ランドは一も二もなく賛成した。協力するその理由や目的はどうであれ、1人では限界があった八方塞がりの道に光が差したのは事実。アイリス達はなるべく巻き込みたく無かったが、こうなってしまってはそうも言ってられない。
しかし、それにより生じる問題もある。現在ランドが在籍している糸重層の烏が、この中性の館の存在をそう易々と認めるはずがない。その時、ランドはどちらに付くべきか、だ。
ここの住人として、アイリス達と共に暮らさせてもらうのは難しくはないだろうが、その場合裏切り者としてダンディグラムから永久追放される事は確実だろう。あの国では、まだやるべき事があるのでそれは避けたい。
だが同じ地で、同じ人物を求めて彷徨えば、2つの団体がいずれ鉢合わせるのは必至。あの強者揃いのガーデンに疑われずうまく立ち回らなければ、ランドの立場はおろか命すらも危ない。
「ふむ、それなら早速状況を整理しておこうぞ。これまでの経緯は、あらかたホームズから聞いておる。
童達の目標は、【魔女】の確保。あるいは出奔。糸重層の烏の撃退かの3択じゃ。
敵は全部で11人、全員かなりの手練れと聞いておる。その中で目的を果たしつつ、ランドが童達と協力関係にある事を悟られないように立ち回る。童達、そして敵も含め、誰1人として死なせずにこのミッションを成功させるのじゃ!」
先刻の駄々っ子はどこへ行ったか、この館の主人であるという風格を存分に醸し出すニーナ。
「じゃ頼んだぞ、オリバン」
そんな士気を高め、ここからは研究者であるオリバンの出番。
「はいはーい。と言っても、【魔女】は他の女に比べて極端に情報が少ないんですよね。
【死怨の魔女】プエル・プラ・プリン、その能力は触れた生命体の命を『死』に追いやる能力。仕組みや原理は一切謎です。まあ女なんで、と開き直るしかないでしょう。
推定年齢は200歳とちょっと、あくまで噂ですがそれが本当であれば、彼女は昔の時代を生きていたという事になります。あとこれはよく言われる事ですけど、特徴は靡く闇色の双髪に同色の衣服。装う死の鎌が、まさに《死神》を彷彿させる。というシルエットです。
とまあこれが、現在の【死怨の魔女】の情報です。研究者として不甲斐ないですが、真実かどうかはまだ定かではありません…」
申し訳なさそうな素振りで最後にそう補足して、オリバンは情報説明を終える。
マリが頭の両尻尾をサワサワし、キャラが被っていることにⅯを発動させる中、ランドはデータなら『女図鑑』で嘘偽り無い情報が得られるから問題ないと、別の懸念点に思考を切り替える。
もうすでに、ランドが抜けた糸重層の烏は動き出していると見て間違いない。最も最悪な状況は、プエルが発見されメンバー全員が集結。戦闘が開始され、そこに中性の館一同が乱入し混戦になる事だ。場は一気にカオスとなり、おそらく被害は避けられないだろう。
そうなる前に何としてもランド達が先にプエルを見つけ、無力化し回収。もしくは、メタルフロントから逃さなければならない。
「呑気に食事なんかしてる暇はありませんよ!館メンバー9人に、俺達を入れて丁度12人。こっちも4人3チームに分かれて、今すぐ【魔女】を探しに出ましょう!」
こんな悠長にはしていられないと、ランドは食事も途中で席を立ち叫んだ。がそれ以外の者達は、アイリスとネモでさえも気にも止めず、皆優雅なランチタイムを謳歌している。
怪訝に思うランドにステーキの最後の一切れを食べ終え、口元に付いたタレをペロッと舌で拭ったニーナは、小生意気な自信ありげの表情を作る。
「ウェリー・ランドとやら、何も心配することはない。童達が無策のまま、敵地真っ只中に飛び込むわけなかろう。
あとオリバンは見ての通り、インテリ系じゃから戦闘には参加せん」
無い胸をエッヘンと張り、館で1人留守番の研究者が深く頷く。そしてそこで、グズグズしているランド以外は全員料理を完食。
「古来より、『腹が減っては戦はできぬ』という古人のありがたい諺が、時代を巡り巡って今でも語り継げられておる。ホームズ、そろそろか?」
全員が腹を満たし気合十分になったのを見計らって、ニーナによる出動準備の合図。
「はい。準備整っております。でずがランド様の情報によりますと、敵は3チームに分かれての探索とのこと。ワープ地点に偶然鉢合わせる可能性もゼロではありません。
ですから私1人と皆様、2分割してお送りいたします。安全が確認でき次第、皆様を送らせていただきます」
今回の最重要目的はあくまで【魔女】だが、決して糸重層の烏も忘れてはいけない。メタルフロントに入る段階から、もうすでに慎重さが求められるわけだ。
「失礼します」
軽く会釈したホームズの眼前には濃藍色の歪んだ渦、『ワープゲート』が顕現。それに吸い寄せられるように身を投じ、数瞬ホームズの姿は虚空へと消えた。
こなれた浮遊間に揺られ目を開ければ、そこは先程の温かな食堂では無い。まずは周囲の気配を探り、次いで両の瞳で岩に囲まれた鉱山内部を見渡す。
「周囲に生体の反応はなし。見たところ、少し開けた広場のような所ですか。ここなら問題なくワープ出来そうですね」
場の安全、10人全員がワープできるスペースを確認すると、ホームズは先の単独ワープの時とは違いしっかりと腰を据え、掌を地面に添えると充分なエネルギーを放出。何かを召喚する際の魔法陣のように、円形に紋様が刻まれていく。
「大人数のワープは、骨がいるんですよね」
その魔法陣は館で待機している面々の足元にも浮かび、大規模なワープが実行される。…その直前だった。
周囲は安全なはず、これでもかと言うばかりに辺りを警戒し敵はいなかった。はずだった。
が、その濃密すぎるオーラの持ち主はいきなり、突然、ホームズの射程圏内において存在を現した。悍しい程に溢れる力とその貫禄。この距離では一瞬にして殺られると悟ったホームズはしかし、
「しまっ…!」
ワープをキャンセルする事ができず、かと言って今この場に送り込むわけにもいかない。その迷いによりワープ展開術式回路が暴発し………。
「こっっらーーーっ!!!主人こんな扱いするとは何事じゃーーーっ、ホームズゥ!!!ってあれ?」
「………」「………」
「ちょっと、私は痛めつけられるんじゃなくて、痛めつけられる方なんだけど」「ビックリしたーーーっ!」
「大丈夫!ボクから離れないで。何者かの攻撃かもしれない」「…はい。大丈夫です」
「痛ってて、ワープってこんなに雑なんすか?あれ、ホームズさん?みんな?」「もうちょっと勢いあっても良かったかな〜、肌が擦過して抉れるくらい」「どうやら、何らかのトラブルで失敗したようね」
皆一様に激しい波に襲われたように吸い込まれ、蓋を開ければそれは予定と大分異なる、ホームズはおろか他のメンバーもいない。何処かも分からぬ見知らぬ土地。
魔法陣の暴発により中性の館一同は、メタルフロントのあちこちにバラバラになってワープしてしまった。




