二枚目の手紙①
普段通り午後の授業を受け、終礼など何もかも終わらせた放課後。
俺は教材類を素早くカバンの中に入れ、教室を後にする。
「あら、先に行くなんて水臭くない?」
「なんだ、いたのかよ……」
教室を出てすぐ近くの壁にもたれかかっていた冬華がいた。
俺は微妙な顔をしながらも仕方なくではあるが、一緒に廊下を歩くことにした。
「そんな顔するのは《《彼女》》である私に失礼じゃない?」
なぜ彼女の部分だけ強調した……?
おかげで周りの奴らが一瞬にして俺たちの方に振り返ったじゃないか。
……まぁ、冬華の目的は俺たちが付き合っているということを知らしめるためだから、別にいいんだけど。
「そうか? 俺は普段からこういう顔だからそう言われても仕方がないと思うが?」
こいつの言いなりになってしまえば、終わりだ。
俺はあえて反抗的な態度で接することにする。
すると、冬華は一度俺の顔をじっと見つめた後、再び正面に戻る。
「そう……それなら仕方ないわね」
意外にもあっさりとした反応だった。
もう少し何かしら言ってくるのではないかと身構えていたのだが、あまりの想定外な反応に拍子抜けしそうだった。
……本当に何を考えてる?
冬華の考えが全くと言っていいほど読み取れない。
今まで疎遠状態で幼馴染みとはいえ、ほとんど喋ることもなかったのに……。
「なぁ、冬華」
「ん?」
「お前は一体何がしたい?」
俺は思わず訊いてしまった。訊くつもりではなかったのだが……。
それに対し、どのくらいか間が開く。
「私は……ただあなたと恋人関係を築いていきたいだけよ」
冬華が俺の方を見つめてくる。
その目には嘘をついているようには見えないほど、透き通っていて凛としていた。
「そ、そうか……」
危うくマジかよと思ってしまいそうになっていたが、俺たちの関係は正確に言えば偽恋人。
嘘をここまで本当のように言えることへ俺は密かに驚いていた。魔性の女っていうやつになれるぞこいつ。
それからして、階段を降りた俺と冬華は靴箱に到着する。
そしてそれぞれ上履きから靴に履き替えようとしている時、靴を取り出した瞬間、何やらピンクの封筒まで出てきた。
「これって……」
「どうしたの?」
靴に履き替えたらしい冬華が後ろから覗き込もうとする。
「あ、いやなんでもない」
俺はすぐにピンクの封筒を上着ポケットにしまうと、靴に履き替えた。
冬華は、訝しむような目で俺を見つめる。
「なんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」
俺はあえてすっとぼけたような態度をする。
「……ううん。なんでもないわ」
冬華は諦めたのか、いつもの表情に戻ると、俺より先に校舎外へと出る。
「早く帰るわよ?」
「あ、ああ……」
☆
家に帰り着くと、すぐに自室へとこもる。
部屋のカーテンは隣に住んでいる冬華が盗み見るかもしれないため、しっかりと閉めて明かりをつける。
そして、制服のままカバンを適当な場所に放り投げると、制服の上着ポケットに手を突っ込む。
「あった」
冬華と帰っている時、もしかしたらどこかで落としてしまっているのではないかと気がかりで仕方がなかった。
変にポケットへ手を突っ込むわけにもいかず、封筒があったことに変な安心感を覚えてしまう。
とにかく学習机の椅子を引っ張り、座ると、封筒の表面を見る。
表面は前にもらったものと同じく俺の名前が記されている。
そのまま裏面を見ると、やはり相手の名前は書かれていなかった。
俺はペンたてからハサミと取り出し、取り出し口の方を丁寧に切っていく。
切り終えたところで、中身の手紙を取り出し、それを広げる。
“一馬くんへ
冬華さんと付き合ったという話を耳にしました。私それを聞いた時は本当に悲しかったです。なんで約束の時間に屋上へ来てくれなかったのですか? 来てくれてたら、もしかしたら私と一馬くんがそういう関係になっていたのに……。私諦めませんから。“
手紙にはそのような内容が書かれていた。
どうやらこれを書いた相手もすでに俺と冬華の表向きの関係を知っているようだが、俺はある部分が気にかかった。
この手紙には「なんで約束の時間に屋上へ来てくれなかったのですか?」と書かれている。
約束の時間とは、たぶん放課後でいいとは思うが、俺はちゃんと屋上に行った。
むしろ来なかったのは相手の方だ。俺が来なかったみたいな書き方をしているけど。
「どういうことなんだ……?」
さっぱり意味が分からない。俺と冬華がいなくなった後来たのか?
でも、それだと時間的にも遅すぎるような……?
俺が学校を出たのは午後六時を過ぎていた。
あの後となると、部活が終わる頃とかになってしまう。
……もしかしたら相手は何かの部活動でもしているのか?
それだとなんとなく分からなくもないが、そうなってくると手紙の内容がちょっとおかしくなってくる。
それであれば、最初から放課後ではなく、部活動時間終了後と書けばよかったんじゃないか? それだったら俺も部活が終わるまで待っているなりしていた。
二通目の封筒が出て来たことにより、さらに謎が謎を呼ぶ感じで混乱してくる。
相手は俺に対して何をしたいのだろうか、何を求めているのだろうか?
「はぁ……とりあえず考えても無駄か」
俺はため息混じりで手紙を学習机の引き出しにしまう。
今回もらった手紙も結局、手がかりらしきものは何もなかった。
ピンク色の封筒と丸文字……これ以外の情報と言えば、靴箱に手紙を入れるくらいだろうか?
「あ……」
部屋着に着替えた瞬間、閃いてしまった。
相手は手紙を過去二回、靴箱の中に入れている。
なら、その瞬間を見て入れば誰が入れたのか分かるのではないか?
「明日あたりに……いや、俺が見張ればバレてしまうかもしれない」
入れるタイミングとしては休み時間や昼休みといったところだろう。それと朝登校時もあり得るか。
俺が見張れば、バレてしまうというか、本人の前で堂々と靴箱の中には入れないと思う。
ここは……楓に頼むしかないか?
親友である楓には申し訳ないが、頼りになる人がいない。
「後でメールしてみるか……」
それに朝早く家を出ることはほぼ不可能だしな。冬華と偽恋人をしているまでは……。