男党・総合絶政統会
南門への入り口が見え始め、最後にして最大の難所がとうとう訪れた。
女照の調査は、今回のように長引いて帰還が深夜になる事も多いので、門番は24時間3交代制だ。
普段憎まれ口や鋭い目を向けられるばかりで、門番などあまり気にした事は無いが、さすがのランドも今回ばかりは運良くアタリの門番だったことに安堵する。
その門番は立ちながら定期的に頭を上下に揺らし、声を掛けるともうすでに目は半分以上開いていなかった。
「こんばんは、女照調査から帰還しました」
「んん?…あぁ」
ランドが帰還報告をしながら義務である(男である事を証明するカード)【メンターカード】を提示すると、門番は覇気の無い返事と共にカードをおざなりに拝見。
続いて渡された2つのメンターカードも、同時に見ていく。
…それが細部まで偽造された、ネモによって造られたカードとも知らずに。
眠気ゼロの真昼でも分かるかどうかの優れた模造品に、よく見えない真夜中と睡魔による視力減少。
まんまと騙された門番は、3人中2人がフードを深々と被った怪しい恰好にも言及は無し。
まあ服装の方は、クロットがアレで許されているのだからランドは別段心配はしていなかったが。
「うい、どうぞぉ」
適当にチェックを終えた門番は、かったるそうに開門。
普段は人でごった返してる南エリア最大都市【サウス・ダンス】も、さすがにこの時間では飲み潰れた酔っ払い共くらいしかいない。
そのままランド達はメインストリートの方ではなく、街灯が届かない裏路地の方へと進んでいく。
酔っ払いに限らず人に絡まれたら少々面倒なので、人気の少ない道を通って家まで帰ることにした。
「うまくいったね!」
暗いが、女照より圧倒的に安心感のある路地を歩きながら、イタズラでも成功したかのように屈託のない笑みを浮かべるネモ。
「そうだな」
この国の出入り口は本当に大丈夫かと少し心配になるランドだが、そもそも女が本気を出せばこの程度の壁簡単に飛び越えられるし、もっと言えば破壊するのも造作も無い。
単にこの門番制度は、一応内部侵略などの阻止を名目に(今は知らない所で女と一緒の空気を吸いたくない無いといった理由が一番)、男としての最終証明として用いられている。
しかし、もはや女は男など眼中に無い。
この国に入りたいという女は、未だに男に何かしらの怨みを持ってるか、本当に最終手段の暇つぶしだ。
よって世界中探しても片手で数えらるほどいたら良い方だし、さらに偽装して入ろうとするなどいよいよ確信を持ってゼロと言える。
………ランドのような例外を除いては。
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ダンディグラムに入って随分と歩き、辺りは都会から草木の多い田舎へと移り変わっていく。
3人それぞれ疲労は溜まっているだろうが、誰1人泣き言を言わず歩いた。途中何度かネモを心配するランドだが、ネモは断固として自分の脚で歩くことを選んだ。
ランドと今は亡き叔父:クレイド・ランドが住んでいた家は、周りに店どころか民家一つ無い辺鄙な田舎の、さらに隅っこに建てられていた。
それはまるでこの街、国から蔑ろにされ隔離されているかのように…。
しかし、これが意外な方向に作用する。
これからアイリスとネモがこの家に住むのに、誰も周りに住んでおらず近寄ろうともしないのはむしろ好都合。
これ以上無いほどの良物件だった。
静かな畦道を越え、雑木林の中の舗装された階段を登った先にはポツンと一件の家が建っていた。
木造の2階建て。離れが置いてある庭はそこそこの広さがあり、さらに人のいないこの辺りの土地一帯はランド家の所有地だ。
黒の少しオシャレな門扉を開き、敷地内へと入る3人。
「2階に開いてる部屋があるから、2人でそこを使ってくれ」
玄関ドアを開けると世界一落ち着く我が家の匂いが鼻を擽り、全身の力が抜けそうになるランドだが何とか堪える。
「お腹は空いてる?」
本当はすぐにでも布団にダイブしたいところだったが、2人が空いていたら申し訳ないと思い尋ねる。すると、
「空いたっ!」
予想以上に元気な返答をするネモ。
「私は、大丈夫」
とアイリス。しかし……、
『ぐううぅぅぅ~~~』
と、その痩躯のお腹から奏でられた、身体の正直な懇願。
しかし平然と、いつものポーカーフェイスを崩さず2階へ上がろうとするアイリス。どうやら、この少女の記憶喪失はかなり重症らしい。
「待った」
階段を登ろうとするアイリスの手首を取ると、ランドはそのままダイニングまで連れて行く。
「100年くらい寝てたって事は、その分たくさん食わないと」
そう言って、ランドは冷蔵庫とキッチンの棚を開け手慣れた準備をする。
「俺が飯作るから、2人は皿を出してくれ」
「皿?」
そのまま料理へと入ろうとしたランドに、幼声の疑問。どうやらネモは、『皿』という物を知らなかったようだ。
すると大きなダイニングテーブルの横にある食器棚からアイリスが皿を取り出し、「食べる物を、乗せる器具」などと説明する。どうやらアイリスは、『皿』という物を知っているようだ。
「どの、皿?」
そして取り出しついでに、ランドの指示を実行しようする。
「少しデカ目の平べったいのを3つ。あとスプーンも」
言われて楕円形の平らな白い皿と、下の引き出しからスプーンを準備する。すると「何これ?」と、今度はスプーンに興味を示すネモ。
こうしてランドが料理を作っている間、ネモが知らない物を手当たり次第にアイリスが教えるという時間が続いた。
その会話を料理の片手間に盗み聞きし、この知識がネモの強さになるとランドは密かに嬉しく思った。
やがて香ばしい芳香と共に、食卓の定番であるカレーが3人分テーブルの上に置かれる。
「できたぞ。じいちゃん特製カレーだ!」
「カレー?」
ランドに呼ばれ、授業の時間もそこそこに席に着くアイリスとネモ。スプーンの持ち方もままならぬまま、ネモの未知への探究心は止まらない。
「食ってみれば分かるよ。めっちゃ美味いから」
そう言われ、先手を切ったのはアイリス。
銀箔光るスプーンの窪みに、ご飯とルーをキレイに5対5で乗せそのまま口へと運ぶ。一拍遅れて見様見真似で続くネモ。
カレーを味わった2人の反応は、目を見開いた後それぞれ違った。
「美味しいっ!!!」
椅子に立ち上がり、テーブルに身を乗り出して興奮気味に叫ぶネモ。初めてのカレーが、かなり衝撃的だったようだ。
ランドは良かったと、微笑みながら頷く。
対して何も言わないアイリスはというと…、
泣いていた。
透き通った肌に、これまたクリスタルのような滴を数滴流しながら。
「おい、大丈夫か!?アレルギーとかあったか?」
突然の事に取り乱すランドに、アイリスはゆっくりと頭を振る。
「ごめん、違う。何だか、すごく温かかったから」
『温かかった』。
確かにできたてホヤホヤのカレーではあるが、アイリスが言いたいのはそれで火傷したとかそういう事では無かった。
急いで涙を拭い、紛らわすようにもう一口頬張ると、
「…美味しい」
今度は満面の笑みでそう答えた。
遅すぎる晩ご飯を終え、ランド家は就寝の時間となった。
2階の2人部屋となったアイリスとネモは、やはり相当疲れていたのか、それとも腹が満腹になったからか、1人用のベットに2人で横になるなり3秒も経たずして深い眠りについた。
その隣の部屋。ランドも先の門番同様、もう意識は中半夢の中だ。
ウトウトとした中で昨日(0時を回っているので)一日の椿事が、リプレイのようにフラッシュバックされる。
結果としてはアイリス・ネモという女と仲間?になることができたが、今回の調査はお世辞にも大成功とは言い難かった。
男3人・女1人が死亡していしまい、生死不明者が数名。
最後のアンデールの様子なら、もしかしたらあの後神殿まで戻りゼーナ・マリスの治療をしている可能性もあるが、結局途中で闘うのを止めた理由も、ネモ1人を置いて消え去った理由も分からずじまい。
そこまでは、さすがに望みすぎ。
アンデールに全滅されなかったのがせめてもの救いだったと、ポジティブに考えるのが利口だ。
___自分にもっと、力があれば。と、ランドは1人反省会を繰り返しながら、静かに夢の中へと落ちていった。
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それから、2日が経ったある日のこと…。
まだアイリスとネモが寝入る早朝。このランド宅に来る筈の無い訪問者が突如として現れ、ガタイの良い男2人にランドは手錠を掛けられ訳も分からず連行される。
玄関の前には『威圧』という言葉を履き違えたのか、無駄に装飾が増し派手になった警備車。昔ではパトカーと言われた物が待機されている。
しかしその性能、形状、操作方法など基本的なところは200年前とあまり変わらず、男達の文明や技術が根本的にあの頃から変わっていないのを物語っている。
強いて言うならば、女の性能を利用した耐久性・走行距離や速度の向上。
現代のこの世界で最高の資源は鉄や石油では無く、もはや女と言っても過言では無かった。
無理矢理後部座席に押し込まれ、ダンディグラム南エリアの片田舎からパトカーに揺られて走ること2~3時間。目の前には、立派に屹立した白塔が姿を見せた。
ランドも小学生の時に、一度だけ見学に来たことがある。
【男党・総合絶政統会】
東西南北に区分されたダンディグラム。それら全てに接するように設けられた、長大な正方形の中央エリア。
そこに建てられたダンディグラムの全てを監視し、決断し、維持する男達の最後の砦。
ダンディグラムの総本山だ。




