9:森の魔女
「何を笑っている、リネル」
銀の城に人間が増えた。必然的に仕事量も増す。
食器を洗う男の傍で、メイド姿の女は椅子に腰掛け賄い飯を貪っていた。
「別にー? 奥方様が増えて、私達の仕事が忙しくなったなーと思って」
「ならば働け」
「働き蟻ってみんながみんな、ちゃんと働いているわけじゃなんですよね。ってことでライネが倒れた時は私に任せて!」
「普段から働け」
「あくまで彼らは王妃“候補”。何から何まで世話してあげる義理はないじゃない。チップを貰える間はちゃんと召使いとして接してあげるけど」
こんな物じゃ腹が膨れない。女は銀の食器を口へ入れ、ボリボリと噛み砕く。
「規定量の給金は……“給銀”はあるだろうに。大食らいめ」
「家事しかしてなかったライネ君とは違うんですー! 私は赤の王女と青の公女の引率という激務を熟したんだから! 良いわよねー? ライネ君の担当は、殿下が懐いている盗賊コンビだし扱いやすいんでしょう?」
「馬鹿を言うな。毎秒城から追い出したいのを必死に耐える此方の身にもなれ」
思わず力を入れすぎて、男は皿を一枚割ってしまった。縁取りの銀を寄越せと手を延ばす同僚に、くれてやるのも馬鹿らしい。男は皿の破片を自分の口へと放り込んだ。
「あんな連中、消去法でも全滅だ。まともなご令嬢の登城を待つか。リネル、今日のように勝手に部屋に招き入れるな。これ以上奴らに鍵を取られてみろ、今後現れるかもしれないまともな後続が不利になる」
「そ。だから先に入った人ほど有利なのよ。盗賊主従か赤の王女か。黒か赤か、ルーレットみたいね。貴方はどちらに賭ける?」
「どちらもお断りだ。アージェント様にはもっと男を立てるような……まともな伴侶が必要だ」
「そうは言うけどー! アージェント様の血、久々に生で頂きたいなぁ……ライネもそう思うでしょ?」
女は舌舐めずり。料理の乗らない食器だけを喰らうのは、もう飽きたのだと騒ぐ。
「無理を言うな。あの小さな身体なのだぞ?」
「そーね。だから……殿下には大きくなって頂きたいのよ」
血を吸うには負担が大きい。銀の王子が成長しなければ、彼女の望みは叶わない。空腹に堪えかね暴走しないよう、目を光らせておかなければ。また仕事が増えたと言わんばかりに男は長い溜め息だ。
「下らんな…………赤の王女に取り入ったのはそういう理由か?」
「嫌ね、同じ穴の狢でしょう? 自分だけ忠臣ぶらないでよ。アージェント様は私達の食糧なんだから。私達がいるからあの人は、銀の王子でいられるのよ。もっと大事にしてほしいわ」
「何年経ってもお前とは相容れんな。だがなリネル、私情は挟むな。思うところはあろうが、花嫁候補は平等に扱え。それが我ら“盾持ち”の役目だろう?」
「ぶぅ、解りましたー! じゃあ鍵が盗られないように、簡単に入手できないような難関部屋に落とせば良いんでしょ? こっちも暇なのよ。人間からかって遊びでもしなきゃ……こんな機会次はいつになるか」
「……暇なら働け」
前払いの報酬と、銀の皿を投げてやる。犬のように飛び上がり、リネルは皿をキャッチした。
「あ。そうだ。あのさライネ君、青の公女様が言ってたよ。次は明日にでも、空からやって来るって」
「……空? 天井でもぶち破って来るのか次の輩は」
公女の予言ならば一応の信憑性はある。男が窓の外を覗き見ると、夜空には雨雲が広がっていた。今夜から明日までずっと雷雨になるだろう。こんな天候で空を飛ぶなどまともな女であるはずがない。
「ならば外れだな次のも」
「えー? じゃあまた賭けない? 次の子が見事王妃になるかどうか!」
「どちらもならないでは賭けにならん」
「ふふん、ところがですよ奥様」
「誰が奥様だ。殺すぞ」
「注目注目っ! 私は次、なる方に賭けまーす!!」
「…………何処のどいつだ? 公女は名まで予言したな?」
愉快犯がメイド服を着て歩いているのがこの女。とは言え、彼女は負ける賭けはしない。理由は単純明快、面白くないからだ。
「美形揃いの、エルフの国【フィールドルフ】でも随一の美女! 求婚者が後を絶たない豪族シノープル家のご令嬢!! 強い! 優しい! 美しい!! そんな綺麗なお姉さん!! これはもう決まったでしょ!! 余裕のある年上お姉さん!! これまでの王妃候補に圧倒的に足りないのは母性!! みんな自分のことばかりで殿下を優しく包み込む包容力が足りない!!」
自分を棚に上げリネルは力説。彼女含め、城にクソ女揃いなのはよく解る。候補の中にはそもそも女ですらない者さえ異物混入中。
(フィールドルフの、シノープル……)
その家名、何処かで聞いた。何か悪い噂があった気がするのだが。ライネは暫し考え込んだが思い出せなかった。何百年も昔のことだ。寝起きの頭ではよく解らない。
*
「これって、入城成功になるのかな」
どう思う? 女は愛鳥に語りかけ、小首を傾げた。
「駄目ねぇ、魔法に失敗したみたい。ちゃんとご挨拶をして扉を叩かないと失礼に当たるわ」
「グルルルル……」
「それじゃあ一度、そこの中庭にでも降りましょうか。窓でも扉でも、どこか開ければ良いんでしょうから。さ、背中に乗せて……? あら、どうしたの? あららら……」
城の屋上が崩れている。女と愛鳥……黒いグリフォンが立っていた場所だ。いいや、それだけではない。彼女は魔法で私物を山程転送させていた。
「困ったわ。うーん、嫁入り道具が多すぎた? それとも私、少しダイエットが必要かしら?」
「ぴ、ぴぃいいいいいい!? く、曲者! 曲者ですぅうう!! ミュラル様っ!! 起きて下さいよ早く早くっ!!」
「うるせーな……何時だと思ってんだお前」
「アージェント様が殺されかけてます!!」
「早く言え馬鹿っ! 無事かアージェント!?」
上から城内へ落下してきた侵入者。彼女が破った天井は――……奇しくも銀の王子の寝所であった。同衾していた盗賊達が慌てて武器を手に取るが。なるほど王子は魘されている。窒息寸前というところだろうか。
「まぁ! 物騒な方々ね? 私は唯、王子様に会いに来たのよ? ちょっと荷物が多かったみたいで……それとも昨日食べたケーキの所為? 見送りの宴でお料理が沢山出てつい食べ過ぎちゃって……と、兎も角! 私は王子様に危害を加えるつもりなんかないの。彼と仲良くなりに来たのだから」
マイペースに騙り始めた女の様子に、盗賊達は毒気を抜かれる。のほほんとした彼女の雰囲気に呑み込まれてしまったのだ。
「……でかい」
「ミュラル様こっちをチラチラ見ないで下さい。誰と比べてるんです何を」
「い、言い分は解った。だがそこから退いてくれ。現に王子が死にそうだ」
「え?」
「あんたはクッションか何かのお陰で落ちても痛くなかったと思っているのか? あんたが緩衝材にしたの、それ……うちの王子様だから」
*
緩やかなウェーブの髪は彼女の柔らかな印象によく似合う。緑の衣装は瞳と穏やかな調和を見せる。クレストの姫とも異なる尖った耳は、彼女がエルフ族だと言う証。
彼らは人間嫌いと言われているが、穏やかに笑う彼女を目にすれば、噂は嘘かと思わせられる。どこぞの王女やら公女やらに比べたら、親しみやすい雰囲気だ。
「本当にごめんなさい! 痛かったでしょ? 魔法を掛けたから良くはなったと思うけれど……まだ痛みますか?」
頭や首を擦る女は心配そうにアージェントの顔を見る。
「だ、大丈夫」
「念のため、もう一度回復をしておきますね。ぎゅー」
「た、助けてぇーミュラルー!!」
王子は助けを求めてくるが、なかなか羨ましい状況だ。
空からスタイル抜群のねーちゃんが落ちて来て顔面に胸部が……って凄いサービスシーンだとは思うのだが。あの高さから肉の塊ぶつけられ……窒息どころか首の骨をやられたかもしれない。よく生きていたなアージェント。テニーと違って強く生きて欲しいという俺の願望が反映されたか?
「やるなあの女。あのアージェントに女を意識させている」
スタイル良し容姿良し性格良しの欲張り三点セット。朝目を覚ましたら、そんな美人なお姉さんに抱擁されている状況。代われるものなら代わってやりたい。
「ず、狡いですよ! 幾ら優れた武器があるからって……じ、自分で怪我をさせておいて優しくするとか最低じゃないですか! DVって言うんですよああいうの!」
俺の好感に反し、エルミヌからは不満の声が上がった。
「おかしいわね。風邪まで引かせてしまったみたい。自然治癒力を高める魔法を掛けましょうね? じっとしていて、はい。もっとぎゅー! 継続回復だからしばらくこのままで」
DV……か? 登場こそ異常だが、第一印象についてであれば……話をしている限りでは、この女はかなりまともな部類だ。登場シーンを知っている俺でもそう思うのだから、睡眠中に殺され掛けたとは知らない王子には、謎の超展開だろう。アージェントは受ける覚えのない優しさに戸惑っている。
「だ、駄目です! いい加減離れて下さい!! あ、貴女の前にいるのは……アージェント様の花嫁達なんですよ!?」
これ以上はと堪え兼ねたエルミヌ。奴は俺の手を掴み、自分の手と一緒に指輪を見せ付ける。
「え……?」
俺達とアージェントを交互に眺め、侵入者は顔を赤らめる。
「二人も同時に相手をするだなんて……こんなに可愛らしいのに、凄いんですねアージェント様は」
「人の王子を絶倫みたいに言ってくれるな。んなわけねーだろうが」
「ミュラるぅうう!」
彼女に隙が生まれたことで、アージェントは俺の方へと逃げ出した。抱きついてくる王子の背を、安心させるよう叩く。
「あー、よしよし。怖かったなー、急に知らないねーちゃんがやって来たら怖いよなー、つーか後が怖いよなー」
そう、後が。後ろが怖い。ギィと聞こえた後方の戸から、ただならぬ殺気が二つばかり。無論、赤と青の王女と公女だ。
「アージェント? その女は何? 私に紹介して貰えますわよね?」
「良い朝ですね、殿下? 本当に。新しい下女でも雇われましたか? でしたら本当に良い朝です。どんな用事を言いつけようかしら?」
「ぴぃいいい! み、みゅらるぅうう……!」
禍々しい気配の彼女らに、アージェントはエルミヌめいた悲鳴を上げて俺の後ろへ隠れてしまう。エルミヌが鍵を取ったことで、彼女の理想がやや反映されているのだろうか?
共に不幸を分かち合いたい――……つまりは、自分と同じ反応をするように。妹似の外見への贔屓目か、アージェントがやるとエルミヌと同じ事でも可愛く思える。
「あら! 貴女方も花嫁候補の方ですか? まぁあああ! なんて綺麗で可愛いらしいお嬢さんばかりなのかしら!! 可愛い子がいると、場が華やいでいいわー! その紋章はクレストのギュールズ殿下!? 噂以上のお美しさ!! こちらにサインを頂いても構いませんか? 実家の父に送り、家宝にしても? 戦女神の加護を得られれば、うちの領地も安泰です!」
「え……ふ、ふん。み、身の程を弁えているようですわね。ほ、ほほほほほ! 仕方ありませんわね!」
女が短剣にギュールズ姫のサインを求める。煽てられ調子に乗った赤の王女は、刀身に名前を彫っていく。場が和んだようにも思えるが、一人忘れていないだろうか? 天敵ギュールズにはあれだけ褒めちぎっておいて、自分への賛辞がないことに怒り狂うアズレア。
頬を膨らませた彼女の視線に気が付いて、女は其方を振り返る。
「貴女はコロネットの、アズレア殿下? あらあら……! アージェント様と並ぶと素敵ぃいい! 羨ましいわぁ! 私、少しこの背がコンプレックスで。その意匠もコロネットの? 可愛いいデザイン……! あぁ……憧れるけど私にはきっと似合わないわ…………私がアズレア殿下みたいに可愛らしかったら。ふふふ、何百年前に戻れるなら戻りたいけれど」
目を輝かせてアズレアの、ドレスと外見に注目する侵入者。お世辞や嘘の言葉ではない。本当に彼女は可愛いものが好きなのだろう。うっとりした彼女の目に、アズレアも少々照れている。
「ほ、褒めても何も出ませんよ。でもこのクローネ家お抱え仕立屋は、貴女くらいの背丈の物にも見事な服を作ります。貴女に払えるか解りませんが、名前くらいは教えてやっても構いませんが?」
「え!? 本当!? 嬉しいわー!! ふふ、でも私じゃ殿下みたいに着こなせる自信がありません。傍に並んだら、見劣りされてしまいますね。ふふふ」
上手い。謙遜だがそれも本音に聞こえる。美しさでは敵わないと伝えることで、アズレアの顔は緩んでいく。
「う、うううう! け、結局おねーさん! 貴女は何処の誰なんですか!? なんか勝手に打ち解けてるみたいですけど私は認めませんからね!」
「“×100エルフ”ってご存知在りませんか?」
「ばつひゃく、えるふ?」
「ええ。百回離婚しました。なのでそろそろちゃんと身を固めないと、領地でも身が狭くて。ふふふ」
「×100エルフ……? まさか【フィールドルフ】一の悪女と名高い……“シノープルの魔女”!?」
「悪女? シノープルの魔女??」
女の名乗りに反応したのはギュールズ姫だけ。俺達も、アズレアも……エルフの国の名前くらいは知っているが、遠方の国の内情まではよく知らない。エルフは人間から距離を置き、森の王国でひっそり暮らしているはずだ。噂など外には殆ど流れない。しかし彼方此方と戦争をする、血気盛んなクレストは違う。
「聞いたことがありますわ。魔女との結婚を望み――……戦場に立つエルフ兵を。その猛者は、クレストの精鋭さえ押し返し領土を守ったとか」
「前線に出たって言うと、フェルス君のことかなぁ。それともプレリーさん? うーん、昔のことだから…………あんまり思い出せないなー」
「ひぇえ……そ、そんな勇者と結婚したのに、り、離婚したんですか!? も、勿体ないですよ!!」
「そうねぇ……顔も良かったんだけど、性格も悪くはなかったし」
「え???? 本当に何で離婚したんですか!? しかも百回!? 同じ人と……百回結婚したわけじゃないですよね?? 今名前二つ出て来てましたよね!?」
「でも誰と結婚しても同じ、私は地方豪族の娘に過ぎません。結局“ズッ婚バッ婚”でしょう?」
目覚めの一杯。茶を啜っていた全員が、満足に茶を啜ることが出来なくなった。このゆるふわ美人エルフ、今とてつもない言葉を口にしなかったか? アージェント以外の誰もが自分の耳を疑って、彼女を凝視した。
「ず……ずっ友だってばよっ婚とかの、略だったりします?」
苦しい! 苦しいぞエルミヌ!! だがでかした!! 誰も聞けなかったことをよく聞いた!!
「ふふふ、可愛いのねエルミヌちゃんは。嫌だわ、これに決まってるじゃないのー!」
はにかみながらあの女、丸めた片手に指を出し入れし始めた。魔女だ。恐ろしい女だ。
何が恐ろしいって、あれだ。正直ちょっと、来る。
「その……セッ……………………よ、夜伽?」
圧倒的美女、小娘共と違った余裕と包容力がありつつも、年の功! 恥ずかしがりながら猥談を口に出来るこの女! 個人的にはポイントが高いぞ畜生! 幾つになっても恥じらいを忘れないなりに、エロい話が出来るって凄くないですか!? まぁ、こんな女をアージェントの正妻には絶対したくないけどな。
「誰と結婚しても結局子供目当てなんでしょ? そういうのどうかと思って、子供作らなくてもいい? って条件で結婚するのだけれど、みんな別れようって言い出しちゃうの」
「そ、それはその、生涯据え膳という話……?」
子孫作りに乗り気気味の公女は、エルフから距離を取りつつ確認をした。
「私、正妻とかどうでもいいんです。何番目の妾でも。とりあえず高貴な方と結婚したって事実さえあれば、父も納得すると思うので」
「……おねーさん、正妻争奪戦的には無害……ってことですか?」
「頑張る女の子って良いわねキラキラしていて。可愛いお姫様達を見ていると、気持ちが若返るみたいでいいわー」
「……なるほど、アージェント殿下。彼女は置いて損はありません。何しろ彼女はこの城で――……」
「即刻立ち去りなさい!」
エルミヌもアズレアも彼女の滞在を容認する流れになったが、ここでギュールズ姫が異議を唱えた。
「妾など不要! 正妻になる気がない冷やかしが、城に留まるなど言語道断!」
「暗殺に来た奴が良く言うぜ」
「うっ……そ、それでも私は認めませんわ!! 私が次の鍵を取り、アージェントの口からお前を追い出すようにさせて見せます!!」
何がギュールズの逆鱗に触れたのか。赤の騎士姫はエルフ女を敵視し出した。
「その女は、【フィールドルフ】より放たれし厄災!! 関わって何が起きても私は知りませんわ!」
怒鳴り散らしてその場を去った赤の姫。あの様子では、俺達の知らない何かをまだ……ギュールズ姫は知っている。
「エルミヌ、アージェントを見てろ」
「え? どうしたんですミュラル様?」
「ちょいとお姫さんの機嫌を取ってくる。朝飯まだだろ? 食事は仲良く、それがこの城のルールだ」
「あ、昨日決まったあれですね。解りました! 一人分多くなりますし、使用人のお二人に伝えに行かないと! アージェント様、エルミヌとちょっとお城をお散歩しましょ?」
「うん!」
エルミヌに後を任せて、俺はギュールズ姫を追いかける。俺も何点か、気がかりなことはあったのだ。
「おい、ギュールズ姫」
「盗賊! お前と語らうことは何もない!」
「まぁ、そう言うなって」
俺は一度指輪を浮かせ、指の先まで持って行く。以前アズレアと共に閉じ込められた空間が、小さいながらも出来上がる。
「指輪魔法だ……これで秘密の話が出来る。教えてくれ。あの女は何なんだ?」
「……お前に話して、何になる」
「俺が、アージェントを守れる」
俺の訴えを信じてみる気になったのか。折れてくれたギュールズは、不服そうに口を開いた。
「あいつは、魔女ヴァート。ヴァート=シノープル。……結婚した“男”を全員殺している」
「何!? そんな危険な奴なのか!?」
「あの女と結婚し、無事で済んだ男はいない。妾だろうと、アージェントに危害を加えるはず。命は助かっても、アージェントは王子でいられなくなるかもしれない。あいつはこの、花嫁選びを無意味にしてしまう!」
魔女ヴァート。あの女はこの城で、随分な魔法を使っていた。王女も公女も通常の魔法が弱まっていたというのに、あの女はそんな素振りを見せない。アズレアがヴァートを置くことを認めたのは、強力な彼女を懐柔し手駒とするためだ。エルミヌはすぐ顔に出るから細かい仕事は頼めない。これは消去法だが……今は他に方法がない。
「…………ギュールズ、一時休戦だ。俺と手を組め」
これは彼女にとっても悪くない提案だ。それでも赤の姫は頷かない。もっと手札を切れと此方に催促しているのだ。
「お前も私の敵だ、盗賊」
「協力するなら次に見つけた鍵を、お前に譲ってやる」
「これから先、お前には鍵が見つからなかったら?」
「俺の手持ちから一本くれてやる。悪くねぇだろ?」
指輪を戻し、差し出す手。そこに白銀の篭手が重ねられる。
「……良いだろう、交渉成立だ」
余裕がないのは其方もか。荒々しい口調のギュールズに、俺は苦笑し頷いた。
というわけでヴァートちゃん出せました。可愛くて好きです。綺麗なお姉さん。
今後にご期待下さい。




