表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/19

おびき寄せる作戦

 学校に到着してから時間は経ち、昼食を終えた昼休み。

 俺は図書室にいた。

 本当にここの図書室はガラガラとしていて何か秘密なことを話す場所にうってつけだ。

 一応、利用者がいないというわけではないので念のためではあるが、俺と楓は室内の出入り口から一番遠い机を陣取り、そこで今朝のことを訊くところである。


「それで今日の朝はどうだったか?」


 突然の切り出しではあったが、俺はそのことが朝からずっと気になっていた。

 相手は二度も手紙を俺の靴箱に入れている。

 よくことわざで「二度あることは三度ある」というものがあるが、文章とかを見た感じでは、まだ手紙を送りつけるに違いない。

 楓は読んでいた小説のページにしおりを挟むと、パタンと閉め、卓上に置く。


「それが……怪しい子はいなかったよ。一馬も知ってる通り、靴箱の中には一通の手紙もなかったでしょ? それが何よりの証拠」


 たしかに今朝、上履きに履き替えようとした時、一応ではあるが、中を確認した。

 だが、楓の言っている通り、何もなかった。

 今朝は外れただろうなぁとは、なんとなく分かっていたが、怪しそうな人物も見なかったとなると……放課後? いや、休み時間とかにでもありえそうだ。

 しかし、楓は俺の考えを読み取ったかのように休み時間に入れている説を否定する。


「僕的には休み時間とかはないと思うよ?」

「なんでだ?」

「休み時間って、結構人の行き来が激しいでしょ? そんな時に他人の靴箱に手紙を入れられるかなぁ? これは心理学的なものだけど、人目があればあるほど、その人は挙動不審になりがちなんだよ。誰かに見られてるんじゃないかとか思っちゃうんだろうね。辺りをキョロキョロしだして、余計に不審がられてしまう。それにそもそもやらないと思う」

「なるほど……てか、その前に詳しいな!?」


 高校生で心理学とか……メンタリストにでも憧れてるのかな?

 そう思ったが、どうやら違ったようで、


「前にテレビでやってたのを思い出しただけだよ。人間の行動心理学っていうやつね」

「お前そんなもの見てるんだな……」


 若干引いてしまった自分がいるが、それはともかくとして、休み時間が選択肢からなくなったとすればやはり、残るは朝か放課後の二つになってしまう。

 でも、今の流れを考えるに登校時と下校時に見つけている。そうなってくると、両方あり得ると考えるべきか……。


「とりあえず、朝か放課後のどちらかしかありえなさそうだね」

「そう、だな……」


 次はいつ現れるのだろうか……いや、いつ手紙を入れられるのだろうか……。

 そればかりが頭の中を過ぎる。

 二度あることは三度ある……これもざっくり言うと、ことわざでしかなく、実際にまたあるとは言い切れない。

 もう相手を特定するチャンスはないかもしれない……そう思ってしまうと、なぜか無性な焦りを感じてしまう。

 ――君は一体誰なんだ? 俺に一体どういうつもりで?


「一馬もいろいろと思うところはあると思うけど、一つ僕の提案に乗ってみないかい?」

「提案……?」

 そう訊き返すと、楓は爽やかな微笑みを俺に向ける。

「相手をおびき出す作戦……まではいかないけど、やってみる価値はあるんじゃないかな?」


 何もせず、このまま朝、放課後を見張るよりかは何かをした方が、相手が出てくる確率ももしかしたら上がるかもしれない。

 俺は一応、その提案を乗ることにした。


「それでその提案ってなんだ?」

「そんな難しいことじゃないよ。一馬が時間をズラすだけでいいんだ」

「時間をズラす?」


 どういう意味だろうかと再び楓に訊き返す。


「一馬は朝、登校する際に少し遅めにして、帰るときも遅めに教室を出ればいい。そうすれば、手紙を書いた相手がまた現れるかもしれない」


 なるほど……そういうことか。

 要するに俺が靴箱付近に姿を見せなければいいのか。そうすれば、相手もその隙を見て、また手紙を入れてくれるかもしれないし、そこを楓が見張っとけばいい。


「分かった。じゃあ、今日の放課後から頼めるか?」


 楓にはいろいろと忙しい中、こんな頼みをして申し訳なく思うが、


「うん、僕に任せといてよ」


 そう言って優しい微笑みを見せた楓はマジ天使だ。

 時に思う。なぜ女子じゃないのかと。

 神様なんて信じてもいないし、信じる奴はどうにかしていると思っている俺ではあるが、これだけは架空の人物である神様に言わせてほしい。


「……なんで女子じゃないんだ」

「え? 今、何か言った?」

「あ、いや、なんでもない。もうそろそろ昼休みも終わる頃だよな?」


 あっぶねぇ。口から漏れてたわ。

 俺は強引ではあるが、話をすぐさまに逸らし、昼休みがもうすぐで終わることを告げる。


「そうだね。じゃあ、僕は図書室のちょっとした片付けがあるから」


 楓はそう言うと、テーブル上に置いてあった小説を片手に取り、カウンターの方へと向かって行った。

 とりあえず、今日がダメだったら明日だな。

 俺も五限目の準備をしなくちゃいけない。楓がカウンターに戻った直後に俺も図書室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ