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山下さんとデート④

「そろそろ帰るか?」


 ゲーセンで時間を忘れてしまうほどに熱中して、遊び尽くした俺たち。

 ふと時間を確認すれば、もうすぐで夕方の五時を回ろうとしている。

 遅くならないうちにも早めに停留所に向かって、バスに乗り込んだ方がいいかもしれない。


「あ、あの……一つだけいい、ですか?」

「ん? どうした?」

「最後になんですけど……ぷ、プリクラ……撮りませんか?」


 山下さんはもじもじとしながらも小さくそう言った。

 周りの音が大き過ぎてギリギリ聞き取れたからよかったけど……プリクラってあのプリクラだよな? 

 今となっては、すべてのゲーセンではないにしろ、男子だけの入場が規制されているプリクラ。なんで男子だけだとプリクラを撮っちゃいけないのか、その点を規制している店舗に問いただしたいところではあるが、この店も例の規制がされている。

 まぁ、規制されようがプリクラを撮らない俺からしてみれば、どうでもいい話ではある。けど、規制店舗が増えている今日。男子がプリクラ機の中に入るためには、カップルもしくは女子とのペアの場合は許されているのだが、それってつまりリア充限定と言っているようなもんだ。

 何が男女平等だ。こういうところは全然平等じゃねぇ! 何かしらの理由があってそうしているとは思うが、それならそれで男子専用も一台くらい作れよ。何台もあるんだから1台くらいなら余裕で作れるだろ。

 と、俺の中での意見はこんなもんなんだが、改めて言っておく。意見はあるにせよ、どの道俺には関係ない。

 だがしかし、この俺にもプリクラを撮ろうと言われる日が来るとは想像もしていなかった。

 山下さんは餌をせがむ子犬のようなくりっとした眼差しで俺をじっと見つめている。

 ――そんなに撮りたいのか?

 お金を払ってまで写真を撮りたい女子の心情が俺には分からない。普通にスマホカメラで撮ればいいだろうに。


「……分かった」


 俺は観念したかのように山下さんにそう伝える。

 すると、山下さんの顔がぱぁ〜っと花が開くような笑顔を見せる。


「やったぁ! じゃあ、撮りましょ!」

「え、ち、ちょっ!?」


 俺は山下さんに手を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られながら、プリクラ機がある方へと連れられていく。

 やはりプリクラ機の前には今時の女子高生やカップルと言ったリア充オーラが高濃度で蔓延していた。そのオーラに充てられた俺は思わず、吐き気やめまいなど状態異常を引き起こしているのだが、山下さんはそれに気づかず、迷わずに一つのプリクラ機に入っていく。

 中に入ると、小さなスタジオみたいな感じになっていて、初めて入った俺は辺りをキョロキョロと見回してしまう。


「わ、私……実はプリクラは初めてで……」

「でしょうね」


 初めてゲーセンに来たと言っているレベルだし、なんなら長年ゲーセンに行っていた俺ですら初めてだ。

 とりあえずはお金さえ入れておけば、あとはどうにかなるだろう。

 俺は財布から四百円ほど取り出して、硬貨投入口に入れる。

 それからして画面に表示される説明通り操作を進めていき、撮影が始まる。


「ど、どんなポーズをとっていけばいいでしょうか……?」


 たしかに。なんのポーズもとらないままであれば、ただの証明写真みたいな感じになってしまう。普通にピースとかであってもつまらない。


「まぁ、画面にポーズの例とか出るらしいからそれを真似したらいいんじゃないか?」

「そう、ですね」


 山下さんはどこか緊張した面持ちで表情が硬い。一方で俺は元からこういう顔だから、もっと笑ってとか言われても笑わないし、逆に引きつった感じになって気持ち悪いと言われた過去すらある。

 写真というものはそもそも自然な感じを収めるためにあると俺は思う。よく風景の写真だったり、戦場の様子をカメラに収める人とかいるでしょ? あれはすべて自然そのものだ。写真を撮るからと言って、その時にだけ起こったものではない。

 よって俺はありのままでいようと思う。一応、隣で山下さんが画面に沿ってポーズを取っているため、同じようなポーズをとってはいるが、俺は笑わない。

 笑わせたかった笑わせてみろや。オラァ!

 そして、いろいろなポーズをとりながら撮影をし続け、とうとう……いや、やっと最後の撮影になった。

 画面は次のポーズに切り替わる。


「これはさすがに――」

「やりましょ」

「は?」


 画面が見えてないのだろうか? 画面に表示されたポーズは、互いが向き直り、互いの両手で相手の顔を挟み込むというものだった。

 これをやる気か? マジで? 正気で言ってるの?

 俺たちはカップルでもなければ、まだ友だちと呼べる関係性なのかも疑わしい。強いて言うなら、今日やっと知人になった。

 そんな二人がこんなカップルでしかやらないようなポーズをやる? 無理無理無理無理!


「やめてこう。別にもう十分に写真は撮っただろ」

「なんでですか?」


 山下さんは意味が意味が分かりませんと言いたげな顔をしている。逆に俺が訊きたいわ。


「これはポーズなんですよね? なら、いいじゃないですか」


 山下さんはそう言うと、俺に向き直り、俺の顔を両手で挟み込む。

 俺は唖然としながらも、山下さんの早くやってくださいというような目線を向けられ、仕方なく、本当に不本意ではあるが、恐る恐る両手を近づけて小さな顔を挟む。

 山下さんの肌は本当にすべすべしていて、赤ちゃん肌みたいだ。

 お互いの距離が近いということもあってか、女子特有の甘い匂いが鼻を刺激し、ぼーっとしてしまう。

 ――何このラブコメ展開?

 急にではあるが、無意識でも山下さんのことを少し意識してしまう。

 やがて撮影が終わると、すぐにお互いとも離れる。


「次は、デコレーション? というものをやるみたいですね」

「そ、そうみたいだな」


 山下さんは先ほどのことを気にした風もなく、スタジオから出ると、すぐ傍にあるデコレーションをする場所へと移動していく。

 普通の人であれば、躊躇してしまうようなポーズを照れる仕草もなければ、恥ずかしいという感じもなく、平然とこなしたあたり……鈍感、なのか?

 恋愛に対しては疎いのか、それともただのポーズとして割り切ってやっていたのか……分からん。何を考えているのか、さっぱり読めねぇ。


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