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付き合ってからの初登校②

 弁当を食べ終えた後、冬華は何やら用事があるとかで俺たちの元をすぐに去って行った。

 俺もこの状況では教室に居づらい。

 ということで、楓が図書委員ということもあって図書室に来ているのだが、


「それにしても驚いたなぁ。一馬とあの青島さんが付き合ってるなんて」

 本棚に返却された本を片付けながら、そう言う楓。

「そうだろうな。俺自身もこうなっていることに驚いている」

 楓とは別の意味だけどな。

「そっか。そうだよね。学校一の美少女と付き合えるなんて夢のまた夢だよ。それなのに一馬と付き合っているということはきっといいところがあったんだろうね」

「ちょっと待て。その言い方だと俺にいいところがないという風に聞こえるんだが?」

「え? 実際いいところなんてあるの?」


 マジなトーンで言われた。

 俺にだっていいところはあるはずだ。

そう思い、考えるが……うん、マジの方でないわ。


「それはそうと、一馬と青島さんの馴れ初めっていうのかな? そういうの聞きたいんだけどなぁ」


 そう言って、楓は近くにあった椅子に座る。

 俺は「はいはい」とめんどくさげに答えると、同じく近くの椅子に座る。

 どこから話そう……やはり俺と冬華が幼なじみだったというところからだろうか?

 俺はゴホンと咳払いをする。


「楓はたぶん知らないと思うが、俺と冬華は実を言うと、幼なじみなんだ」

「え? そうだったの?」

「ああ、家も隣同士だったから小さい頃はよく遊んでた。けど、いつ頃からだったんだろうな……俺と冬華との関係が疎遠状態になってしまったのは。正確には覚えてないが、中学に上がる頃にはもうすでに話さなくなっていたし」


 楓は俺の話に黙々と聞き入っている。

 俺は続けてラブレターをもらった時のことを話す。


「だが、昨日だ。楓も見ただろ? ラブレターみたいなやつ」

「うん……って、あれ青島さんが書いたやつだったの?!」

「ま、まぁ、そういうことなんだが……静かにな? 一応誰も居ないけど、ここ図書室だから」


 なんで図書委員でもない俺が図書委員である楓に注意をしてるんだよ。立場が逆だろ。

 そんなことを思いながらも、楓には話せる範囲までを全て話した。

 俺の話を聞いた楓は、どこか微妙な顔つきをしている。何か変なことでも言っただろうか?


「す、少しいい、かな?」


 楓がどこか遠慮がちというか、言いづらいことを言うときみたいな顔をしている。


「なんだ?」


 何を言われるのだろうか……なぜか俺はドキドキしていた。

 そんなことを知るよしもない楓はおずおずと口を開く。


「青島さんはその、ラブレターのことなんて言ってた?」

「なんてって私が書いたみたいなことを言ってたけど……」


 何を言ってるんだ? 当初はそう思ったのだが、それは次の言葉を聞いた瞬間、パッとなくなってしまう。


「僕が見る感じでは、ラブレターに書かれた文字と青島さんが書く文字の筆跡? と言うのかな? 違うように見えたんだけど……」

「それって……どういう意味なんだ?」

「どういうって言われてもそのままの意味なんだけど……本を借りる時って名簿帳に名前を書くでしょ?」

「あ、ああ」

「たしか二日くらい前に青島さんが本を借りに来て、その時僕がカウンターに居たんだけど……青島さんの字達筆で綺麗だったんだよね」


 そう言うと、楓は「少し待ってて」と俺に告げ、席を一旦離れる。


「ほら、これ」


 数十秒くらいで戻って来た楓の手には名簿帳が握られており、あるページを開いて見せてくれた。

 そのページには楓が言っていた通り、二日前のが記されており、そこには冬華の名前もある。


「たしかにそう、だな……」


 冬華のサインは達筆で、あのラブレターの筆跡と一目で分かるほどまったく違うものだった。

 そうなってくると、ある疑問が次から次へと湧いてくる。

 なぜ屋上に冬華が現れたのか?

 冬華はどこで俺宛のラブレターを知ったのか?

 そして、何よりこのラブレターは一体誰が書いたものなのか?


「一馬はもう分かっていると思うけど……」


 楓が再び椅子に座る。


「ああ、俺に渡したラブレターを書いたやつは少なくとも冬華ではないな」

「そう、だね。一応筆跡を見る限りでは書いた人物はほぼ女子で間違いないと思うし、可能性的には低いと思うけど、イタズラ方面で考えてみてもいいかもしれないね」

「イタズラね……。こんなほぼぼっちみたいな俺にか?」

「ま、まぁ、世の中にはいろんな人がいるから」


 楓は苦笑いを浮かべる。

 ほぼぼっちみたいな俺にイタズラを仕掛けて何が面白いのやら……。

 まだそこら辺の彼女持ちの男子に仕掛けた方が面白い展開になるんじゃないか?


「それで一馬はどうするの?」

「どうするって?」

「そのラブレターの送り主を探すかどうかっていう話だけど……」

「そうだな……」


 探すにしても情報量が少なすぎる。今のところはピンクの封筒と筆跡のみ。

 これだけしかない情報量で全校生徒の中から探し出すとなると、結構な労力も必要となるだろうし、そもそも見つかるかどうかすらも不安だ。

 このままほっとくというのも得策なのかもしれないが……これがもし本当のラブレターだとするならば、俺に好意を寄せている女子がいるということとなる。

 ――それはそれで気になる……。

 付き合うか付き合わないかと言う話は別としても自分に好意を寄せている女子は気になるもんだろ?

 ここは地道になるだろうけれど、探すしかないか。

 ラブレターを送った日、屋上に来れなかったのも何か理由があるかもしれないし。


「その顔だと探す決意をしたみたいだね」

「まぁな」

「でも、今の状況で大丈夫なの? 一馬にはもう青島さんがいるでしょ?」

「あ……」


 一瞬ではあったが、忘れてた。

 楓にはまだ話していないが、俺と冬華は偽恋人(フェイク)関係を築いている。表向きは本物のカップルを装ってはいるが、今の状況では偽物にしろ意味がない。

 俺と冬華の関係性はじきに全校生徒へと広まっていくだろう。そうなってしまえば、ラブレターを送ってくれた女子は諦めてしまい、見つけることもさらに困難になってくるかもしれない。

 楓だけにでも冬華との関係が偽物であることを告げるべきか……俺は短い時間ではあったが、考え抜いた。


「冬華との関係はひとまず置いといて、やっぱり男として誰が書いてくれたのかきになるだろ?」

「たしかにそうだね。せっかく書いてくれたのに何も返事をしないというのは逆に失礼かもね」


 俺は結局やめた。

 冬華との関係は二人だけの秘密だ。楓のことを信じていないわけではないが、もし本当のことを言って、その後に俺と冬華の関係が何らかの原因でバレてしまえば、計画そのものが終わり、俺の人生も一枚の写真によって終わってしまう。


「とりあえず、僕の方でも探して見るよ。筆跡くらいなら図書室の貸し出し名簿帳に似たような字があるかもしれないし」

「ああ、ありがとな」

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