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俺と冬華の関係

 なんで俺はこいつの横を歩かなきゃならないのか……登校中、周りの突き刺さる視線を受けながらもふとそう思ってしまう。

 楓との電話から翌日。

 俺は偽彼女である冬華と一緒に学校までを歩いていた。

 俺たちの間では恋人らしい会話は一つもなく、ほとんどが無言。

 こんな状態な俺たちを見ても周りの奴らは付き合っているということを簡単に信じてしまうから本当に恋愛脳はちょろすぎる。

 それはそうと、俺が今気になっているのは例の手紙だ。

 昨日、二枚目が入っていた時は正直驚いたが、相手はどういうつもりで書いたんだろう?

 まだ俺のことを諦めないとか書いていたあたり、相当好意を持っているのか? それともそういう恋愛感情とは関係なしの何か、とか……?

 いずれにせよ、まずは誰が何の目的で俺に手紙を書いたのかを突き止めなくてはいけない。

 楓には靴箱を見張るように行ってあるし、相手を突き止められる準備はできている。


「妙にそわそわしたような感じだけど……どうしたの?」

 冬華が俺の方に顔を向け、怪しむような表情をする。

「あ、いや、何でもないぞ」

 俺は苦笑いを浮かべつつ、そう言うと、なぜか冬華は「はぁ……」と深いため息を吐く。

「まぁ、いいわ。私たちって久しぶりに話す関係に戻ったわけだし、言いにくいこともあるでしょ。今は何でも言い合えない関係でも今後はそういった関係になれるかもしれないし……何でも言ってちょうだい」


 冬華は相変わらずと言っていいのだろうか、いつもと同じく冷たい表情でそう言い放った。

 だが、よくよく見ると、耳がほんのり赤くなっていて、その後は何かを隠すように正面に向き直る。

 ――本当にそういった関係になれるのだろうか……?

 俺には到底そう思えない。

 冬華は昔とは違い、すごく冷めている。なぜこうなってしまったのか、分からない。たぶんだが、俺とあまり喋らなくなってからこうなってしまったような気もする。

 こんなやつと何でも言い合える仲になれると誰が思えるのか? どう想像しても冬華が変わらない限り、無理だ。

 それに俺は冬華ともそういう関係になるつもりはない。

 なにせ俺は…………………………………もともと冬華のことが好きだったから。



 あれは中学一年の十二月ごろだった。

 その頃はまだ冬華とも仲がよく、毎日一緒に学校へ登下校したりして、性格自体も今とは大きく異なり、冷めているというよりも暖かく、誰にも優しかった。

 いつも俺と一緒に行動をしているものだから、クラスメイトなどから付き合っているのではないかと噂を立てられたりもした。

 その時は冬華も「違う!」とは言いつつも、どこか嬉しそうな表情をしていたため、俺はいけるんじゃないかと思い、冬華の誕生日に告白しようと密かに決意していた。

 が、冬華の誕生日二日前にして、俺は衝撃的な事実を本人の口から告げられてしまう。

 誕生日二日前の昼休み。

 俺は急に冬華から呼び出され、誰もいない体育館倉庫にいた。

 何の話があるのだろうか? もしかして、冬華の方から告白、とか?

 いろいろと妄想が膨らむ中、少しドキドキしながらも冬華が来るのを待つ。

 そして、俺が到着してから五分後くらいに倉庫の引き戸が音を立てながら開けられ、


「待たせちゃってごめんね……?」


 冬華はどこか悲哀に満ちた表情でそう言った。


「いや、別にいいんだけど……」


 俺はその表情がどうしても気になった。

 冬華の悲しげな表情を見るたびに心がざわざわとし始め、嫌な予感がして来る。

 とりあえず、告白ではないことが分かったところで俺は話を促す。


「それで、話って……?」

「あのね私……」


 冬華はなぜか顔を下に向けてしまう。

 言いにくいことなのか、どのくらいか間を空け、再び顔を上げた瞬間……


「中島くんと付き合うことになったの」

「え……?」


 頭の中が真っ白になった。

 こういう時に限って、嫌な予感は当たってしまう。


「昨日ね、告白されたの。だから私……」


 そう言うと、冬華は体育館倉庫から飛び出すように出て行ってしまった。

 俺は何も考えることができず、ただ走り去って行く冬華の背中を見ることしかできなかった。

 ――冬華に恋人? ……嘘だろ?

 信じられない。現実が受け止められないでいた。

 これは何かの悪夢。絶対にそうだ。

 だが、いくら頰をつねったりしても目覚めることはできず、ただ頰が腫れていくばかり。

 次第に時間がどのくらいか過ぎ、ようやく我に帰ったところで俺は一旦冷静になる。


「これが失恋……っていうやつか……ははは」


 なんで笑っているんだろう? 自分でも分からない。

 それになんで俺じゃなくて、中島っていうやつと付き合うことにしたんだ?

 たしかに中島は校内でもイケメンとして女子からチヤホヤされている。

 ――やっぱり顔か? 女子は顔なんだよな?

 周りからはあんなに付き合っているのではないかと噂までされたのに冬華は中島を選んだ……。

 そう思うと、心の奥底から妙な怒りや憤りが湧き上がってくる。

 俺は裏切られたのか?

 今までのは何だったんだ?

 一緒に学校へ登下校したり、休日は買い物に付き合ったり、夏は二人で花火大会に行ったり、家族ぐるみで海に行ったり……なのに顔がイケメンというだけの中島を選んだのか?

 中島の性格はあまりよく聞かない。

 だからだろうか、男子からはほぼ全員と言っていいほどに嫌われている。

 成績もそこまでいいとは言えず、運動神経がずば抜けているだけだ。


「そう、だよな。やっぱり顔だよな」


 乾いた笑い声と共に俺は地面に膝をつき、崩れた。

 次第に地面がポツポツと雫で濡れ始める……俺、泣いてるのか?

 俺は目をゴシゴシと強引に拭いながらも、思った。

 恋愛は成功すればいいが、大体は失敗する。運命の出会いなんて滅多にあるわけでもないし、失恋すれば悲壮感に支配される。


「なら、俺は……」


 一生恋愛しない……とは、言わない。

 でも、これからは俺のことを本当に好きでいてくれる人としか接しないし、思わせぶりをされても誤解なんて絶対にせず、常に疑心暗鬼を心がける。

 その人のことを一方的に好きになってしまえば、終わり。相手が俺のことを好きになってから初めて俺も好きになる。

 そうすれば、こんな辛い気持ちもせずに済む。

 それに……


「冬華とはもうあまり関わらない方がいいかもな……」


 今までのはただの思わせぶりだ。

 かと言って、冬華が悪いわけではない。冬華は至って、普通にしていただけだ。勝手に誤解していた俺が悪い。

 また冬華と関わってしまえば、勝手に誤解してしまうかもしれない。

 だから俺は……。

 それ以降、冬華とは関わることをなるべく避けるようにした。

 朝登校するときも早めに家を出て、休み時間や昼休みの間は教室を出て、いろんなところをうろちょろしたりもした。

 冬華から謝罪の手紙をもらったりもしたけど、別に謝られるようなことはされてないし、普通に許した。

 けど、それまでの関係性に戻るつもりはさらさらない。

 やがて中島とはすぐに別れたという噂を耳にした。

 なんか一週間ももたなかったみたいで冬華が一方的に別れを告げたらしいが……。

 よくよく考えれば、俺たちの関係が壊れたと言っていいのか? こうなってしまったのも中島のせいなんだよなぁ。今は県外の高校に進学したとか聞いてはいるけど……。

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