悪魔
冬華の家に到着し、インターホンを鳴らすと、まだ制服姿の冬華が玄関から出てきた。
「じゃあ、入って」
「お邪魔します……」
久しぶりに入る幼なじみの家。
冬華の両親は俺の両親と共同事業をしている。その関係で今は事業の海外展開を視野に海外に転勤しているのだが……そう考えると、今この家にいるのは俺と冬華の二人きりということだよな?
さっきの告白といい、無意識に変な妄想が勝手に頭の中に浮かんでくる。
「何か変な妄想してるんじゃないわよね?」
冬華が蔑んだ目を俺に向ける。
「しょ、しょんなわけないじゃないか……あはは」
つい噛んでしまった。
だって、こんな的確に言い当てることできる? 思わず苦笑いが出ちゃったよ。
そんな俺を気にすることなく、二階にある部屋に案内する冬華。
俺はどう接すればいいのか分からずにいた。
今までがそうだ。
俺と冬華はいつの間にか話すこともなくなり、家が隣同士なのに疎遠状態になっていた。
それがこれからも続くのだろうと思っていたのに、急に手紙を靴箱に入れ、屋上に呼び出したかと思いきや、いきなりの告白だよ?
俺のことを好きなのかどうなのか怪しい冬華……一体何を考えているのか。俺にはさっぱり分からない。
「私の部屋は分かるよね?」
冬華が階段を登ろうとした時、何かを思い出した風に俺の方に振り返る。
「あ、ああ……」
「じゃあ、先に私の部屋に入っててくれない? 私はお茶を用意するから」
「わ、分かった」
というわけで、俺は一人で階段を登り、冬華の部屋に入ることになった。
何もかもが久しぶり……冬華の部屋はどうなってるのだろうか。
昔は可愛らしい女子っぽい部屋でぬいぐるみとか女子力に溢れていた。
――今はどうなんだ?
冬華は可愛いということには間違いないにせよ、女子力とは無縁のように思える。
なにせ学校では氷の女王というあだ名までついているからな。
ちょっとしたドキドキ感とワクワク感の中、部屋の前に着いた俺は、ドアノブを捻って、ドアを開ける。
「随分と変わったなぁ……」
ドアの向こうを見た瞬間、そんな感想が思わず出てしまった。
部屋の中は昔とは随分と変わり、ぬいぐるみはおろか、女子らしいものがほとんどない。
もっと簡単に言い表すとすれば……親父の書斎感が漂っていた。
本棚には小難しそうな本がたくさん並び、部屋全体が渋い。
「ここ本当に女子高生の部屋か……?」
「ええ、私の部屋だけど?」
「うわああああああ?! って、脅かすなよ!」
いつの間にか後ろに冬華が立っていた。
手には、お盆が握られ、お茶とちょっとしたお菓子がのってある。
「あなたがボケーとドア前で突っ立ってるのが悪いでしょ?」
「ま、まぁ、それはそうなんだが……」
「はぁ……とりあえずそこに座りなさい」
ため息混じりにそう言われ、指定されたデスクチェアに座る。
冬華はお茶とお菓子がのったお盆をデスクの上に置くと、ベッドの上に腰掛ける。
「じゃあ、さっきの話の続きをするけれど、私と恋人関係になって欲しいの」
「恋人関係ね……なんでまた?」
俺のことが好きというわけではないだろう。そんな素振りもないから分かる。その意味合いも含め、訊くと、それを受け取ったのかどうか、冬華は説明を始めた。
「私って正直モテるじゃない?」
「あ、ああ……」
自分で自分のことモテるって言い切るやつ初めて見たわ……まぁ、悔しいことに間違いじゃないところが若干イラっとくるけど。
とりあえず私的な感情は一旦捨て、冬華の話を聞くことにした。
「毎月、振られると分かっていながら告白してくる男子が、正直ウザいとまで思い始めてきたの。私だっていろいろとやることがあるのに男子から呼び出されるたびに仕方なく行っては、振るの繰り返し。その動作が面倒とまで思い始めたわ」
「なるほどな。それで幼なじみである俺を恋人に仕立てることで無駄な時間を省こうっていう魂胆か」
冬華に彼氏ができれば、告白してくる男子もいなくなるだろう。
そう考えた冬華は幼なじみである俺にこの役をお願いしてきたわけか。
だが、俺だってその役はやりたくない。その役をやれば、俺は間違いなく、ぼっちから学校一の美少女の彼氏となり、周りの男子から嫉妬の眼差しが針のように降り注ぐだろう。
そうなれば、ただのぼっちから嫌われぼっちに早変わり! 俺の青春が一瞬にして終わってしまうね!
だから俺は丁重にお断りすることにした。
「誠に申しわけないが俺には――」
「残念ね。あなたは断る権利はないわよ?」
「……は?」
どういう意味だ?
そう思った瞬間、冬華がスマホを取り出し、何やら操作を始める。
そして、終わったかと思いきや、画面を俺の方に向ける。
「あ……」
脆弱な声が思わず出てしまった。
それもそのはずだ。
「あなたの秘密……もし断ったら全校生徒にこの写真をばらまくね?」
そう可愛く言った冬華は、俺にはもはや悪魔そのものにしか見えなかった。
「あなたに女装癖があることを全校生徒が知ったらどう思うのだろうね? 特にあなたの親友である楓くんは」
不敵な笑みを浮かべ、俺を見る冬華は俺の知っている冬華ではない。
昔の可愛かった面影はどこにも残っていなかった。