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女照(アマてらす)  作者: 沖田鰹
死怨の魔女
19/48

男の二大欲求

 【男党(だんとう)総合絶政(そうごうぜっせい)統会(とうかい)】とは、

 ダンディグラム全体の警備に、街の治安やその秩序。学問・経済等から男狩人(メンター)からの情報で(アマ)への対策まで全てを知見し、会議し、決断し、統制する。

 この男国家を、根元から葉先まで管掌(かんしょう)する支柱となる組織。

 国単位の問題を全て取り扱い、男党のトップ・結論の男(エグザマン)達が下した決断には、誰も覆すことはできない。

 エグザマンは普段顔を見せず、何処の誰なのかその全てが謎で知己(ちき)する者はいなく、ただ最終的な決断を下しす者。

 それだけが、一般的に知られている。


   **************************************


 お尻の形に深く沈んだシートから重くなった腰を離し、ランドは警備車の後部座席から中央エリアの敷地へと踏み入る。

 眼前には、この国の総本山。外壁ほどでは無いが10メートルを越えている高さは、十分に威圧感を誇っている。

 意を決して入った塔内は、清潔感漂う白の壁にライトグリーンの絨毯。其処彼処(そこかしこ)からはパソコンやプリンターなどの機械音、忙しそうな人々の軽躁(けいそう)が飛び交っている。

 ランドは幼い頃の記憶を辿って、この施設がどんなだったかを思い出す。


 たしか地下3階から、地上は15階建ての巨塔。

 1階から役所等の様々な課の仕事風景を見学し、2階は警察署、消防署の合併。塔内はあくまで事務を行う場所で、本部はそれぞれ同じ中央エリア内の別所に構えられている。そこからさらに、東西南北に支部があるといった感じだ。

 そして3階が、回復ヒール系能力最高クラスの(アマ)の捕獲により実現した、最高水準の医療機関を有する病院(形態は警察・消防と同じ)。どんな難病や致命傷でも、()()()()()に連れて来れば全て治る。というのが、ここ数年で通例となった。

 

 とまだまだ他階にも、この国を指揮するのに大事な設備や団体が在籍しているが、ランドが見学したのはそこまでだった。

 その最上階には、結論の男(エグザマン)の最終決断を受ける絶対の聖域、《決断の間》が佇む。

 そしてここからは、単なる噂話でしかないのだが…、

 男党・総合絶政統会の最下階・地下3階。

 湿った悪気が漂う暗鬱な空間に、冷たく光る鉄格子。『監獄』というのが最も適切だろう。

 その幾多もの牢屋には、逆らえぬほど痛め付けた生殺し状態の(アマ)が何人も収監されているという…。

 そんな詳細な情報が、何処からどういう風に流れたのかは定かでは無いが、

 その目的は、(アマ)の能力を利用した交通や建造、水や電気などのインフラ設備を効率的且つコストダウンで働かされる労働要員。

 他にも、ただただ男達の日頃の怨み・ストレスを発散させるだけのサンドバッグ・奴隷要員など。

 しかしそれらはあくまで噂であり、学生間や街中でチラホラ流れているにすぎない。真実を知るのは此処を縄張りとする、国の上層部だけだった。


 否ランドは、絶対と言っていいほどその()が本当である事を確信していた。

 それが約2年前の、中央エリアから(アマ)が脱走したあの事件。あれから噂に信憑性が増し、”この国に(アマ)がいる”というのが当時話題となった。

 その件について、男党・総合絶政統会からは肯定も否定も一切の説明なし。しかし国民側も、わざわざ真実を詰問する事は無かった。

 何故なら例え国内に(アマ)がいたとしても、中央エリアが管理しているのなら安全性は高い。さらに噂が正しければ、その役割はひとえにダムや発電所などと同じ扱いであり、ストレス発散の効果も担っている。国民が不満を抱くものでは無かったからだ。

 強いて望みを言うならば、男党が管理する(サンドバック)を一般開放し国民も使い放題。という事くらい。


「乗れ」


 巨塔を進み廊下の突き当たり、警備隊の1人に促されランドは渋々その長方形型の箱の中へと入る。次いで2人が入り、エレベーターの密度は大分濃くなった。

 1~15、B1、B2、B3と記されたボタンから男が15を押し、エレベーターはゆっくりと上昇していく。


 ………しかし、

 (アマ)の使役、サンドバックや奴隷での利用。それらを踏まえて、男党が国民に(アマ)の存在を隠す意味はほとんど無い。

 それでも男党・総合絶政統会には、どうしてもその事実を噂で留めなければならない理由があった。

 もちろん自分達が棲息(せいそく)する安全な場所に(アマ)が居るという、不安や不満からの暴動を防ぐためというのもあるが、そんなのは都合良く国民が鼻を高くして付けた体のいい解釈。

 《本当の理由》は他にあった………。

 それは男女共存を願う、クレイドの昔話を聞いていたランドと、この事実を隠す上層部しか知らない真実。


 このダンディグラムに生まれ育った男は、基本的な一般教養と(アマ)の知識・戦闘技術を主に教えられ育つ。

 しかしその中で唯一触れられない分野がある。それは…、


 『性』に関する教養である。


 この性という分野にも枝分かれして幾つかのジャンルがあるが、一貫して言えることは(一部を除いて)十中八九女が関係するという事である。

 そしてその最大の着眼点が、人間…いや、生物による蕃殖方法。

 そこにフォーカスを当てた時、男は自分達が死ぬほど嫌う(アマ)のお腹から誕生する事を知る。正直、どうなるかは想像もつかない。

 開き直る者もいれば、認めない者、混乱する者、絶望する者。自暴自棄になり暴れ出す者もいるかもしれない。それだけならまだ良いが、

 それにより(アマ)への憎悪が弱まり、(あまつさ)え愛や恋などが芽生えれば、それは(アマ)の味方になり男の敵になるという事。ダンディグラムにとってマイナスでしか無い。

 そうなることを恐れた国の教育委員会なる管理者が、『性』という概念をまるごと除外したのだ。

 よって、今のダンディグラムの人口約9割の男は、人間に携えられた欲求は食欲・睡眠欲のみと思い込み、()()()()()()()()()()()()()()事を知らない。


 上層部が国民に(アマ)を隠す一番の理由は、

 繁殖する手段を持たない男だけの国・ダンディグラムに、新たな男児を誕生させる(女児が生まれた場合は殺す)繁殖要員の存在を知られない為だ。

 現代の男は、女の蕃殖をまるでRPGのモンスターのように無限に湧くものと認知し、自分達は神秘的な現象にて誕生するとまたしても都合の良い解釈に侵されていた。



 エレベーターは最上階:15階を目指しながら、着々と運命の時を刻んでいた。3人とも言葉を発することは無く、場は沈黙が支配する。

 ランドはここに来るまでの途中、警備車内での会話を思い返す。


 _____


「一体何なんですか?」


 有無を言わさず連れて行かれ、若干苛立ち気味のランドは強めに尋ねる。


「お前、2日前に女照(アマテラス)調査に行ってから、今日まで何をしていた?」


 答えたのは、運転していない方の男。助手席に座り前を向いたまま、野太い声で逆に問い返した。


「は?」


「パーティーは4人。2日前に調査に行ってから今日まで、1人もギルドへの調査報告がされなかった」


「………」


 少し回りくどい言い方に、ランドは男の意図を汲み取れず押し黙る。仕方なく男は付け加えて、


「門番の記憶はあやふや。昨日捜索隊が洞窟に行けば、3人の死体のみが発見された。あの広大で未知な洞窟、見逃した可能性はあるが一度戻り一応お前の家を訪ねれば、まさか居るとはな!」


 ここまでもう言えば分かるだろと、語尾を荒げる警備隊の男。


「あっ………」


 と、一拍遅れてランドは気づく。この2日間、アイリスとネモの世話で忙しく、ギルドに帰還・調査報告をするのをすっかり忘れていた事に。

 しかし忘れただけならギルドからの厳重注意程度で、ここまで手厚い歓迎を受けることは無い。この男が言いたいのはその先、仲間3人の死亡を報告せず1人雲隠れしたその真意。


「ちがっ………」


 「違う!」と言おうとして、ランドは言葉を押し戻した。

 これはつまり、殺人の容疑で逮捕。これから事情聴取をされるということ。コイツらは単なる下っ端でしか無く、ここで必死に弁明し信じようと信じまいと、最終判決を下すのはコイツらでは無い。

 ならば、このままコイツらのトップに会い、事実自分は何もしていないのだからそれを伝えれば良い。

 そう思い、ランドはこれ以上無駄な言葉を並べるのは辞めた。


 _____


 自分の失態により、このような疑いが掛けられた。覚悟はできている。

 エレベーターのドアの先のまだ見ぬ景色を見据え、ランドは悠然と構える。

 やがてチーンと、到着の合図。ドアが開きすぐ足元には、まさにVIPといったレッドカーペットが敷かれている。

 丁度ひと3人が横になって歩けるくらいの幅の廊下に、壁は落ち着いた茶。最奥まで行っていかにもな扉の両サイドには、竜と虎の銅像が仲良く建てられている。

 そこまで行って十二分にヤバさが理解できるが、まだこれはほんの序章。

 この先に広がる間は、この雰囲気の比にならないくらい重く、大きく、苦しいだろう。

 洞窟の監禁部屋とはまた違う冷たさを感じながら、扉の前に並列に並んで3人。

 やがてトントンっと、警備隊の畏まったノック。


「…入れ」


 するとただ一言静謐(せいひつ)に、しかし計り知れないほどの威圧が籠った声音で中の人物が応じた。

 結論の男(エグザマン)か、はたまた他の何者か。

 豪奢(ごうしゃ)な扉が重たく両サイドにギィーっと開かれ、その派手な意匠(いしょう)が視界いっぱいに広がる。

 まるで王族の一室のように、凝ったデザインと派手な装飾。一際デカいシャンデリアによりいきなり光量が増し、手錠によって手の自由が効かないランドは目を(しば)たかせた。

 数秒経って目が慣れた(のち)、中央に佇むその人物を捉える。

 

 屈強な鎧は金箔に縁取られ、光沢が極めに極まっている。背丈はあまり高い方では無くむしろ小さい部類に入るが、その体躯から放たれる以上なまでの荘厳(そうごん)は、この場にいる者全てを辟易させる。

 それほどまでにこの少年?の存在感は、圧倒的だった。

 ランドと警備隊が部屋に入ったことを確認した男は、艶やかな耳に掛かるほどの金髪を(なび)かせ、真紅に染まったマントを翻し振り返ると、


「やっと来たな。ここへなおれ、”罪人”」


 ランドを思いきり睥睨(へいげい)し、上から目線でそう告げた。

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