ようこそ、中性の館へ
男国家:ダンディグラム。中央エリア。
男党・総合絶政統会の最上階。
丸い円卓に4人分の椅子が並べられた部屋には、現在この国の支柱となる東西南北、4人の男星が顔を見せていた。
「マルコスからの緊急会議なんて珍しいな。けど俺も忙しいんだ、手短に済ませてもらえると助かる」
「ホントだクソが。下らねえ内容だったら、地下で馬と一緒に走らすかんな」
その内の2人、西の男星:〈オウマ・キラ〉と北の男星:〈ギーザ・デモニカ〉がそれぞれに愚痴を漏らす。
「分かってる。このダンディグラム全体にかかわる問題だ」
それらを踏まえた上で、心配いらないとマルコスは言葉を返す。もとよりキラには悪いが、敢えてこの日を選択したのだ。
今日という日の大事な作戦を知らない筈がなく、しかしそっちを後回しにせざる負えない程の、それに見合った内容を提示しなければならない。
「前置きはもういいだろう、とっとと話せ」
そこで唯一沈黙を貫いていた東の男星:〈ホーリー・レイン〉が、待ちきれぬといった様子で先を促す。
「あ、ああ。じゃあ、このダンディグラムも多大な資源を得ている西の大広域森林:【無限緑地】の、近年立て続けに見られる木々の腐敗現象について会議していこうと思います」
レインに尻を叩かれ、4人の男星による会議が始まった。
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鉄鉱山【メタルフロント】までの10キロの道のりを、12人の男達は徒歩で進んでいく。
経路自体はそんなに険しいものでは無いが、いつどこから現れるか分からない女を警戒しているため楽とは言い難い。
先頭を歩くのはピー、そこからピー班・バルガ班・アノルト班と列を成し、ピーの合図によって慎重に進んでいく。
「そういえば、【魔女】が姿を眩ました時もピーさんの出番ってキラさんが言ってましたけど、ピーさんの滅女器って何なんですか?」
その一番後方、アノルト班であり新人のランドがそっとアノルトに問う。
「彼のは滅女器というより、自身の能力と言っても良いでしょう」
アノルトは足を止めることなく、顔も振り向くことなく答える。
「彼は生まれつき、両耳の聴力が極端に弱くてですね。そこで聴力に秀でた女の滅女器兼補聴器を造って、日常生活でもそれを使っているのです」
「へ~。あ、だから」
「そうです。今や身体の一部になりつつある補聴器、もはやワタシ達より耳は良いでしょう。しかし同時に、危険でもあります。女の聴覚は男の比ではありません。もし調整を間違えれば鼓膜はおろか、脳にまで負荷が生じ最悪絶命もあり得ます」
どこか心配そうに、先をいくピーの背中を見つめながらアノルトは言った。
「実は、教え子なんだとさ」
するとヒョコっと顔を覗かせ、会話に参入してきたのはセバスチャン。いきなりの登場とその発言に、ランドは二重で驚愕する。
「そうなんですか!?」
「まあ、君よりも数年前の話ですよ」
ランドとは違い優秀な生徒であり同じガーデンになれたのは素直に嬉しいが、その反面他のメンバーよりも多少気に懸けてしまうのは否めない。
「大丈夫ですよ。ピーさんはしっかりしてますから」
「…そうですね」
そう付け加えたリックに、アノルトは少し自慢気に肯定した。
「皆、静かにっ!」
そんな平和な会話の最中、張り詰めた声が突如11人に投げ掛けられた。先頭を行くピーだ。
「ゆっくりと身を屈めて」
その緊迫した雰囲気と声音は、ピーの耳が近くに敵を感知した事を明示している。
しかし此処は、もうすでにメタルフロント付近の崖道。傾斜の緩い坂道に、左右には落ちてもまあ何とか耐えれるくらいの浅い崖。道と呼べるのは前と後ろの一本道のみ。その何処にも、何らかの姿は見受けられない。
場を動くのは空を切る風だけとなり、聴覚のギアを一段階アップ。ピーは自身の耳に意識を全集中させそして……、
「上だっ!!!」
叫ぶと同時、12人を丁度6:6に分断するかのように真ん中に、そいつは空から降ってきた。
ズゴンと唸る地面。さらにそこから起因して灰色の大地を白で覆うように氷が侵食していき、糸重層の烏に襲い掛かる。
しかし流石はトップクラスのガーデン、誰1人氷に足を取られることなくその場を離脱。臨戦態勢を取るメンバーの12+1人の視線を一身に受けるソイツは、焦げ緑色のローブ姿。
アノルト達が鋭く睥睨する中、1人ランドだけその目つきが異なった。見覚えのあるローブに、あの氷。考えたくわ無いが、そうとしか思えない。
(なんで?)
今日の作戦の事は伝えていないし、悟られてもいないはず。
否、今はアイリスが何故ここに居るのかなどどうでも良く、どうやってこの現状を切り抜けるかを思考すべきだ。
「まだ来るぞっ!!」
しかしさらに、混乱を加速させるかのようなピーの咆哮。まさかネモでは無いだろうなとパニック寸前のランドに、第2陣は上でも下でも無い。1コンマ前まで何も無かった真横からいきなり空間の裂け目のような円が顕現し、そこから女が出現した。
「ほうら、愚かな男共。のし掛かる重さにその醜い顔面と、汚い声を存分に曝け出しなさい」
「なっ!」「しまっ…」
その不意打ちにバルガ班の2人が有無を言わさぬ重圧に押し潰され、班員のピンチにすかさずバルガの【女滅器:靱突黒槍】が唸る。
「こんの、クソアマ!」
だがその渾身の横薙ぎは女に届かず、第3の乱入者によってギャキンッという金属音とともに防がれた。
「ったく、なんで俺までこんな事」
「ハアァッ?」
キシキシと擦れる槍と刀の両サイド、はち切れんばかりの剣幕のソフトクリーム男と死んだ魚の目をした気怠げそうな男が相対する。
「テメエ、何やってんだ?」
そう、男が女を守ったのだ。_男が。到底、あり得る光景では無い。
「ん?…ああ。まあ別に、そういう事もあるだろ」
しかし男は、その目を疑う光景に対しさも当たり前のように、同じくやる気の無い声で答える。
「そんな事、あるわけねえだろ!」
バルガは、均衡状態の槍を器用に回転させさらなる槍撃。しかしもう片側の2本目の刀が、またもや邪魔をする。
男の奇行はアノルト班・ピー班にも伝播し、加勢に行くのがほんの僅かに遅れる。その刹那、
「ハア、ハア、待ったあぁ?」
セバスチャンとリックのちょうど中間、再度黒くうねった禍々しい円。
「マジかよ」「チッ!」
しかし流石の反応速度でリックは大剣を、セバスチャンは強化剤を注入し同時攻撃。女はリックの大剣を躱すが、セバスチャンのキックを脇腹に喰らう。
「?」
しかし攻撃をお見舞いしたはずのセバスチャンの表情は浮かなく、逆にお見舞いされた女の顔は至高に満ちていていく。
「肉体的はあまり専門じゃないけど、これはコレで…。でも切られるのはナシね」
頬をほのかに火照らせ、独り言のように呟く女。あと、たしかに距離を取るため吹き飛ばす勢いで放った蹴りだが、女はそれほどかと言うほどに吹き飛んでいた。
セバスチャンの渋面の原因はそこにあり、あんなに吹き飛んだにも関わらず全く手応えが感じられなかったからだ。まるで綿でも殴ったかのように。
「アイツ、何かおかしいぞ」
「女は例外なく全員おかしいだろ。常識で考えんな」
セバスチャンのモヤモヤを、リックが一瞬にしてツッコんで一蹴。
瞬く間に糸重層の烏は奇襲を受け、場は混戦状態。そんな中ランドは、ピー班の相手をしているローブの所へ行こうとしたその時、
「はじめまして、ウェリー・ランド様。私はホームズ・ロイヤリー、あなたを迎えに来ました」
唐突な背後からの発声。おそらく先の女達同様、空間の裂け目で現れた男。ランドはこの1ヶ月で培った軽いステップからの回し蹴りを放つが、男はその足首を余裕でキャッチ。
「捕まえました」
キリッとした顔立ちに薄く笑みを溢し、そのままランドごと空間の避け目に入って行こうとする。それにいち早く気づいたのは、最も近くにいたアノルトだ。
「ランド君!」
その手から2枚の手裏剣が、男目掛けて一直線に投擲される。が、
「皆様、目的は無事達しました。撤収します」
パチンと指鳴らしに起因し複数の裂け目。襲ってきた者達、ランド、手裏剣をすべて飲み込み、彼らは次の瞬間全員姿を消した。
数秒経ったのち手裏剣のみが、置き土産のように地面に突き刺さって…。
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黒く塗りつぶされた視界から一変、その景色はさきほどの崖道ではなくどこかの建物の中。ランドは眉を顰めた。するとその前方、ランドを誘拐した中性的な顔立ちのハンサム男。
「手荒い歓迎を心からお詫びします、ランド様。さきほども申させて頂きましたが改めて、私はここの執事をさせていただいております。〈ホームズ・ロイヤリー〉でございます」
一つのシワも無いような執事服と、強調される黒の蝶ネクタイ。右手を前、左手を後ろに回し綺麗なお辞儀を見せた。
訳が分からず何も言えないランドに、ホームズは見る者を安心感に没入させるような『魔性の笑み』で言葉を続ける。
「ランド様の事は、アイリス様とネモ様から伺っております」
そして大仰に、両腕を翼のように目一杯広げ、
「ようこそ、男女が共に暮らす【中性の館】へ」
そう高らかに告げた。




