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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
26/48

《魔女攻略作戦》

 現在、ランドは西エリア糸重層の烏(しじゅうそうのからす)基地の会議室にいた。

 室内にはランドを含めて14人、ガーデンのほぼ全員が席に座っている。アノルト・キラ以外は初対面だ。

 そんな中、黒の髪をヘアバンドでオールバックにし、白衣ならぬ黒衣を纏ったランドと同じ年頃の少年が近づいてくる。


「やあ、僕はパッチ、一応ここのリーダーやってる者だ。君がウェリー・ランド君だね。噂は常々聞いてるよ。なんでも、面白い思考の持ち主のようで」


 キラと同様、この《糸重層の烏》のリーダー。しかしリーダーと言ってもその役割は、キラが先頭で皆を引っ張っていくのに対し、このパッチは最後方から背中を押すといったところだ。

 イメージとはだいぶ違っており、目の下には分厚いクマ。顔色は真っ青で、ただならぬ不健康さを感じる。


「初めまして、ウェリー・ランドです」


 そんな揶揄(からか)うような笑みを気にも留めず、軽い挨拶で返すランド。

 自分にとってそれは面白い思考でも何でもないし、わざわざその話をここで広げる必要は無い。

 おそらく今ここにる全員がランドの思想に理解していないし、そもそも本人がいるのでさえ不満があるかもしれない。

 キラ(リーダー)の決めたことだから文句の一つも今のところ出ないが、いつ火が付いてもおかしくなかった。


「おーい、パッつぁん。会議始めんぞ」


 そこで助け船のようにキラの催促が掛かり、話は中断される。ようやく、今日皆が集まった目的が始まるらしい。


「ごめん、ごめん。新メンバーなんて久しぶりで、テンション上がっちゃった」


 終始浮ついた調子でパッチはキラの横、ホワイトボードの前に立った。


「じゃ、予定通り作戦会議(ミーティング)を始めるよん」


 透き通る声に打たれ、周囲は一瞬にして静寂。会議が開始された。


「明日はいよいよ待ちに待った大一番、鉄鉱山に住み着いた【魔女】との戦いだ」


 それはもちろん、明日の(アマ)討伐についての会議。

 しかしランドは、今パッチが口にした【魔女】という単語は初耳だった。それを踏まえてか、パッチは続けて注釈をする。

 

「俺たちが明日殺り合うのは、間違いなく最強の敵。【四姫災(しきさい)】【三元女威界(さんげんめいかい)】【魔女】のビッグ3の一角だ。覚悟して掛かれ、とだけは言っておく。

 目標(ターゲット)は闇夜の双髪を靡かせ、冥界へと誘う死神を彷彿させる死の鎌(ダークサイズ)を携える、

 《死怨の魔女:プエル・プラ・プリン》

 西門を出てさらに西南西に10キロ、鉄鉱山・《メタルフロント》に約2カ月程前から居ることが観測されている。大変危険なことから、メタルフロントでの資源調達は激減。街に甚大な影響が出ている為、今回討伐依頼が出された。

 当日は出動できる12名をアノルト班・バルガ班・ピー班の3班に分けて行動。鉱山内は広いが、まあ進んでいけば奴の濃密なオーラならすぐに分かると思う。標的を見つけたら単班での攻めは絶対に避け、必ず12人全員を待ってから、一斉に攻撃すること。いいね」


 大まかに説明された作戦概要に、今度は知っている単語で驚くランド。さんてん何たらは聞いたこと無いが、【四災女】ならそれはもう存じ上げている。

 それと同じ括りにされているという事は、世界に大最厄を(もたら)すアイリス並の(アマ)と、たった12人で闘うわけだ。


(…ん?)


 とそこで、ランドは感じた違和感に首を傾げる。

 今この会議室には、《糸重層の烏》総勢16名中14人がいるのだ。12人の3班制は余りが出る。


「ちょっと待ってください。パッチさんはいつも通り裏方なのは分かりますが、1人抜けてないですか?」


 そこへ同じ疑問に気づいた1人が、ランドを一瞥しながらそう提言した。どうやら忘れられた1人は、新入りのランドだと思っているらしい。

 しかし、パッチはその予想を裏切り、次いでとんでもない事を口にする。


「……悪いんだけど、明日の作戦にオウマは参加できなくなった」


「「「はあああーーっっ!!!?」」」


 躊躇いがちに、パッチから発せられた告白は唐突なもので、周囲がどよめく。

 それはそうだ。強敵である【魔女】との戦闘において、男星がいないなどどう考えてもあり得ない。皆それを期待していたし、キラ自身もそのつもりだった。しかし、


「悪りぃな、急遽男星の会議が入っちまって。男党直々だから行かねえわけにもいかねえし、かなりの被害が出てるから日時をずらすのも難しい。

 唯一の対策は、俺もなるべく早く終わらすようにすから、そっちも遭遇する時間を少しでも引き伸ばして、もし見つけても様子を窺いつつやってもらうしかねえな」


 申し訳なさそうに深刻な表情のキラに、パッチが加える。


「最悪、君達だけでの戦闘になる。12対1。オウマがいれば勝算は十分だったが、【魔女】の能力も不明だし他の(アマ)にも加勢されるかもしれない。勝機は五分五分ってところか。…最悪、誰かが犠牲になるかもしれない」


「それはダメだっ!!」


 すると、いつものおちゃらけた声音とは一変、キラの怒号が響いた。急な変異にランドが驚愕し、皆がビクッと縮こまる。

 1人パッチだけが「冗談だよ」と宥め、


「後は、コレがどれだけ使えるかだね」


 話を変えるようにして円卓の上に薄型長方形のタブレット端末、()()()を置いた。


(っ!)


 ランドは内心で驚く。しかし、女滅器(めめっき)は、高額だが普通に市場で売られているし、今や義務教育となった男狩人(メンター)育成学校を卒業すれば誰でも一つは授けられる。

 もともと情報収集・奪取系統の能力を持つ(アマ)が数少なく、女図鑑は貴重な滅女器だが持っていても何らおかしくは無い。


 重たい空気の中出された女図鑑(ソレ)を見ても、一同の表情は明るくならなかった。()()と比べてしまったらどんな人や物も、気休めにしかならないのは仕方ない。

 そもそも女図鑑は、敵の情報を一瞬で手に入れることはできるが、攻撃性ゼロで複数所持していても意味がない。1v1では攻撃武器と組み合わせなければならない。それらの点から、レア度:《上》という評価に至っているのだ。

 要するに、一発逆転の切り札には少々心許ない。しかもランドが持っているのでいよいよ役に立たないというのは、ランドは黙っておく事にした。


「以上が、この作戦の概要だ。何か質問のある人は?」


 厳しい現実は変わりないが、しかしそれでやるしかないと苦渋の決断で、パッチは明日の作戦の説明を終えた。

 すると、その最後の問いに対し続々と手が挙がる。


「明日の出発・帰還時刻を知りたい」


「出発は当初朝7時を予定していたが、ワンチャンオウマを待つなら行き時間も考慮して延ばせても9時か10時。帰りはそうだなあ…対象を消滅するまでは帰れないと思った方が良いね」


「もし相手がその溢れ出るオーラを隠して、一生逃げ隠れされて遊ばれたらどうするんですか?」


(アマ)が男に対してそんな事をする可能性は低いけど、なくは無い。逆に接近してるのに気づかないで一気に壊滅、というのもあり得る。そのためにピーがいる。

 少し負担を掛けるが、ピーの女滅器なら【魔女】を探し出すことも可能だ。その時は慎重に、焦らず連携をとって追い詰めてくれ」


「キラさんは、どうしても外せないんすか?」


「この国の中枢を担う男星達の会議だ。なるべく早く終わらせてもらえるよう善処するけど、欠席というのは難しいと思う」


 パッチは隣にいるキラに目配せし、本人が目を瞑り頭を振ったのを見てそう答えた。その後も幾つかの質問が投げ掛けられ、パッチはそれに間を空けず回答していく。

 そんな中、ミーティング開始からずっと、会議内容そっちのけで疑問を滲ませた男が1人。この質問タイムの波に乗るか否か、死ぬほど悩んでいた。

 ただでさえ厄介者扱いのアウェイで、目を付けられるような事はなるべくしたくない。だがこんな機会はもう二度とあるまい。最後のチャンスに賭け、


「その【魔女】は、絶対に殺さなくちゃいけないんですか?」


 そんな爆弾を放った。


 ……………、


 刹那、凍り付く室内。


「と、言うと?」


 そこへただ一つ、背筋まで凍り付かせる程の言霊を帯びたような冷徹な声。


「つ、つまり、その鉄鉱山にいるのが迷惑になってるなら、殺すんじゃなくて追い出すだけじゃダメなのかな…って」


 その空気に気圧されつつも、ランドはもう後に引く事ができない。たどたどしく挙動不審になりながらも、必死に言葉を紡いだ。

 しかし…、


「おい、コイツ大丈夫かよぉ」


 返ってきたのは怒りを通り越した、悲しきまでの憐憫(れんびん)だった。


「マジで頭のネジが飛んじまってんだなぁ。頼むから変な気起こして、俺達の足引っ張んなよ。『お荷物』の所為(せい)で全滅なんて洒落にならねえからな」


 そして、底知れぬ悪意の籠もった罵詈雑言(ばりぞうごん)。溜まっていた不満が爆発するかのように、ここぞとばかりに放たれる。


「こんな奴連れてってホントに大丈夫なんすか?」


 男の懸念はもっともであり、当然のことだ。ほんの昨日今日入った、イカれた野郎のイカれた行動でガーデンが危機に晒されては堪ったものでは無い。

 口には出さないが皆それを危惧しており、視線は連れてきた張本人、オウマ・キラの方へと自然に集まる。

 すると___、


「アッハッハッハッハッハーーッッ!!!」


 全員の視線を一身に受け彼の男星は、揶揄するでも侮蔑するでも難詰(なんきつ)するでも無く、ただた場を覆うほどの爆笑で返した。

 パッチが、この場にいる全員が、ランドでさえもが一寸前の論争を忘れ呆気に取られる。


「その質問をこの場で言うか?やっぱお前面白えな!」


 目は見えないが、口角をぐにゃりと曲げ愉快そうに言うキラ。


「いや、面白いって…」


 あまりにも気の抜ける笑い声に、ランドに突っ掛かった男もさすがに勢いが衰える。


「大丈夫だよ。忠告はしたからな。此処(糸重層の烏)に来たって事は、覚悟は決まってるんだろ」


 そう、結局のところランドは首根っこを掴まれてる状態で、何かおかしな行動をすればすぐお陀仏となってしまう。

 アイリス達のためにもそれはできないので、良い案が無い今ランドが()()()()()()事は不可能なのだ。

 そんなランドの鬱憤に追い打ちを掛けるように、軽く溜息をついたパッチが呆れ顔で告げる。


「君は言ったね『殺さなきゃいけないのか?』って。ああ、殺さなきゃいけない。それが俺たちの使命だ。

 君の考えは確かに特殊で新鮮で、根本から全否定しているわけでは僕もオウマも無い。だけどそれを他人に強要する権利も実力も、今の君には無いんだ。男という非力な枠組みでは、結局多勢に無勢なんだよ。君が男国家(だんこっか)の鎖に縛られている限りは、黙ってこちらに従ってもらうよ」


「ッ!」


 そんなぐうの音も出ない言葉の羅列で、ランドの異議はいとも容易く沈められてしまった。

 普段のランドなら何かしら反駁(はんばく)するが、この男は有無を言わさぬ迫力と声音に何も言い返せない。

 パッチの言う通り、(アマ)を駆逐する事を掲げるこの男国家(ダンディグラム)に生活している以上、その方針に従うしかなかった。

 ランドは俯いたまま奥歯を軋ませ、反論は無い。

 そしてそれ以上手が挙がることもなく会議は終了。

 ギリギリまでキラを待つというプランで、明日AM10時《魔女討伐作戦》が決行される事が大々的に発表された。

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