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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
27/48

試験(テスト)

「ランドくん、こっちです」


 会議が終わってすぐ、(わだかま)りが消えぬままランドはアノルトに呼ばれた

 一室に入るとそこにはもうすでに見知らぬ2人が待機しており、アノルト・ランドを入れて4人。『アノルト班』が揃った。


「では、紹介します。こっちのオカッパメガネが、《カリロ・セバスチャン》。そちらのロン毛コートが、《フー・リック》です」


 今回の()()であるアノルトからご紹介にあずかっても、2人はランドに顔も合わせようとせずお世辞にも友好的とは言えない。

 ランドから向かって右手、言われた通りオカッパメガネのセバスチャン。そのインテリ風の容姿は頭だけで、首から下は少々予想と違った。

 中々に筋肉質な体躯は、キレイに絞り上げられた逆三角形。筋肉自慢が好むタンクトップと短パンを着込み、建物内ではあるが一応外という扱いで、カーペットも敷かれていない冬場のタイルの床に裸足。ランドはソイツの()()()を瞬時に察した。


 そして左手、こちらも特徴をばっちし捉えたロン毛コートの《フー・リック》。身長は違うが、全体的の割合で見たらネモほどある長い黒髪を一本に括り、鋭い目つきと『へ』の字にひん曲がったような口。

 クール感と少しの太々(ふてぶて)しさを感じさせ、暖かそうな厚手のコートを羽織っている。


「ふっ、これはかなり付いていないな」


 それは、ランドが日常茶飯事に浴びせられる侮蔑の言葉。リックは鋭い目をいっそう深くしさらに眉間まで歪ませて、吐き捨てるように言った。


「お前変な奴だな!」


 今度はセバスチャン。リックの独り言のような呟きとは違い、明確な好奇心でランドの目を見て語り掛けてくる。


「お前も人のこと言えないだろ。ていうか、なんでお前もここにいるんだ?アノルト班は俺とアノルトさんだけで十分だ。ソイツと一緒にお前も消え失せろ()()


 すると標準を、ランドから隣のセバスチャンに移すリック。


「アァッ?今何つったテメエ!」


 その『脳筋』というワードが琴線に触れたのか、青筋を浮かべ激昂するセバスチャン。


「その弱い脳みそじゃ分からなかったか?脳まで筋肉で、何も考えられないバカだと言ったんだ」


「ンだとテメエ。チョーシこいてんなよ、ブッ殺すぞ!!」


 そのまま至近距離で火花を散らす両者。《犬猿の仲》というやつだろうか。

 それにしても、称号に恥じない何とも知能指数の低そうな怒り方をするセバスチャン。

 ___パンパン。


「ハイ、終わりです。ワタシも正直、またこの問題児と関わるなんて胃が痛いですが、キラさんが決めた事では仕方ありません」


 そこへ手を鳴らして争いを仲介?、もはや本人の前など関係なくアノルトも愚痴を溢した。

 3年間ランドの担任で、やっと解放されたと思いきやこの現状である。項垂れるのも無理は無かった。


「だったら今からでも抗議しに行きましょう。キラさんがいない状態でこんな得体の知れない奴と一緒なんて、命が幾つあっても足りません」


「そういえばお前アレだろ、アノルトの生徒だったんだろ?しかもかなりの不良生徒!ダンディグラムでかなり有名なんだってなあ」


 リックが必死に訴える中、セバスチャンの好奇心は止まらずランドへのダル絡みが始まろうとする。

 それがさらにリックの神経を逆撫でし、


「だからっ!貴様は黙っていろ!!!」


「何でだよっ、俺にだって喋らせろ」


 開始される第2ラウンド。

 さきほどのループに、アノルトは眉間を親指と人差し指で挟んで渋面を作る。そこへガタッと、好き勝手に言いたい放題言われ、うんざりしていたもう1人が勢い良く立ち上がった。


「これじゃあ話が進みません。リックさんでしたっけ、確かに俺みたいな奴と組むのは嫌かもしれないですけど、もうお荷物になる気はありません。

 どうしたら認めてくれるんですか?」


 業を煮やしたランドは、手っ取り早くリックに申し立てる。紛いなりにも約1ヶ月間、男星(だんせい)の元で特訓してきたのだ。ガーデン全体の力になるのはまだ難しいかもしれないが、足手まといになるつもりも無い。


「あと一つ勘違いしてるかもしれませんが、別に俺は(アマ)の味方だから、あなた達の邪魔をするわけじゃありません。

 男女の共存を願っているからこそ、それで男が死んだら意味が無くなります。だから、邪魔になるような事は一切しません」


 キッパリと言い切ったランドを、リックはただジッと見つめる。その鋭さは黙ってると余計に怖い。そして少し経ったのち、


「それが間接的に邪魔になるんだよ。………まあいい。なら一つ、試験(テスト)をしよう」


 何やら小言で呟いた後、そんな提案をしてきた。

 まず班長であるアノルトに目配せで許可を得て、次いでセバスチャンの肩に手を置く。


「ルールは簡単だ。単純な1対1のバトルならお前に勝ち目は無いだろうから、5分間。5分間コイツの攻撃を耐えきり、意識を保ててたら俺はお前を班員として認める」


 目一杯広げられた手の平を突き出され、ランドはなんとも言えぬ心情で頷いた。

 この試験(テスト)で、自分の力量が試される。攻撃手段を持たぬランドでも、制限時間付きの耐久なら守護の輪(プロテクト・リング)があれば可能性は充分にある。

 正面に座る対戦相手の脳筋は、根っからの戦闘好き。勿論、やる気満々だった。



 試験(テスト)を行うことになった一同は、その会場となるトレーニングルームへ移動する。

 その道中も、セバスチャンのランドへのダル絡みは続く。一体なんの嫌がられか、顔が埋もれるほどの逞しい腕で肩を組まれ、良く言えば『フレンドリー』、悪く言えば『馴れ馴れしい』。

 それからエレベーターでビルの上方へ向かって暫く、ドアが開き(いざな)われたトレーニングルームは、野球グラウンド丸々1個分ほどあるタイル張りの部屋。

 ご丁寧にガラス張りの仕切りで区切られたベンチのような空間もあり、小型の部屋の方はいくつかの椅子、長机にポツンと一つのスタンドマイク。まるで昔のドラマなどで見た取調室の脇に設置された、監視室を彷彿させる。


「んじゃ、早速始めるか」


 バカでかい室内に入るやいなやゼバスチャン・ランドは中央へ、アノルトとリックは袖の監視室へ消えていく。

 ゼバスチャンの所為(せい)で大分緊張感は薄れているが、これは色んな意味で大事な戦いだ。

 ザザザッと、白壁の上部のスピーカーからノイズ音が響く。発生元は監視室のスタンドマイクからだ。


「では、制限時間5分。ランド君はセバスチャンの攻撃を耐え抜いたら勝利、セバスチャンはランド君を戦闘不能にしたら勝利です。両者、位置についてください」


 アノルトからの合図が言い渡され、位置というものがどこか知らないが、とりあえずセバスチャンから離れようとしたランドに、


「精々楽しませろよっ!」


「うおっ!!!」


 その首根っこを掴まれ反対方向へ思いきり投げ飛ばされる。


「グエッ」


 放物線状に宙を舞ったランドは受け身は取ったものの、凄まじい衝撃に「いってえ」と嘆きながら背中を擦る。戦う前から、かなりの大ダメージだ。

 ウォーミングアップをするセバスチャンを尻目に、ランドは深呼吸を一つ。最後に、右手人差し指の守護の輪(プロテクト・リング)を見つめる。準備は、万全だ。

 広い空間一帯が静寂に包まれ、


「はじめっ!」


 アノルトのハウリングするかの如く轟いた声で戦闘が開始。

 それと同時、セバスチャンがタンクトップの内側(自分の体)を(まさぐ)り出した。警戒するランドに、取り出したのは赤色の液体が入った零細れいさいのビン。

 

「初っ端から全速でイクぜ!」


 キュポッと蓋を開けて一飲み。瞬間、ただでさえ逞しかった脚が、腕が、胴体がズンっとさらに一回りほど肥大化した。

 ランドの瞠目も束の間、セバスチャンはタイルが軋むほどの踏み込みでランドへと突撃。

 しかしランドも、驚いたのは一瞬。()()。確かに早いが、それは見た目通り接近戦を得意としたキンジュタイプの攻撃。


(それなら)


 予め張っていた山が当たり、ランドはそのスピードにもすぐに対応。防御距離ギリギリにバリアを何重にも展開し、突進に備える。

 しかしいくら脳筋のセバスチャンといえど、糸重層の烏(しじゅうそうのからす)の一員。その戦闘センスは確かなもので、さすがに十重二重(とえはたえ)の壁に突っ込んでいくほど馬鹿でも無い。

 すぐさま進路を変え別方角から攻めようとするが、そんな馬鹿の行動もキンジュとのここ何回の戦闘でしっかりと折り込み済み。

 ゼバスチャンが進路を変えるのと同時、幾重にも連なっていた防御壁がランドを中心に全方面へと一斉に移動。死角は完全に無くなった。


「なっ!」


「「ほう…」」


 監視室で観戦している2人が関心する中、さすがにこれは予想外だったらしくセバスチャンの動きが鈍る。

 その好機を見逃さず、目まぐるしいほどに今度は散開していた防御壁達を再度集結。そのままセバスチャンを取り囲んだ。


「よしっ!」


 あとはこのまま、5分が経過するのを待つだけ。案外呆気ない終わりに、ランドは少し拍子抜けする。が………、


「へえ~、さながら【盾の箱】ってところか。面白い使い方すんなあ。結構丈夫そうだし、こりゃあ()()じゃ無理そうだな」

 

 閉じ込められた当の本人は、焦ることもなく飄々(ひょうひょう)としていた。

 馬鹿だから状況を理解していない?_いや違う。あれは明らかに、まだ余裕がある者の態度だ。

ランドはすぐ、この王手の状況から詰みにする決め手を考えるが遅い。


「んじゃ、2本目」


 またもやタンクトップに手を突っ込み、取り出した2本目のビンを飲むセバスチャン。すると1本目よりさらに、脈動し始める身体。

 そのパンチは一撃で、2、3枚重なったバリアを簡単に破壊する。


「やっぱり、こんなんじゃ終わらないですよね」


 箱の中から出てきたセバスチャンにニヤけ面で言うランドだが、ほとんど強がりの時間稼ぎでしかない。

 このまま真っ向から闘えば文字通り、ランドは防戦一方。しかもその防御も効力を出さないとなれば、1分と経たずして戦闘不能にさせられる自信がある。

 ランドは必死に頭を巡らせる。しかしそんな駆け引きなど知ったことでは無いと、脳筋達磨(だるま)の二度目の肉薄。

 そのスピードは、体感先の倍。もはや考えてる余裕は無い。


「シッ!」


 襲い来る、セバスチャンの強烈な横蹴り。何とかシールドを張るが途端に壊され、殺しきれなかった勢いがランドの二の腕部分に直撃。遠方に横っ飛びしていく。


(クソッ)


 苦しみながらも受け身を取り、すぐさま体勢を立て直す。

 しかしこんな事を、ずっとやってはいられない。

 厳しい修行により精製された防御壁は、そこそこの防御力まで成長しているが、ランドの身体は保ててあと3、4回。 

 残りあと3分ちょっと、死ぬ気で打開策を練らなければならない。

 その間もセバスチャンは奇怪なステップと共に接近し、いつか見た熊にも劣らない大木のような腕でパンチの応酬。

 予想通りランドの手を出せる隙は皆無で、ガードは破られ、叩きのめされ、とうとう野球場ほどあるトレーニングルームの、壁際まで追い込まれてしまったランド。


「もう、終わりみたいだな」


 頼みの防御も通じず、袋の(ねずみ)だ。

 監視室の2人さえも時計を確認し、まだ2分弱残っているところでの終了を悟る。

 ここで負けアノルト班で参加できなくなったら、ランドはどうなるのだろう。他の班に移動か、おそらくここと同じように心から受け入れてはくれないだろう。

 なら今回は参加せずに待機か、はたまた男党の最上階に逆戻りだってあり得るかもしれない。


「ト・ド・メ・を・刺すぜーーーーッッッ!!!」


 そして最後に、潑剌(はつらつ)なセバスチャンの音声(おんじょう)が広いトレーニングルームいっぱいに響いた。

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